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21 悪役令嬢は、婚約破棄を望んだ?



 厳しい視線が私に降り注ぎます。

 私は、禁書使用の事実を否定しました。それは、本当に嘘偽りのないことですが、真実と証明しなければ信じてはもらえません。そして・・・


「ヘレーナ嬢、お主の言葉がどういう意味なのか、分かって言っているのであろうな?」

「もちろんですわ。私は、禁書を使ってなどいません。それが真実であると、主張いたします。なので、私は実の母を虚偽の証言をした者として、訴えさせていただきます。」

「・・・どのみち、話は聞かねばならぬ。公爵夫人、証言台へ。」

 王の言葉に従い、新たに証言台が作られました。私も移動するよう求められて、王から見て右前に私、左前に証言台が設置されました。


 そして、その証言台に立つのは、私と同じ髪と瞳を持つ、お母様・・・私を禁書使用の犯罪者として訴えた証人であり、私に国を偽ったと訴えられた被告人でもあります。


「困った子ですね。母までその罪過に巻き込もうというのですか?あぁ、もう母ではありませんでしたね。ヘレーナ嬢、あなたの罪を証言させていただきますよ。」

「楽しみですわ。どのような空想をあなた様が描いているのか、生まれてからずっとおそばにいましたけれど、あなた様に空想癖があるとは存じ上げませんでしたわ。」

「ふふっ・・・あなたは自分の罪と素直に向き合うべきだわ。」

「その言葉、そのままそっくりお返しいたしますわ。」

 笑みを浮かべたままの応酬。なぜか、周囲の方々の顔が青ざめているような気がしますが、気のせいですよね?私とお母様くらいしか、青ざめるようなことになっていませんもの。


 私が負ければ、禁書使用の罪で、処刑・・・

 お母様が負ければ、国を偽った罪で、投獄・・・


 どちらにせよ、もうお母様とは会えなくなりそうですね。



 お母様は、私にとって憧れです。

 それは、ゲーム知識を思い出す前も後も同じで、私はお母様のことを尊敬していました。お母様のようになりたいと、本気で思っていました。


 あんな父を、愛したお母様を。

 殺されると分かっているのに、それでも愛しているからと、父に手を出さなかったお母様を・・・あれ?


 殺されると分かっている?


 なぜ、そんなことを思ったのでしょうか。まさか、お母様がご自身の死を知っているわけがありません。そんなことはあり得ないのです。


 私が勝手に、ゲームのお母様を見てそう感じただけでしょう。儚げに笑うお母様。数少ない、父がそばにいるときに見せる、愛に満ちた瞳・・・愛に満ちた瞳?


 そんな目で、お母様は父を見ていたでしょうか?


 どうやら、乙女ゲームの知識と現実が混ざってしまったようです。どれが現実でしたっけ?



「ヘレーナ嬢は、王子との婚約を疎ましく思っていました。」

「・・・はい?」

 混乱する私は、母の言葉にさらに混乱いたしました。私が王子との婚約を嫌がっていたと、母は言っているのです。そんなこと、一度も言ったことがありません。

 だいたい、私は王子のことが好きだと前面に出しています。それは、お母様が素直になりなさいというアドバイスをくださって・・・っ恥ずかしくても、何度だって気持ちを言葉にしました。


 誰がこんなバカげた話を信じるのでしょうか。


「や、やはり・・・そうなのか。」

「・・・はい?」

 私が拾った声は小さいものでしたが、それでも好きな人の声なのです、ちゃんと拾いました。拾って、耳を疑いました。


 王子の方を見れば、顔色が優れないようです。泣きそうな顔をして呆然と座っています。

 どういうことでしょうか?先ほどまでの信頼はどこへ?なぜ、ここまで私の愛を信じてもらえないのでしょうか?潔白は信じていただけても、愛は信じていただけないようです。


「そうだと思った。」

「・・・」

 いつの間にか貴族たちの最前列にいたディーが、こぼします。ここにもいました。私の一番の親友ですが、私の言葉は届いていなかったようです。ディーにも、ハインリヒ様を慕っています、と何度も言ったはずですが。

 それにしても、こんな最前列に来て大丈夫なのでしょうか?前に出たがる貴族たちの中で、若輩のディーが前に出るのは眉を顰められることでしょう。

 と思ったのですが、なぜか前に出ていた貴族は先ほどより後ろに下がっていました。そういえば、先ほど青ざめていましたから、体調がすぐれなくてさがったのかもしれません。


 私とお母様の応酬が怖かったということは、ないと思いますよ?


「ヘレーナ嬢は、王子との婚約を解消することを望みました。しかし、ヘレーナ嬢からそれを申し入れることもできず、周囲の祝福ムードから相談することさえ叶いません。ヘレーナ嬢の悩みはわかっていましたが、私にもどうすることもできませんでした。」

 この話、続くのですね。


「殿下と会った後は、いつも顔色が悪く、私が殿下の話を聞くと、さらに顔色を悪くしていました。時には顔を赤くして怒っていることも・・・」

 それは、最後のお茶会の時の話ですね、お母様?確かに顔色は青くなったり赤くなったりしていましたが、赤いのは怒ったではなく照れていたのです。わかっていますよね?


 王子の顔色がさらに悪くなっています。なぜですか。本気でこんな話を信じているのですか?ちょっと、怒りますよ?


「相当追い込まれていたのだと思います。そして、思い詰めて正常な判断ができなくなったヘレーナ嬢は、この国を恨みました。王子と婚約させたこの国を。自分を縛る国を恨みました。」

 正直、この国なんてどうでもいいです。王子の愛が手に入らないのなら、この国を大切にする必要もありません。その程度なのです。


「最初は、婚約破棄だけを望んだだけでしたが、それができないと分かると、国の滅亡を願ったのです。」

 婚約破棄から国の滅亡・・・いきなりスケールが大きくなりましたね。相当病んでいたのですね私。・・・て、このような話誰も信じないでしょう、さすがに!


「・・・」

 王子の目の焦点が合っていませんでした。完全に心ここにあらずという状態ですね。

 もう、我慢できません。


「妄想はそれで終わりですか?国の滅亡を願って、禁書を使用したと、あなた様はおっしゃるのですね?」

「えぇ。やっと罪を認める気になったの?」

「馬鹿馬鹿しいですわ。」

 私は冷たくお母様を見据えました。


「私は、禁書など触ったこともありません。」

「あなたは、目の前で禁書を発動させたわ。あの、最後のお茶会でね。」

「あなた様の言葉は嘘ばかりですわ。薄っぺらい嘘を重ねて、お話にもならない。まず、最後のお茶会・・・私はいつ禁書を発動させたのですか?」

「あなたが、隣国へ逃亡する直前よ。」

「その時、私とあなた様以外にベネディクト嬢と侍女がいました。2人に証言していただければ、あなた様の言葉が嘘だと知れるでしょう。」

「・・・」

「そもそも。そもそもの話です。みなさん、私はお聞きしたいのですが。」

 私は、周囲を見渡しました。


 興味深げに聞く貴族たち、厳しい顔の王、青い顔の王子を見て、最後にお母様を見ます。


「そもそも、どうやって、私は禁書を手にしたのでしょうか?そして、その禁書は今どこにあるのでしょう?」




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