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3 いざ、隣国へ



 魔光石に照らされ、青い神秘的な洞窟を進みます。

 私は、洞窟に入った後、すぐに用意していた平民の衣装に着替えました。ズボンをはきたかったのですが、アンに却下されて最近はやりのひざ下丈のスカートをはくことになりました。学園の制服と丈の長さは変わらないので、違和感はないのですが・・・ただ、いつもより軽い材質なので、風が吹いたらめくれそうで怖いです。

 上から羽織った、茶色のロングコートが守ってくれることを祈りましょう。


「隣国に着いたら、私も羽織るものを買おう。寒いだろうし、この格好は平民に見えないからね。君たちといるのが不自然になってしまう。」

「それがいいわね。隣国の通貨は用意してあるから、すぐに買いましょう。」

「では、アンはその間に馬車の手配をいたします。」

 洞窟を抜け、隣国へたどり着いたなら、国境をすぐに離れる予定でした。しかし、それは私が追われる身の場合。今回は予定と違うので、馬車をすぐに手配する必要はありません。


「お嬢様、あの玉が隣国にも現れている可能性があります。そして、現れる可能性が高いのは、我が国の近くでしょう。」

「あ、そうですね。では、とにかく国から離れましょうか。これでは本当に予定通りですわね。」

「先ほどから気になっていたのだが、予定通りとは?それに、なぜこのような洞窟を用意していたんだい?準備もすぐにできたようだし・・・」

「!そ、それは・・・」

 死罪になった時のための用意とは言えない。ディーになんと説明すればよいのでしょうか?怪しくない言い訳が思いつきません。


「レナ?」

「・・・私は・・・」

 悪役令嬢なの。そんなこと通用するわけがありません。頭がおかしくなったと心配されるのがオチです。なら、作り話をするしかありません。


「ハインリヒ様を、お慕いしていますの。」

「知っているよ。君の態度を見れば、君の一番の友人を自負する私が、分からないわけがない。それで?」

「ですが、最近不安になってしまって。ハインリヒ様をお慕いする方は多いです。それはとっても喜ばしいのは当然。ですが、私にはほの暗い感情が宿る時があります。ハインリヒ様が、他の女性に笑いかけた時、楽しそうにお話をなさっている時・・・私の心は穏やかではいられません。」

「レナ。それは、恋をする者は誰でも味わう経験だ。仕方がないことだよ。」

「そうですね。ですが、私は自分自身が恐ろしいのです。いつか、穏やかでない心の時に、過ちを犯してしまうのではないか?そう思ったとき、私は過ちを犯す前にハインリヒ様の前から消えようと考えたのです。」

「そんなっ!それは、ハインリヒだって悲しむ!私だって・・・消えるだなんていわないでくれ!」

「・・・もしもの話ですわ。準備をしておいて、よかったです。そのおかげで、国のために動けるのですから。」

「・・・レナ。」

 ディーに笑いかけると、ディーは立ち止まって私の手を取りました。


「お願いだレナ。今約束してくれ。私の前から消えないと。」

「ディー?」

「君は、僕にとって最高の、掛け替えのない友人だ。そんな君が消えてしまったら、私はどうしたらいいか、わからない。ハインリヒが原因というのなら、あいつをどうにかしてしまうかもしれない。」

「な、何を言っているのですか!」

「例えばの話だよ。だから、そうならないように約束してくれ。」

 真剣にこちらを見つめるディー。私は、ここまで友人として大切にしてくださっていたのかと、嬉しくなりました。だから、もしもその時が来たときは。


「消えない約束はできません。ですが、消える前にあなたには伝えます。だから、どうかそれを止めないでくださいね?」

「・・・わかった。でも、それなら私が追うのも許してくれる?連れ戻すなんて言わない。一緒に連れて行って欲しいんだ。」

「・・・ありがとうございます。でも、それはその時に決めてください。人の心なんて、その時になってみなければわかりません。ですが、今のあなたの心はありがたく受け取りました。」

「未来の私の心も受け取ってほしいよ。」

「お嬢様、お話がおすみでしたら、お進みください。」

「アン、ごめんね!ディー、行きましょう。日が暮れては、動きにくくなるわ。」

「そうだね。」

 私たちは、再び奥へと進み始めました。


 数時間後。目的の場所に着きました。

 入口と同じように空けられた穴は、私が魔法で空けたものです。私は、得意な魔法というものがなく、これは土魔法を使ったものですが、土の使い手なら数分で空けられるような穴も、私は1時間ほどかかります。

