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14 転生者



 国境付近の町に来ました。まだ日は高く、十分国境を越えられるはずなのですが、伯父様がここで準備があると言って、伯父様のご友人のお屋敷へ来ました。


「あぁ、ベネディクト嬢は、僕と一緒に来てくれないかな?あと、レナの侍女も。」

 ご友人宅に着くなり、伯父様は私だけを置いて、屋敷を出られました。ディーもアンも渋りましたが、国境を出るのに必要だと言われて、納得して伯父様と共に行きました。


「そうそう、この屋敷の外には出ないようにね?ベネディクト嬢、レナの魔法を解いてくれるかな?たまには本来の姿でいたいと思うし。」

 ディーにかけられていた髪の色を変える魔法を解いてもらい、私は本来の私の髪色に戻りました。


 伯父様もご友人も、屋敷を自由に歩いていいとおっしゃったので、私は一通り屋敷を回ることにしました。

 応接室から出て、まっすぐ伸びる廊下を歩きます。


「誰もいませんね?」

 ご友人も伯父様と一緒に出られましたので、ここには使用人のみということになりますが、すれ違う人はいません。たまたまでしょうか?


 私は、人を探す様に屋敷を歩き回りましたが、全く誰ともすれ違いませんでした。とても不思議です。これほど大きな屋敷なら、使用人が20人はいてもおかしくありません。

 廊下に置かれている置物などを見ますが、手入れが行き届いています。なので、使用人はいるはずですが・・・


 少し心細くなった私は、応接室へと戻ることにしました。みんなといたあそこなら少しでも安心できそうだと思いまして。


「あれ?」

 方向感覚がしっかりとしている私は、問題なく応接室がある場所まで戻ってくることができましたが、しっかり閉めたはずの扉が開いていることに気づきました。

 もしかしたら、使用人が私たちのお茶をした後を片付けているのかもしれません。それだと、仕事の邪魔になるかもと思い、そっと部屋の中をのぞきました。

 片づけをしていたら、別の場所に行こうと思ったのです。


 部屋の中には、一人のご令嬢がいました。

 ソファに腰を掛けて、一枚の紙を真剣に眺めています。


 ご令嬢がいるという話は聞いていませんでしたが、我が物顔でそこに座っているということは、この屋敷の令嬢でしょう。

 金の髪に青の瞳をした凛とした雰囲気の令嬢は、ぽつりとつぶやきました。


「まるで、悪役令嬢ね。」

「!」

 悪役令嬢、その言葉に驚いて、私はドアに足をぶつけてしまいました。小さな音が鳴り、令嬢は顔をあげてこちらを見ます。


「え、お客さん?」

「あー、はい。お邪魔しております。」

 戸惑った様子に、先ほどの凛とした面影はありません。どこか自信がなさそうな、弱気な令嬢という雰囲気を彼女はまとっていました。


 どこかで・・・乙女ゲームに登場していたのでしょうか?この令嬢に覚えが何となくあります。


「私は、ヘレーナと申します。あなたは?」

「え、私は・・・カロ、カレ・・・えぇと・・・ハナと呼んでください。」

「・・・ハナ?」

「あ、愛称というか、コードネームと言いますか。お気になさらず。ほら、2人しか知らない名前で呼び合うのって、面白いと思いませんか?」

「・・・そうですわね。」

 変わった人のようです。ご友人が紹介されなかったのは、こういう理由だからでしょう。変わり者の令嬢を隠すというのは普通のことです。


「ですよねー・・・え、えーと。あっ!この新聞読みましたか!?隣国のニュースが書いてあるんですけど、それがもうテンプレ過ぎて!絶対このヘレーナって悪役れ・・・ん?」

