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24 禁血



 お母様は、次々と白い玉を出現させます。その白い玉に襲われて、倒れる人々を横目に、私たちはゆっくりと出口へと向かいます。焦っても仕方がありません。

 玉の動きを見て、玉に襲われる確率が少なそうな場所を選び進みます。それでも襲ってきた玉は、王子とディーが剣で弾き飛ばしています。


「レナっ!」

「お父様?」

 私を呼んだのはお父様です。私へ手を伸ばそうとしていますが、ディーが間にいるので私に触れることはできません。


「レナ、私も一緒に・・・一緒に連れて行ってくれ。このままだと、あの女に殺される!」

「・・・あの女?」

 誰のことでしょうか?私はとりあえず普通にお父様と会話を続けますが、周囲ではいまだに騒ぎは収まっておらず、王子とディーは玉を警戒しながらもお父様を睨みつけています。


「ティナだ。あいつは、おかしくなった。お前が禁書を使ったなどと戯言を口にして、私がお前との縁を切るように仕向けた・・・それに何の意味があるかはわからないが・・・とにかく、お前といれば安全なはずだ。私も一緒に連れて行ってくれ。」

「・・・お母様に殺されると・・・お父様は思っているのですか?」

「私だけじゃない、ここにいる全員をティナは殺す気だろう。ただ、お前だけは実の娘だ、きっとお前だけは殺されない!」

「お父様、貴方様だって、お母様の伴侶ではありませんか・・・」

 娘だからお母様が私を殺さないと主張するなら、夫だからお父様は殺されないという考えになるべきです。


 お母様は、何度殺されようとも、お父様を愛して何もせずに殺され続けました。そんなお母様の愛を、なぜ信じられないのですか?あぁ、あなたには記憶がないのですね。


 お母様には、記憶がありました。

記憶は少しあいまいですが、たしかにお母様と私は、何度もこの人生を歩んできたのです。だから、お母様の死を、お母様と私は知っていました。そして、私は抗おうとし、お母様は抗わずに何度も生きて殺されました。


 なぜ、今までお母様も同じように歩んできたということを忘れていたのでしょうか?いつもなら、お母様も同じだということも思い出して、私はお母様にべったり甘えていたというのに。


 あぁ、でも・・・今回のお母様は、何もかもが違います。お母様が違うから、私も違ったのでしょうか?しっかりと思い出せないのでしょうか?


「政略結婚だ。そこに愛なんてない。」

「・・・わかりました。ハインリヒ様、ディー・・・お父様も守っていただけますか?」

「レナ、本気か?」

「守る義理なんてないだろう!公爵は、レナとの縁を切ったんだよ!?」

「それは、あの女にはめられたんだ!」

「しかし、レナとの縁を・・・俺とレナの婚約を無効にしたのは、あなたで、あなたの意志だ。俺は、あなたを許せない。」

「ハインリヒ様・・・」

 私との婚約を無効にされたことを許せない、ということはそういうことですよね?


「ありがとうございます。ディーも。ですが、私にも考えがありますの。ですから、どうかお父様も守っていただけませんか?」

「考え?・・・レナがそこまで言うなら。」

「わかった。しかし公爵、剣くらい構えていてください。守られているだけのお荷物は邪魔なだけなので。」

「私は、剣の扱いがうまくないが・・・わかった、構える程度ならできる。」

「あ、では私も剣を・・・」

「レナはいい。俺とディーが絶対守るから。でも、いつでも魔法を放てるように準備しておいてくれ。」

「はい、それはもちろんしていますわ。といっても、下級の魔法しか打てませんが。それに、玉は魔法を吸いますので・・・」

「それでも時間稼ぎにはなる。よし、ディー急ぐぞ。玉がだいぶ増えてきた。」

「そうだね。それにしても、君の母君の魔力量は多いようだね。それとも、あの禁書燃費がいいのか?」

「それはないだろう。禁書と呼ばれるものは、効果が大きく必要とする魔力量が多いものだ。」


「あの女の魔力量はかなりのもののはずだ。なんせ、禁血だからな。」

「きんち?・・・はっ!まさか、あの禁血か!」

 王子が驚くのも無理はありません。私も驚くと同時に、また記憶が鮮明になりました。


 禁血とは、遥か昔禁書をその体に宿された人間のことを言います。どのようにそんなことを行ったのかはわかりませんが、禁書を宿された人間は、その禁書と同じ魔法・・・禁術を扱えるようになります。そして、それは遺伝します。

 もとから、禁書を宿すことができる人間は魔力量が多く、禁血の人間は潜在的に禁書を宿すことになるので魔力量が多く生まれてきます。

 なので、禁血と呼ばれる人間は魔力量が多く、一つ以上の禁術を扱うことができる人間ということになります。


 通常、禁血は国の厳重な管理下に置かれますが、中には一族で秘匿保護されている者たちもいます。母は、後者でした。


 私も。


 私はそれを思い出したことで一つの違和感を感じました。それは、私の中に禁書があるような気がしないのです。

 そして、記憶もあいまいで、禁術を使っていたのは思い出せますが、それがどのようなものだったのかを思い出せないのです。


「大丈夫だ。」

「え?」

 黙り込んだ私を心配してくださったのでしょう、王子が私の肩を抱き寄せます。


「俺が必ず守る。」

「ハインリヒ様・・・」

「決意はいいと思うよ?でもさ、状況を考えようね、ハインリヒっ!」

 ディーが、私たちの背後にいた玉を突き刺しました。


「す、すまない。」

「謝ればいいって話じゃないよ?レナも、気持ちはわかるけど、今はここを出ることだけ考えて?死んでしまっては遅いのだから。」

「ごめんなさい、ディー。」

 前世の記憶は、このことが終わってから掘り下げていこうと思ったのに、私はだめですね。




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