金田一耕助とか、その孫とか、某フリーのルポライターとか?
半日とはいえ、昨日は久しぶりにゆっくり骨休めができた。
気分もリフレッシュしたことだし、今日も一日頑張るか。
そう考えた次の瞬間、聡介の眉間に皺が寄った。
「そーうーさん、そぉさぁ~ん~」
「……」
「ねぇ、お父さん。僕、初任科に行きたいです~」
初任科、つまり警察学校のことである。
「警察学校からやり直すのか、それはいい。初心に帰ってもう一度、巡査から再スタートしてこい」
すると和泉は、
「んもー、わかってるくせに。行くなら【教官】としてです。だって周君がいるんですよ? 僕の可愛い周君が!!」
聡介は無視して、部下の一人を呼んだ。
時計を確認する。
そろそろ定例会議の時間だ。
「聡さんってばぁ、ねぇ~……」
「やかましい!!」
ようやく少し静かになった。
と思ったのもつかの間、
「僕、不安なんですよ」
「何が」
ダメだ、耳を傾けては。
なのについ、
「周君って名探偵気質っていうか、彼のいるところって、なぜか必ず事件が起きるじゃないですか? 万が一、学校の中で何か起きたりしたら……組織的にもマズいでしょ?」
言われてみれば。
名探偵と呼ばれる人物が出かける先々で、殺人事件が起きるのは普遍の法則である。
さらに言えば、知り合ってからこちら、確かに扱う事件のすべてに周が何かしらの形で関わってきていたのは事実だ。
それも偶然と言ってしまえばそうだが、和泉の言うことにも一理ある。
が、あまり深く考えると頭痛がしそうなので、
「……もし、周君のいるクラスで何か事件でも起きたら、お前を潜入捜査官として初任科に送りこむよう課長に進言してやるよ」
聡介は軽い気持ちでそう口にした。
日本の警察にそんな取り決めはない、おそらく。
すると。
「だから聡さん、大好き~」
和泉はニヤリと嫌な笑顔を浮かべた。
※※※※※※※※※
朝、起床時間は午前六時と決められている。
起きたらまずしなくてはいけないのが布団をきちんと畳むことだ。時折抜き打ち検査があり、一ミリでもずれていたりすると、何度でもやり直しさせられる。
服装もそうだ。
皺が少しでも見つかると叱られる。
周は念入りに制服の皺がないかを確認してから、紺色の制服に袖を通した。
この頃少し筋肉がついたせいだろうか、初めはブカブカだと感じていた制服がしっくりくるようになった。
ネクタイが曲がっていないか、制帽は歪んでいないか。
入念にチェックして部屋を出る。
「周、おはよ!」
生徒達の寮は一応個室となっている。もっとも、薄い壁一枚に隔てられただけだが。
周が部屋を出るなり、隣室の倉橋が声をかけてきた。
「おはよ」
欠伸を噛み殺して返事をした時、天井のスピーカーから声がした。
『立石学級の学生はただちに第二教場へ集合せよ』
立石というのは周達のクラスを受け持つ教官のことである。
そう言えば先日、少し調子が悪そうだった……と周は思った。ヘビースモーカーであり、時々ひどく咳き込んで、授業中も時々、喋っている途中で咳き込むことがあった。
「なんだろうな?」
倉橋は少し期待を込めたような顔で問いかけてくる。
さぁ、と周は適当な返事をした。
教場へ到着する。同じ立石教場の生徒達はそれぞれ、額を突き合わせるようにしてひそひそ話し合っている。
自分の席に着き、教官の到着を待つ。
扉が開き、助教である末松が入ってきた。
そうして。そのすぐ後ろに立っている背の高い男の顔に周は見覚えがあった。
というより、よく知っている顔だ。
末松は教壇に立ち、一同の顔を見回してから口を開いた。
「立石教官は一身上の都合により、しばらく休職されることになった。そこで今日から、君達の指導をしてくださる……北条雪村警視だ」