 手に持った紙を指さしながら内容を話していたハナ様ですが、途中で固まってしまわれました。やっと気づいたのですね。


「銀の髪・・・青いし・・・え?えーと、・・・ヘレーナさん?」

 手元の紙をちらりと見て、ハナ様は私の名を口にしました。人の名前を覚えるのが苦手な方なのでしょう。


「はい。私は隣国から来ました、悪役令嬢のヘレーナと申します。ハナさん、あなた転生者ですわよね?」

「えぇぇぇぇえええええ!は、はいぃい!ごめんなさい、いじめないでください!私、ヒロインちゃいます。ただのモブなんで!お願いだから、いじめないで!」

「・・・あの、落ち着いていただけますか?」

「お、落ち着いておりますですわよ!おほほほっ!げうっごほごほっ!あの、お願いですから、どうかここは穏便に・・・」

「穏便と言われましても、何も致しません。そもそも、あなたをいじめてもメリットがありませんし、そんなことをすれば破滅フラグが立ちそうなのでご遠慮願いますわ。」

「あー、それはそうだよね。ん、あれ?もしかして、・・・ヘレーナさんも転生者?」

「えぇ。ハナ様はモブ転生のご様子ですが。私は、察しの通り悪役転生ですわ。今はそんなことにかまっていられませんが。」

「・・・とりあえず、状況を整理させて。あと、様付はやめてくれる?転生仲間だし、ここは呼び捨てで。あと、あなたの本名を教えてくれると助かる。」

「本名ですか・・・」

 正直、覚えていません。前世の記憶は、しっかりとしたものではないのです。

 どういう生活水準だったか、家族は何人いたかなどは覚えています。思い出もいくつかあります。しかし、名前などは全く覚えていません。


「覚えていませんので、ヘレーナ・・・もしくは、レナとお呼びください。」

「レナ!いいね、その名前!覚えやすいのがポイント高い!」

「左様ですか。」

「それにしても、レナは擬態うますぎるね!完全にご令嬢って感じ。私にはそういうの無理でさー。まず、自己紹介で躓いちゃうからな・・・カレ?カロ?とかいう名前だったんだけど・・・一度しか聞いてなくて覚えれなかった。」

「?それで今までどのように生活していたのですか?」

「え、どのようにって・・・まだ記憶が戻ってから一か月だし。あ、もしかして、レナには悪役令嬢の記憶があったの?・・・あ、そもそもゲームを知っていたの?悪役令嬢ってことは、乙女ゲームだろうし。私、乙女ゲームはいろいろ手を出していたから詳しいよ!」

 どうやら今までの記憶がないようですね。唐突に前世の記憶だけを思い出して、今まで生活していた時の記憶は喪失してしまったのでしょう。


 乙女ゲームに詳しいですか。特に今はその知識が必要だとは感じていませんが、一度しっかりゲームの記憶を整理しておくのもいいでしょう。この話で、ハナ様がどういう方なのかも把握できますでしょうし。


「私が転生したのは、悪役令嬢ヘレーナ。ヒロインは、マリアという茶色の髪に水色の瞳を持った、可憐な少女です。」

「んー。ヘレーナにマリア・・・王子枠は・・・ハインリヒ。」

 手元の紙を見て、王子枠の見当を付けたハナですが、思い当たる乙女ゲームが出てこないようです。


「乙女ゲームに出てくる悪役令嬢って少ないからなー・・・すぐに見当がつくと思ったけど。えーと、題名は?ゲームの題名が分かれば、思い出すかも。」

「・・・題名?」

「うん。なんとか王国物語とか。何とか何とかの何とかとか。」

「思い出せません。そうですね、名前があるものですよね、乙女ゲームって。今まで気づきませんでした。」

「・・・とりあえず、一通り物語の流れを教えてくれる?やっぱり、破滅・・・処刑や追放、修道院コース、暗殺なんかがあるんだよね?だとしたら、少しでも回避できるように力になりたいんだ!だって、せっかく見つけた仲間だし!」

「仲間・・・」

「うん!あ・・・嫌だった?確かに、私モブだし、頭もよくないし・・・何ができるかって言われても、話し相手くらいしかできないと思うけど。」

「嫌ではありません。」

「ならよかった!」

 無事、仲間になることができたということで、私は一通り乙女ゲームの内容をハナに聞かせました。すると、ハナからとんでもない言葉を聞きました。


「それ、乙女ゲームじゃないでしょ。」




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