14、ホワイト・ボックス
私は堂々と胸を張って独房への廊下を進んでいった。囚人たちは私を見ると一斉に万歳をした。
彼らは私の脱獄に対して大きな畏敬の念を抱いているようだった。獄守り達は獄守り達で、渡すが自らの足で舞い戻ってきたことに対し、大きな畏敬の念を持って、手厚い拍手で迎えた。私はまさに牢獄の王様であった。
独房に入ってもまだしばらく拍手と歓声は鳴り止まなかった。獄守り長がやってきて、私を強く抱きしめた。
「よく帰ってきた、脱獄など無意味なことだと、君はその身を以て証明してくれた。君の名前は永遠に語り継がれることとなるだろう。一字一句だって間違えずに、後世の囚人たちは、君の名前を何度もその汚れた唇の元に繰り返すこととなるだろう。」
彼は私の背中を埃を払うように何度も叩いた。私は彼の胸の中で涙をこぼした。「ありがとうございます、本当に、もう本当に」
獄守り長はその太い野生的な指で私の涙を拭いた。それから私の肩を強くもみ、「君の死刑執行について、責任者から簡単な説明がある。」と言った。大柄な獄守り長の後ろから一人の青年が歩み出て、私を真正面から見据えた。
「宮廷特別開発部主任のハーマンと申します」
彼は神妙に頭を下げた。私もつられて頭を下げた。
「皆様、席を外していただけますか。」彼の言葉で、獄守りたちは外へ出た。ゆっくりと、しめやかに、鉄の扉が閉められた。彼は背筋を正して、静かに私を殺す機械のことを話し始めた。
*
「あなたの死に場所となる、ホワイト・ボックスについて、簡潔に説明いたします。
まず、入り口の扉を開けて頂くと、椅子の一脚置いてある、小さな小部屋が現れます。その椅子に乗っていただき、ベルトを着用してください。安全が確認され次第、足元のベルトコンベアが稼働いたします。
それからあなたは幾つかの『走馬灯ルーム』を通り過ぎることになります。そこにはこちらの独断と偏見で選ばせていただいた、あなたの人生のハイライトシーンが、様々な形式で展示してあります。これらを見る作業はあなたが死を覚悟するのに必要な通過儀礼ですので、決して目をつむってはいけません。
また、万が一恐怖心に耐えられず、椅子から降りて、逆走をしてしまった場合、あなたの頭には鉄槌が振り下ろされます。コンベアから降りてしまった場合も同様です。警報が鳴り、鉄槌が振り下ろされます。ここまではよろしいですか?」
ハーマンは眼鏡越しに私を見上げた。その無機質な眼差しは、彼自身もその怪しげな機械の一部であるかのように思わせた。
「よろしいですか?」
「君、これは一体、何の冗談かー」
「質問は後で受け付けます。よろしいですか?そうでない場合は、もう一度最初から説明をいたしますが」
「いや、結構」
「わかりました」ハーマンは慎み深くうなづいた。
「まっすぐ進んでまいりますと、六つ目の部屋にたどり着きます。そこで、盛大なカウントダウンと、また特別楽団が奏でますオーケストラのうっとりするようなハーモニーともに、あなたは規定の位置までロープで吊るし上げられます。
揺れが定まり次第、あなたの脳天に向かってハンマーが振り下ろされます。決して席を外したり、暴れたり、逃げようとしたりしてはいけません。鉄槌は一ミリ単位の精度であなたが即死できるように軌道を計算されており、少しでもずれた場合には、あなたは意識を保ったまま、無用の苦しみを味わうことになります。
それから、これは確認ですが、希望の曲名はありますか?あなたがこの世で聞く最後の音楽になりますが。」
私は目を伏せて考え込んだ。何も思いつかなかった。
「特に希望がない場合は、国歌を演奏させていただきますが」
「ああ、それはいいね、それはすごく素晴らしいよ!」
「わかりました」
ハーマンは羽根ペンをスラスラ動かして、手元の紙に書き込んだ。
「では、質問を受け付けます。あなたに許された質問は二つまでです」
「そのホワイトボックスとやらは、一体、誰の案なんだね」
「あなたの案と伺っております」
「それでは、つまり、ネロがそうだと、そういったんだね?」
「左様でございます」
それで質問は終わってしまった。




