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15 誰の目線?



 悪役令嬢ヘレーナは、王子の婚約者。しかし、その関係は冷え切っていました。

 義務としてヘレーナに接する王子、それに対して何も言わずそばにい続けたヘレーナ。そのままであったなら、悪役令嬢は誕生しなかったでしょう。


 ヒロイン、マリアが王子の目の前に現れてから、すべてが変わりました。


 男爵令嬢のマリアは、水と光の使い手の優秀な生徒として、学園に現れます。王子は、つながりを持っておく必要性があると判断し、マリアに近づきました。

 そして、そんな些細なことが、すべてを壊したのです。


 楽しそうに談笑する2人。

 仲睦まじそうに朝食を共にする2人。

 放課後、生徒会室で共に過ごす2人。


 誰もが噂をするのです。何もない、ただ地位だけあるヘレーナよりも、地位はないが2つの魔法の使い手で、成績優秀の誰にでも優しいマリアが、王子にふさわしいと。


 その頃から、ヘレーナはマリアに自身が王子の婚約者であることを強調して、わきまえるように言いつのりました。


 マリアが王子のそばにいれば、ヘレーナはわがままを言うようになった。甘えるようになった。自身を見て欲しいとばかりに、その行為はエスカレートしていくが、それに応じるたびにため息をついているばかりです。


「ハインリヒ様は、私の婚約者です。色目を使わないでいただけるかしら?」

「そんな、色目なんて。私はただ、友人としてそばにいるだけです。」

 何度も行われたその会話。ヘレーナからマリアへの言いがかりはエスカレートし、同時に持ち物が紛失したり、いたずらされることが多くなっていきました。


 そして、その日決定的なことが起こります。


 パシンっ。

 乾いた音は、ヘレーナがマリアの頬を叩いた音です。流石にそれはヘレーナの取り巻きも驚いて身を引きますが、ヘレーナは罵倒をやめません。

 大ごとになったそれに、王子が駆け付けたことで、その場はおさまりました。


「見損なったよ、ヘレーナ嬢。」

「・・・私は、もっと前からですわ。」

 その日のヘレーナを、王子は少しだけ気にした様子でした。しかし、次期国王として期待される王子は何かと忙しく、その気も忘れてしまったのでしょう。


 そのあと、ヘレーナは暗殺者を雇って、マリアの男爵家もろとも殺害する計画を立てました。そして、その実行日に、たまたまマリアを訪問した王子が、暗殺者の存在に気づき、暗殺は失敗に終わります。暗殺者を捕らえた王子は、そこからヘレーナへとたどり着き、処分を司法の手にゆだねることになりました。


 もちろん、ヘレーナとの婚約は解消され、有望なマリアと婚約します。

 ヘレーナは獄中で自殺。




「うん、やっぱりね。」

「どういうことですか?」

 他のエンドを聞かせて欲しいと言われたので、私はハナに自殺エンドを語りました。すると納得して、私にあきれるような目をよこします。


「やっぱり、それのどこが乙女ゲームなの?それでゲームが締めくくられるんだよね?」

「・・・おそらくは。ところどころ思い出せないところはありますが、終わり方はこういうものだったと思います。」

「乙女ゲームなら、そのあと王子と甘い今後を思わせる終わり方でしょ。なんで、ヘレーナの処刑で終わるのよ!」

「えー・・・ざまぁ?ってことじゃないの?」

「それは、ただのスパイス!ざまぁは、ただのスパイス!なのに、スパイスが最後を彩るとか、おこがましいでしょ!ありえないわ!乙女ゲームは恋愛がメインでしょ!これじゃ、悪役令嬢だけでなく、ヒロインもバッドエンドよっ!」

「お、落ち着いて、ハナ。確かに、終わり方がざまぁメインになっているわね。うん、うん、わかったわ。そうね、あなたの言う通りよ。だから、落ち着きましょう。」

 ヒートアップするハナを落ち着かせます。ですが、私の頭もパニック状態です。だって、今まで乙女ゲームだと思っていたものが、そうではないのだと気づかされたのですから。


「これじゃ、悪役令嬢の死亡フラグ回避ゲームよ!」

 確かに、その通りですね。ゲームの終わりは、やはりざまぁでは駄目でしょう。王子とマリアのキスシーンなどで終わらせるべきでしょう。


「それに、私がやった乙女ゲームの中に、レナが言うようなゲームはないわ。私、結構裕福な家の出だから、発売する乙女ゲームはほとんどやったことがあると思う。だから、この世界が乙女ゲームの世界ってことは、ないと思うよ。」

