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謎がまだ、全然解けてない!!

 初めに女子の剣道団体戦が行われた。

 誰が先鋒で出るかで散々揉めたそうだが、結局、陽菜乃だった。


 日頃の授業の時は、自分のことだけで精いっぱいな周は、彼女の姿を初めて真剣に見た。


 あのアニメ声と、可愛らしい外見からは想像できない気迫。

 積極的に攻めて行き、相手の反撃を許さない。


 気がつけば、というほどの速さで白い旗がぴっ、と上がる。

 陽菜乃の勝利が決まった瞬間だった。


 互いに礼をし、陽菜乃は控え席に戻っていく。


 しかし次鋒・中堅が次々と負け越してしまう。これであと副将と大将が勝利をつかみ損ねたら、それこそ初戦敗退である。

 副将は辛うじて、本当にギリギリのところで勝ちを上げた。


 そして大将は宇佐美梢だった。


 彼女もまた、陽菜乃への対抗心なのか、闘志むき出しであった。


 絶対に負けられない。

 そんな気迫が見ているこちらにまで伝わってくる。


 それにしてもあの2人は、何が原因でそんなに仲が悪いのか、周も少しばかり興味を覚えた。


 似たような顔と話し方をしているから、だろうか?


 そう言えば亡くなった兄と和泉も、初めは似た者同士ということで、ひどく仲が悪かったことを思い出す。


 そういうもんかな。とりあえず納得してから、周は思わず拳を握って、少し腰を浮かせて試合を見学した。


 なかなか勝負はつかない。

 あと一歩というところで決まらない。


 思わず声が出た。

「頑張れ!!」


 その声に呼応するように、梢は動いたが……。


 審判の判定が下る。

 結果としては、梢が敗れてしまった。


 礼のすぐ後、彼女は苛立たしそうに、大股で控え席に向かって歩いてくる。

 面を取り、深い溜め息をつく。


 その形相はただ事ではなかった。

 はっきり言って怖い。


「……ね、周! そろそろ準備しないと」

 倉橋に言われて周は我に帰った。


 もういっそ、初戦敗退でもいいじゃん……そんなことを考えた。


 ※※※※※※※※※


 たまに大切な客が来た時にだけ使用する応接室。

 革張りのソファに向かい合って腰かけると、警備部長である堤は話し出した。


「捜査1課の……和泉警部補といったね?」

「はい」

「噂はいろいろ聞いている。一度は顔を見てみたいと思っていたが……」


 動物園のパンダじゃあるまいし。頭に浮かんだ余計な言葉は飲みこんでおく。

 口にしようものなら、隣に座っている先輩刑事から痛い目に遭わされることも承知している。


「先日、学生寮の204号室を使用していた学生が、亡くなったそうだね」

「……ええ」

「何か、妙な噂が流れたりはしなかったかね」

「どう言う意味です?」


 堤は和泉が急遽淹れてきた、そこそこ高級な緑茶の入った湯呑を手に躊躇している。


「呪いだとか、祟りだとか」


「……なぜ、そのことを?」

「今から5年前のことだ、204号室を利用していた学生が自殺した。遺書ものこっているから、間違いなく自殺だ」

 和泉も北条も黙って続きを待った。


「その時、亡くなった学生というのは……堤洋一(つつみよういち)……私の息子だ」


 堤はハンカチを取り出して、額の汗を拭きながら続ける。

「遺書には『授業についていけない』『期待に応えられない』など、そういった悩みが綴られていた」


「まさかとは思いますが」和泉は口を挟んだ。「特定の誰かを指名して、イジメや虐待があったということは……?」


「初めは私も、息子の死が信じられなくて……まわりの人間にいろいろ聞いたよ。しかし皆がお茶を濁す、そんな中で……一人だけある人物の名前が浮かんだ。息子にだけいつも厳しく指導していたという教官の名前を」

「それは……?」


「沓澤、と聞いた。武術全般を担当する教官だと」


「……」

「ただ。他の人物の話では、彼はただ指導熱心なだけで、決して虐待のような事実などなかった……と」


 和泉は沓澤という警官を良くは知らない。

 だが。観察してきた短い時間の中で、彼はごく普通の【体育会系】という印象しか持たなかった。


「その点に関しては、我々も裏をとることを考えています。沓澤は私の後輩です。彼は決して、弱い人間を虐待するようなことはしません」

 北条は沓澤に温情を持っている。

 そう言えば同じ部署にいたことがあったっけ。


 当時何があったのか、詳細はわからない。


 けれど、相も変わらずこの県警は組織にとってマズいことが起きると、隠蔽する体質であることに変わりはないようだ。


 そんな中、沓澤の名前を特定したということは……和泉の中で一つの仮説が浮かんだ。


 沓澤に恨みを持つ、あるいは陥れてやろうと考えた誰かが情報を漏らした。


「そうか……実を言うとまだ少し、息子の死が信じられなくてね。真相を知りたいとずっと願っていたが、時間だけが過ぎてしまった」


 5年前、と言った。

 確かに長いようで、あっという間だ。


「もし、あの遺書に隠されたいろいろな真実があるのだとしたら……そう考えたのだ。そうしてその時、君の噂を聞いたんだよ」

「私、ですか?」


「真実を見抜く力を持つ、名探偵だと」

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