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22 私は悪役令嬢ヘレーナ



 禁書が使われたというのは、私たちも予測していました。そして、使われたのは伯父様の作ったアナフタツの書。しかし、その書の存在を知らないこの国の人々は、七禁書「喰らいの書」だと考えているに違いありません。


「この現象が禁書によるものだと、誰もが思っているでしょう。実際、私も禁書によるものだと思っています。そこでお聞きいたしますが、どのような禁書が使われたと考えていますか?」

「喰らいの書だ。説明しろ。」

 王が宰相に説明を求めたので、宰相は前に出て話し始めます。


「喰らいの書とは、ご存じの方も多いかと思いますが、七禁書と呼ばれる禁書でございます。七禁書は、禁書の中でも特に危険なもの、国を脅かすような禁書のことを指します。今回の被害は国規模であることから、七禁書が使用されたと結論付けました。」

 大臣は一度王に目配せをしました。すると王は頷きます。


「これは、王族のみに継承される知識ですので詳しくは申せませんが・・・喰らいの書が発動された場合に起きる現象と、今回の減少は共通点が多いのでございます。それも加味しての結論です。」

「つまり、国は七禁書「喰らいの書」が使用された。そして、それを発動させた可能性があるものとして、禁書を使用したという疑いのかかったヘレーナ嬢が最も怪しいと考えている。しかし、ヘレーナ嬢が言うことはもっともなことである。」

「はい。七禁書は王家で厳重に管理されており、陛下が確認されたところ、使用された様子はないとのことです。もちろん、何者かが侵入した痕跡もありませんでした。」

 なら、どうしてこのようなことが起こったのかを、誰も知らないということです。この現象を引き起こした者以外は。

 私と伯父様・・・犯人以外は知らないことです。


「それが答えではないでしょうか、陛下。」

「それは、どういう意味か、ヘレーナ嬢。」

「そういう意味も、そのままの意味ですわ。もっと、国に忠誠を誓う優秀な者たちを信用なさってはいかがですか?そもそも、七禁書は使われていなかった。この現象は、七禁書の効果ではないと断言いたしましょう。」

 私の言葉に、王は興味を示した顔をします。


「なら、何が起こったのか・・・説明できるであろうな、ヘレーナ嬢。」

「そうですね・・・ハインリヒ様がそれを望むのでしたら、お話ししましょう。」

「何を言っている?」

「・・・え、俺?」

「そうですよ、ハインリヒ様。あなた様は、私に何を望みますか?私が処刑されることを望みますか?」

「しょ・・・そんなこと、望むはずがないだろう!」

「だって、ハインリヒ様・・・私が邪魔なのでしょう?」

 私は、何を言っているのでしょうか、こんな時に。でも、動く口を止められません。積年の思いが、あふれ出します。


 ずっと、あなた様は・・・私を苦しめた。どうして、私を見てくださらないの?婚約者だなんて、形だけだと・・・思い知らせるの?


 これは、何?私は、こんなことを考えたことはありません。ないはずです。



―それ、乙女ゲームじゃないでしょ。


 ハナの言葉がよみがえると同時に、何かのピースがはまったような気がしました。


 仲睦まじく過ごす、マリアと王子の描写。


 王子の魔法で焼かれる悪役令嬢。


 鏡に映る悪役令嬢の、復讐者の瞳。


 婚約破棄を言い渡された時、王子を見下ろす視点・・・すべてが、悪役令嬢の視点なのです。



 陰から2人を見つめ、炎の中から2人を睨み、鏡に映る自分に復讐を誓って、見損なった王子を見下ろした・・・私。



 私は、悪役令嬢ヘレーナ。正真正銘のヘレーナだったのです。

 ゲームの知識ではない、正真正銘私の記憶・・・



 私は、何度も何度も死んでは時を戻って、ヘレーナとして過ごしました。それが、何度もバッドエンドを迎えるヘレーナのことを知っている理由でした。

 王子に付きまとうマリアを隠れて見ていた私の視点は、ゲームに似た第三者の視点として、記憶にあります。だから、ゲームだと思って、思い込んでしまったのでしょう。そのほうが楽ですから。


 何度も殺されましたから。


 愛している王子に、何度も婚約を破棄されて、殺されたのです。こんなにも悲しいことはありません。


「レナ・・・っ」

 王子の戸惑った声が耳に届きますが、私には王子の姿がはっきりと見えませんでした。涙で歪んで・・・でも、大好きになった赤だけは見えています。


「私がいない方が、あなたは幸せになりますか?ハインリヒ様。」

「そんなの嫌だ!俺は、君がいない人生なんて!」

 すぐ近くに聞こえた大好きな声。次に私の体は圧迫・・・抱きしめられたのでしょう。ちょっと力強すてせき込みましたが。


「あ、ごめん。でもレナ・・・俺には君だけだから!俺は、君以外ど・・・ごほんっ!君以外と結ばれる気はない。邪魔だなんて、思ったこともない。」

「・・・」

「信じられないか?」

「そうですね。」

「え・・・」

 仕方がないでしょう、何度も殺されているのですから。

 婚約破棄だってされていますし。


 涙をぬぐって、王子の顔を見上げました。

 呆然とした王子の体から離れて、私は王に向き直ります。


「お騒がせいたしました。どうやら、ハインリヒ様も私をお望みと・・・口では言っていますので。」

「レナ!?」

 私は、前世の記憶をいったん忘れ去ります。これは、後に考えればいいことです。なので、今考えるべき、今すべきことを進めます。


「私は、おそらくこの現象を引き起こしたモノと人を知っています。」

「自信があるようだな。なら、話してみよ。」

「・・・それが、人にものを頼む態度でしょうか、陛下。」

 私の言葉に場が凍り付きました。


 申し訳ございません、前世の記憶をいったん忘れ去ることはできなかったようです。


 私は、前世で勇気を振り絞って、王に頼みごとをしたことがあります。それは、お母様が殺されるから守ってほしいというものでしたが・・・全く聞き入れてもらえませんでした。私、これでも王子の婚約者ですの。つまり、未来の娘・・・その母の命を守ることもできないボンクラを・・・


「この程度もわからないおつむで、国が回せるのですね?」

「不敬だぞ!」

「えぇ、敬意なんて持っていませんもの。だって、私の役に立つ人なんて、この国にはいませんからね。」

「・・・お主・・・」

「殺せ!このものを殺せ!」

 貴族が喚き散らしています。汚いですね。


「全く、うるさいわねぇ・・・自分一人では何もできない、駒にもならない男のくせに。」

「え?」

 響き渡ったのは、美しく凛とした声・・・お母様の声です。


「ヘレーナ嬢・・・あなたの相手は、そんな小物ではないでしょう?」

「おか・・・公爵夫人・・・」

「そう、私が・・・私だけがあなたの相手。そこの、玉座にただ座って偉ぶっている男や、雁首揃えて突っ立っているだけの男たち、あなたの隣で遠い目をしている情けないクソ男。どれも、あなたの相手にはふさわしくないわ。」

 お母様の言葉に、騒ぎ立てる貴族たちですが、その声が私には遠い世界の出来事のように聞こえます。膜を通したように、小さな声。お母様の声だけが明瞭に聞こえるのです。


「さぁ、私を突き落としてみなさい。」

「!」

 それは、楽しそうに、それが望みだと言わんばかりに、お母様は微笑みました。


 これに、何の意味があるのでしょう。

 ですが、私はお母様を突き落とすと、罪人にすると決めました。


 今度こそ、ハインリヒ様の愛を勝ち取り・・・お母様以上に愛せる人になって頂きたいと思っているのです。




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