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怖い顔の定義って何だろう?

≪金曜日≫

 朝のランニングを終えて、洗面所で顔を洗いながら、鏡に映った自分の顔を見ていてふと周は思い出してしまったことがあった。

 昨日の夜、寺尾に言われたこと。


挿絵(By みてみん)


「……なぁ……護」

 隣には毎度ながら倉橋がいる。

「ふはひ?」

 歯ブラシを口に突っ込んだ状態の彼は、不明瞭な返事をよこす。


「俺って、可愛い顔してるのか?」


 彼は慌てて口の中のものを洗面台に吐き出し、急いで口を濯いだ。首にかけていたタオルで口元を拭きつつ、


「なんで……そして、俺に訊くのか? それ」


 顔立ちが姉によく似ていると言われることは多い。

 周にとってそれは褒め言葉だったはずだ。だが。


 ほとんどの男性にとって『可愛い』と言われても嬉しくないように、今は少し複雑な気分である。


 強面になりたい訳ではないが、これから先、現場に出てから顔立ちのせいで、悪い奴らに舐められる可能性を考えてしまう。

 周がそのことを話すと、

「まぁ、確かにな……」

 倉橋は納得顔になる。


「いつもしかめっ面をしてたらいいんだろうか?」

「よせよ。わざとらしいのは逆効果だし、嘘くさい」

 だよな……と、2人揃って朝食のために食堂へ向かって歩きだす。


「怖い顔ってのはさ、大きな声じゃ言えないけどやっぱりあの教官とかな……」

 友人が誰を想定して話しているのか、周にはすぐにわかった。


「あとは、そうだな……やっぱり目だよな」

「目?」

「上村ってさ、綺麗な顔してるけど目が怖いんだよ」

 そう言われてみれば、そうかもしれない。一度も彼が笑った顔を見たことがない。


「なんかさ、誰にも気を許さないっていうか……昨日の夜なんか、寺尾を見る目がマジで怖かった。言い方は悪いけど、粗大ゴミでも見るような眼でさ」

 倉橋は周囲に本人がいないことを確認し、小声で言う。


 ああ、そうか。


 ふと周は時々、和泉が繰り広げる妄言を聞き流している時のことを思い出した。


『可愛いかわいい、僕の子猫ちゃん、マイハニー周く~ん。今度のお休みはどこにデート行こうか?』

『……』

『泊まりがけでもいいんだよ? 【彼と初めてのペンション】か【露天風呂付スイートルーム】のどっちがいい?』

『……』


『ひどいよ、なんでそんな目で僕のこと見るの?! なんか汚い物でも見るような……』


 なんとなく極意をつかんだ気がする。


 興に乗ってきたのか、倉橋は続ける。

「それと。別に怒ってる訳じゃなくて、むしろ何を考えてるのかわからなくて怖い、っていうのもあるじゃんか」


 ふと、周の頭に義兄の顔が浮かんだ。

 そうだ、あれだ。


 無口で無表情。初めの頃は本当に、違う意味で怖かった。


「よし、しばらくそれで行こう!! サンキューな、護」

「お、おぅ……?」


 ※※※


 食堂の掲示板には連絡事項が貼ってある。落し物などの連絡、そして。


 明日の武術大会のトーナメント票が貼ってある。


 周はそれを見て思わず溜め息をついた。

 意外と出場しなければならない回数が多い。


 昨日痛めてしまった左手首はあまり調子がよくない。背中も痛い。


 いっそ初戦敗退とかでもいいんじゃないか……そんなことを考えた時だ。


「おはよう」

 いつものように陽菜乃が向かいに腰かける。


「ねぇ、その手首……どうしたの?」

 彼女は周の左手首に気付いたようだ。

「ちょっと……失敗しただけ。たいしたことない」


 すると陽菜乃は首を巡らせ、誰かを探しているようだった。

「あいつのせいでしょ?」


 周が黙っていると、

「さっき上村君から聞いたの。昨夜、あいつが騒ぎを起こしたって」

「……」


 余計なことを。


「あんな奴の言うことなんか、真に受けちゃダメだからね?!」


 そして。周は気付いた。

 寺尾について語る時の彼女の表情が、それこそさっき倉橋と話していた【怖い顔】だということに。


 周が黙っていることを、不快にさせてしまったと思ったのだろうか。

 陽菜乃は気まずそうな顔になる。

「……ごめんね。ご飯、美味しくなくなっちゃうよね」


 確かに愉快な気分ではないが。

 周は曖昧に頷いて食事を続けた。



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