 魔法には、水や火、風、土、光、闇などがあります。そのどれも私は扱えますが、どれもなぜか極められないのです。使えるのは、初歩の簡単な魔法のみ。貴族の間では、得意な魔法があるのは当たり前で、一つくらいは使い手と呼ばれるレベルに魔法が使えるものです。


 おそらく、悪役令嬢なのが問題ですね。私が魔法の使い手だとしたら、ヒロインはあっけなく死んでしまうでしょう。魔法によって。


「それでは、今度は私から穴に入りますね。」

「では、次はアンで、友人様は殿をお願いいたします。」

「友人様?・・・わかった。」

 アンの呼び方が引っかかったようだが、何も言わずにディーは了承しました。

 私は、暗い穴の中に入ります。手には、魔光石を持って道を照らしながら進みました。こちらは、入り口とは違い短い穴ですので、すぐに行き止まりにたどり着きます。

 私は、呪文を唱え、土魔法を発動させました。目の前の行き止まりの土が両脇に動き出し、3歩ほど進めるようになりました。

 土魔法は、土を移動させるという単純な魔法です。高度になってくると、土の品種改良のようなこともできますが。


「ところで、この先は本当に隣国なのかい?」

「ご安心ください。アンの方向感覚は完璧です。このアンが保証します。」

「方向感覚って・・・それだけで、わかるものなのかい?」

「他にも、優れた感覚を持っていますので、それを併用した結果、この先に隣国があることは確定です。」

「・・・そう。ま、すぐにわかることだから、いいか。」

 2人の会話を耳に入れながら、私は2回ほど魔法を発動させ、さらに奥へと進めるようになりました。


 予定では、あと2回ほど魔法を発動させれば、外へ抜けられます。

 そして、無事2回魔法を発動させると、数時間ぶりに見る太陽の光が広がりました。


「眩しい。」

「お嬢様、おさがりを。アンが様子を見てきます。」

「よろしく。」

 体を端によけて、アンが通れるように道を開けると、素早い動きでアンは外へ行ってしまいました。


「今更だけど、彼女普通の侍女ではないね?」

「はい。私の護衛も兼ねていますので。」

 それは表向きの紹介ですけど、わざわざ本当のことを言う必要もないと思い、そう答えました。私は気づいていないことになっていますし。


 彼女の正体は、お父様が雇った暗殺者。そう、お母様を殺す予定だったのは、アンだったのです。依頼者はもちろん、アンを雇っているお父様。ゲームの設定ですけどね?


 アンには、今のところお父様から暗殺の命令は下っていないそうです。おそらく、私にアンが心から使えていることに、気づいているのでしょう。私がお母様を失えば悲しむことくらい、予想はできるはずです。なので、アンは使えないと思ったのでしょうね。


 これでお母様の死が回避できる・・・とは、思っておりません。おそらく、お父様は別の暗殺者を雇い、お母様を亡き者にすることは明白。暗殺者などいくらでもいますからね。


 ちなみに、ゲームの私も、お母様を殺したのがお父様というのには気づいていました。そして、気づいてしまったからこそ、ヒロインへの嫌がらせはエスカレートしたのです。


 男は裏切るもの。

 それが、ゲームのヘレーナの認識。そして、そうであるなら男である王子も、ヒロインを裏切るのではないか?ヘレーナを裏切ったのです、ヒロインを裏切る可能性もあると、思ったのでしょうね。


 この時、すでに王子がヒロインに心を奪われていることは、公然の事実でした。なので、ヒロインに嫌がらせを続け、ヘレーナはこう告げるのです。


「辛いのね、マリア。私も辛いわ。でも、それはすべてハインリヒ様がいけないの。ハインリヒ様が、あなたを愛するから、私も貴方も辛いのよ?」

 その言葉で、マリアが王子に怒りをぶつければいい。そう思ったのでしょう。そうすれば、王子も愛想を尽かすと。そんなのうまくいくわけ、ありませんのに。



「お嬢様、確認が終わりました。どうぞ、こちらへ。」

「わかったわ。ディー、行きましょう。」

「あぁ。足元気を付けてね。」

「えぇ。」

 こうして、私たちは隣国の地へとたどり着いきました。すべてが予定通り。




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