13、死者の船
そこはかつて船長室だったと思われる、私の猫のトイレほどの広さの部屋だった。
破れた窓からは明るい陽が差し込み、部屋の明暗をくっきり二つに分けていた。埃をかぶった古いベッドが一つ。隅には綿のはみ出た毛布が一枚、綺麗に折り畳まれてある。高級そうな赤い絹のクッションを置いた木製の椅子が一つ。部屋の真ん中には止まり木があって、その上で一羽の黄色い鸚鵡が、先ほどの警告文をひたすら繰り返していた。鸚鵡の足には鎖の輪っかがはめられており、半分から先は鋭利なもので千切られていた。その残りの半分の鎖は、止まり木に垂れ下がっていた。つまり鸚鵡は、自分の意思で奴隷を続けているらしかった。
尖ったクチバシに気をつけながら、森で拾った木の実を口元に差し出すと、鸚鵡は噛み砕いてボリボリ食べた。食べ終えると、しばらくこちらを不思議そうに見据えていたが、やがて背中を向けて、不機嫌そうに黙り込んだ。
壁には航海用の地図と、破れた旗が一枚、画鋲で四隅を抑えて飾られていた。その旗には金色の骸骨のマークが染め抜かれていた。私は思わず口を押さえた。
それは海軍と海賊、その両方に恐れられている、伝説の海賊団、「死者団」のシンボルだった。私の国で、その名を知らないものはなかった。だがそれはあくまで、おとぎ話として、語り継がれているものだった。
船員たちは皆幽霊で、片目がなかったり、足がなかったり、口がなかったり、頭が半分吹き飛んでいたりする。彼らはこの世を呪いながら、海を彷徨っては、生者の船を見つけ次第に襲うのだ。その船長は額に三つ目の目を持っていて、その目に見つめられたものは、もう二度と生きては帰れないー
私はぶるっと身震いをした。そんな話があるわけがない。きっとこの旗も、悪い冗談にちがいない。
私は机の下の引き出しを開けていった。ネズミの糞や虫の死骸にまみれて、コンパスや巻きタバコ、錆び付いたナイフ、ロープなどが見つかった。私はそれらを自前の袋に放り込もうとして、はっと手を止めた。振り返ると、鸚鵡がじっとこちらを見つめていたー
何を考えているか分からない無の眼差しが、私に恐怖を与えた。それは家臣たちのそれによく似ていた。私はそれらの前で、決して恥ずかしいことはできないのだ。そこに意志を持った視線がある限り。私はすべてを元の位置に戻して、引き出しを元の通りに閉めて行った。
最後の引き出しを閉めようとした時、奥の方で何かが引っかかった。引っかかっていたのは、瓶詰めの目薬数本と、一冊のノートであった。表紙には、つたない子供のような文字で、「サイン帖」と書かれてあった。航海日誌かと思ったのだが。
もはや色も分からない表紙は朽ち果てて、触るとボロボロ崩れ落ちた。私は強い興味を惹かれて、ページをめくろうとした。その前に、鸚鵡に向かってこう言った。
「私はもう、国王ではない」必死に声を絞り出した。「私は追放され、人を殺した。だからそれはつまり、私がここのものをぶん取ろうが、何をしようが、もう構わない身分ということだ」
私の宣言に、この翼を持った聴衆は、数度首を上下に動かした。うん、うん、とうなづいてくれているように見えた。私は黄ばんだ1ページめを、そっと開いた。