「・・・私も、ハナの話を聞いてそう思いました。でも、私が・・・ヘレーナが破滅をする話があるのは確かだと思います。」

「まぁ、その話があるっていうのはわかるよ。嘘はついていないみたいだし。そうだ、他に攻略対象はいないの?さっきから王子の話ばかりだけど。」

「そういえば、王子の他に宰相の息子や伯爵家の令息・・・王子の側近候補たちがそうですね。」

「あ~そこは乙女ゲームね!・・・たとえば、宰相息子だとどういう話なの?」

「そうですね。」

 私は宰相息子ルートを思い出しながら語りました。



 王子と行動を共にしていた宰相息子は、王子がマリアに近づいたので自然と一緒に行動するようになりました。そこで、マリアが天才だと思っていたのですが、実は努力家であることを知って、宰相息子はマリアとの距離を縮めていきます。


 それから、ヘレーナに強く当たられ悲しむマリアを見て、ヘレーナのことを調べ始めます。


「ちょっと待って。」

「何でしょうか?」

「なんでそこにヘレーナが出てくるの?攻略対象は宰相息子でしょう?関係ないじゃない。」

「いいえ。王子がマリアに近づいていますので。」

「ここでも王子!?え、脈なしなのに!?宰相ルートなのに、王子に追いかけられるの!?」

「・・・王子は運命を感じているのかもしれませんね。」

 そうです、王子はどのルートでもマリアに近づきます。たとえ、マリアの心が他の殿方にあったとしても、最後までマリアの傍に。


「運命・・・」

「レナ?」

 私は何でもないと頭を振って、続きを話しました。


 話が終わると、ちょうど伯父様たちが帰ってきて、話をする私たちを見て友人様が驚いていました。

 変わってしまった友人様の娘に友達ができたと舞上がった友人様にいわれるまま、私たちは一緒の部屋で寝ることになりました。


 その部屋では、ハナの話を聞かせてもらいました。

 眠って起きたら今の体になっていたこと。原作などない異世界転生と認識していること。今の生活は退屈で、久しぶりに話ができてうれしかったと言っていただけました。


 とりあえず、今は我が国の危機ですので、その問題が片付いた後、私の破滅を回避し、次にハナの身に何が起こったのかを調べてみることを約束しました。

 特に身の危険を感じていないハナは、自分は後回しでいいと言って、私を優先してくれるそうです。ありがたい話です。


「私は、ここに転生した理由があるのか知りたいの。あと、元の世界に、元の体に戻れるかを。私は、あっちで死んだ記憶がないし、もしかしたら・・・なんてね。」

「ハナ・・・わかりました。私も協力させていただきます。国の問題が解決したら、私は国を出ますので。」

「え・・・?」

「私の冤罪が解けたとしても、指名手配犯となってしまった国では生きづらいですからね。伯父様に頼んで、こちらの国で暮らそうかと思っています。」

「それは、私としてはうれしいかな。ごめんね、レナにとってはつらい決断だよね。」

「いいえ。覚悟はしていましたので。」

 国を出る覚悟はしていました。なので、特に辛いだとかはありません。




 次の日、ハナからプレゼントを頂きました。


「友達の証。ほら、会ってまだ2日だし、ちょっと不安かなって。とは言っても、ただの私の日記なんだけど・・・これくらいしか、今の私の大切なものってないから。」

「ありがとうございます。でも、そんな唯一のものをもらってよろしいのですか?」

「これをあげる意味を、レナに考えて欲しいの!それだけ、あなたに生きていて欲しいってことだから!」

「生きて・・・そう、ですか。」

 昨日会ったばかりの、転生者というだけのつながりですのに、ハナはそこまで私を思ってくれているようです。


「まぁ、なんか初めて会った気がしないんだよね。もしかしたら、意外と元の世界であっていたりしてね?」

「・・・私も、何かをハナに感じました。いずれ、その話もゆっくり致しましょう。」

「うん。じゃ・・・ここに戻って来てね、レナ。」

「はい。」

 こうして、私はハナの屋敷を後にしました。

 令嬢としての記憶がないハナは、令嬢の生活が大変でしょうが今は我慢していただくしかありません。国を救ったら、すぐにここに戻りましょう。




 レナ。この世界で初めて出来た友達が、行っちゃった。レナの乗る馬車をボーと眺めていた私は、昨日レナが話した乙女ゲームの話を思い返した。


「何かが引っ掛かるのよね。」

 ヒロイン、マリアの恋物語。お相手役のヒーローは、王子やその側近候補。どのルートでも近づく王子に、悪役のヘレーナ。最後のざまぁ。


「あ・・・そうだ、視点だ。」

 乙女ゲームの主人公は、もちろんヒロインだ。しかし、語られる物語の視点は誰だった?


 第三者の視点。でも、それはプレイヤーとして話をするなら、自然のこと。画面越しの物語の話なのだから。


 でも、情報量が多すぎだ。

 ヒロインや攻略対象の情報が多いのは納得できる。でも、一番情報量が多いのは・・・


「ヘレーナ、悪役令嬢・・・なんで?」


 その答えを知るのは、あともう少し先の話だ。




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