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27 公爵令嬢ヘレーナ



 婚約者を愛しているかですって?もちろん・・・愛していませんわ。

 だって、私は公爵家の令嬢・・・婚約は政略でしかありませんもの。


 サラサラの金の御髪に、火の使い手の象徴であるような赤い瞳の王子。私の婚約者ですわ。見目もよろしく、文武両道であり紳士な婚約者は、優良ですね。


 珍しい銀の髪に青い瞳。一応水の使い手として通っていますが、ほぼすべての魔法を扱うことができ、聡明。淑女の鑑として育てられた私は、優良ですね。問題があるとすれば、ただ一つ。禁血であること。

 ですが、些細な問題ですわ。


 お似合いの2人。これが私たちの評価でした。




 私たちは、学園に通うことになりましたが、過度の接触はせずに、婚約者として節度のある距離を取り、かつ親密さを周囲に知らしめる程度の交流を行っていました。

 お互いに溺れるほどではないですが、失えば心を痛める程度の親密さを知らしめることが、私と王子の仕事でした。

 そう、仕事でした。


 淑女の鑑である私は、とある出会いによって、消え去ることになります。それによって、仕事ではなくなってしまったのです。


 王子の目の前に、マリアという女性が現れました。男爵家のご令嬢が何を血迷ったのでしょうかって?いいえ、近づいたのは王子です。


 マリアは、水と光の使い手でした。2つの魔法の使い手は貴重で、おそらくその力に目を付けて、王子は近づいたのでしょう。理解いたしました。


 笑いかけるのも、優しく名を呼ぶのも、軽く触れるのも、すべてが必要なことです。

 たとえ、婚約者の私がいたとしても、マリアの力を考えれば、必要なことです。王子は、私の力を知りませんから、仕方がないのです。


「ハインリヒ様は、私の婚約者です。色目を使わないでいただけるかしら?」

 王子とマリアを目の前にして、私の口は勝手に動き出しました。


 私は、自分のものを奪われたと感じて、それが許せなかったのです。私は、王子にすべてを捧げる身、ですから王子の全ても私のものです。

 それを、この女は奪おうとするのです。


 王子はただ、この女の力しか見ていないのに。




 王子は、私がマリアにきつい言葉を浴びせると、最初は驚いていましたが笑って私をなだめました。そして、マリアに謝ります。


 私の言葉で、マリアが懲りてくれればよかったのですが・・・王子とマリアは共にいることが多くなりました。

 そのたびに私はきつい言葉をマリアに浴びせ、王子が笑って私をなだめ、マリアに謝るという流れができました。


 ですが、それも終わりです。

 ある日、王子も・・・私が淑女の鑑でなくなったと同じように、別人のようになりました。


「いい加減にしないか!ヘレーナ嬢!」

「は、ハインリヒ様?」

 怒鳴りつけられることなんて、今まで一度もありませんでした。なので、私は驚き固まります。それを見た王子も一瞬ばつの悪そうな顔をしましたが、続けます。


「マリア嬢とは、友人だ。いくら俺の婚約者といえども、友人関係にまで口は出されたくない。今後はこのようなことをするな。」

「・・・わかりました。」

「そうか。・・・怒鳴って悪かったな。わかってくれたなら、俺は何とも思ってない。」

「・・・」

「行こう、マリア嬢。」

「で、ですが・・・」

 王子は、マリアの腰に手をやり、私の前から去りました。


 わかりました。これが、私が求めていたものなのです。


 王子は、強い感情を私に向けました。それは、怒りという負の感情ではありましたが、今まで私に向ける感情の中で最も強いものです。私は、それが欲しかったのです。


 もっと・・・


 王子に強い感情を向けて欲しいという、ゆがんだ願いを知った私は、行動に移します。

 マリアが悲しめば、王子が怒りを向けて来るでしょう。マリアを悲しませなければ。言葉だけでは駄目です。


 もっともっと、辛い目に。


 精神的にも、肉体的にも。


「これ、運んでくれるかしら?」

「え、ノートですか?」

「えぇ。クラス全員分のノートよ。私は少し用事がありましてお手伝いできませんが、よろしく頼みましてよ?」

「そ、そんな!こんなにたくさん無理です!」

「頼みましたわ。行きましょう、みなさん。」

「それでは、ごきげんよう、マリア様。」

「男爵家のご令嬢は、使用人の真似事もなさるのでしょう?でしたら、これくらい余裕ですわよね?私では到底無理ですわ。」

「私も。応援していますわ、マリア様。では、ごきげんよう。」

 新たに作った取り巻きと共に、優雅にその場を去ります。もちろん、ここに王子は来ません。助けに来ることができないタイミングに、お願いをいたしましたので。


 金銭的にも。


「え・・・私のカバン・・・」

「どうかいたしましたか、マリア様。」

「へ、ヘレーナ様!」

「確か、私のカバンと呟いていましたね、ヘレーナ様。きっとあれのことですわよ。」

「あぁ、あれですか。あれはひどいものでした。乞食が迷いこんで捨てて行ったのかと思いましたわ。」

「酷い匂いでしたものね。」

「皆さん、そう言っては可哀そうですわ。もしかしたら、マリア様の持ち物かもしれないのですから。マリア様、マリア様の物かはわかりませんが、校舎裏の茂みにカバンらしきものが落ちていましたわ。」


 そう、私たちが持ち出して、中身をぶちまけ、踏みつけ、残飯を上からかけた・・・マリアのカバンです。

 もちろん、残飯は平民に持ってこさせて、マリアのカバンにかけさせました。金さえ渡せば、何でもやりますからね、便利な道具ですわ。


 マリアは、私たちの言葉を聞いて、走り去っていきました。




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