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細身だけどしっかり筋肉がついてるのが好み

「な、な、何ですって……?!」


 この変態オカマ警視が、警察学校の教官と化す……だと?!


「確か、第50期長期課程だったわよね」

「まさか……」


 北条はニヤリと含み笑いをした。

「あの子、飲み込みが早そうよね。素直だし、純情だし……若い頃のあんたとは大違い」


 和泉は思わず北条に詰め寄った。

「何か良からぬこと、考えていませんか?」

「……そうねぇ。あの子なら、アタシ好みに育て上げられそうだわ」

 特殊捜査班の隊長は長い前髪をかき上げる。


「さっきも言いましたけど、絶対に周君は渡しませんからね!!」

「あんたがどれだけ吠えたところで、最終的に決定するのは人事部よ」


 とりあえず、人事部の誰かの弱みを握るか、賄賂を送って融通してもらうか……あれこれと良からぬ企みが頭の中に浮かんだ。


 いや、ダメだ。

 そんな生ぬるいやり方では……!!


 和泉はグラスに残っていたビールを一気に飲み干す。そして、よく考えてみたら段々と腹が立ってきた。


「だいたい、どうして……なんでそんな、美味しい話を僕に黙っていたんですか?!」

「だから。どうせそう言うだろうと思って、予めあんたに話したんじゃない」

 しかも晩ご飯の奢りまでつけてやって。


「そういうことなら、警視自ら立候補する前に、誰よりも先に僕のところへ話を持ってきてくれたらよかったじゃないですか!? 僕だって、周君がいる期間だけなら教官になりたいですよ!!」

 和泉はドン、と空のジョッキをテーブルに叩きつけてから、生ビールのお代りを注文した。

 そんな私情をいちいち取り合ってくれるほど人事部も暇ではない。


「でしょうね~。お気の毒さまだこと」


 こ、こいつ……!!


 何とか反撃したいところだが、下手をすれば数倍ぐらいになって攻撃が返ってくることを知っている。


 そこで和泉は頭の中であれこれ考えた末に、

「周君に何かいかがわしいことをしたら、たとえあなたであろうと絶対に許しませんからね!? 北条警視!!」

 と、捨て台詞で落ち着いた。


 ドカっ!!


「……~?!」

 テーブルの下で、思い切り向こう脛を蹴飛ばされた。


「ずっと黙ってたけど、さっきから……!! 外で、その呼び方するなって何度言わせるつもりなの?」


 涙目の和泉をよそに、北条は店員を呼び、肉の追加注文をした。


 それより、と彼は意地の悪そうな笑みを浮かべる。

「まぁ、あの子のことはあんたの代わりにアタシがしっかりと可愛がってあげるわよ。いろんな意味でね?」

 言いたいことは山ほどあるが、今は足の痛みで頭がいっぱいなため、上手い台詞も出てきやしない。


 北条は肘をついて窓の方を見つめつつ、

「アタシにとっても、あの子はいろんな意味で【特別な子】だし……ね」


 どういう意味でだろう?

 気になったが今のところはスルー。


「それはつまり、周君のこと、特別扱いしてくれるってことですか?」

「そうよ、いけない?」


「仕事に私情を挟むのはどうかと思いますが……」

 すると北条は目を丸くして、それから吹き出した。

「あんたがそれを言う訳?」

「……いけませんか?」


「そうねぇ。あの子のことだけをひいきにしたらきっと、他の子達からの嫉妬を一身に受けてしまうわね。競争は既に初任科から始まってるんだから」


 そうなのだ。

 同じ警察学校の同期であっても、その内に否応なく差は開いてくる。


 昇進のスピード、配属先。

 希望通りに行かないことだってある。


 もし本当に北条が周のことだけを特別贔屓にするようなことがあれば、当然ながら、他の生徒達からの反感を買う。


 そうなれば辛い思いをするのは周の方だ。

 あの子は誰よりも、他人への思いやりが深い子だから。


 自分さえ良ければあとはどうでもいい、そんな考え方をしろなんて、どう頑張ってもできない相談である。


「……周君に何かあったら、本気で怒りますよ?」

 北条は謎めいた笑みを浮かべた。

「わかってるわよ」


 和泉は運ばれて来た生ビールを一気に飲み干した。


 それにしても、改めてムカムカする。

 美味しいところばっかり持って行きやがって……!!


 こっちは以前ほど、思うように周と会えなくて、鬱々とした日々を過ごしているっていうのに。


 週中は携帯電話を取り上げられているから、電話はもちろんメールのやりとりだって自由にできない。


 和泉は深い溜め息をつくことしかできなかった。


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