助けに来たよ、マイハニ~!!
左手首に巻いたシップがひんやりして気持ちいい。
武術大会っていつだったっけ。カレンダーを見て、周は愕然とした。
明後日じゃないか。
足じゃなかったのがまだ幸いだ。左手ならどうにかごまかせる。だけど。
考えれば考えるほど、気分が悪い。
寺尾ってああいう奴なんだ。
そりゃ、俺のこと目の敵にする訳だ。
警察官の友人知人がいて、親しくしているとなれば。
水城陽菜乃が言った通り、あいつにはモンスターの呼称が相応しいかもしれない。
やめよう。こんなこと、考えてみたって何の益にもならない。
周はベッドの上にごろん、と仰向けになった。
「……っ!!」
背中全体に痛みが走った。壁にぶつかった衝撃だろう。
慌てて身体の向きを変え、うつ伏せになる。
その時だ。部屋のドアをノックする音がした。
面倒なので黙っていると、
「……周君?」
和泉の声だ!
急いで起き上がろうとして、また身体が悲鳴を上げる。
周はよろよろと這うような格好で扉の前に行き、ドアを開けた。
「大丈夫? 聞いたよ、あのオカマに大変な目に遭わされたって」
和泉の顔を見たら、モヤモヤしていた気分が一気に氷解してしまった気がした。
彼はするりと中に入って後ろ手でドアを閉め、それから大きな手で背中を撫でてくれた。
それだけで少し泣きそうになってしまう。
しかし。すぐ、頭の中に寺尾の言ったことが浮かんだ。
「……別に、教官は何も悪くないし……俺の責任だから」
甘えちゃダメだ。
周は和泉に背を向けた。
「気持ちは嬉しいし、ありがたいけど……こんな時間に和泉さんが、俺のとこに来てるの誰かに見られて、何か言われるの嫌だ」
「……そんなもんだよ」
「え……?」
和泉はこちらの胸の内を見透かしているようだった。
「人間が形成する組織なんてそんなもの。多かれ少なかれ、私情が混じって……不公正なんて当たり前」
周は驚いて振り返り、和泉の顔を見た。
彼はいつになく真剣な顔をしていた。
「それが正しいことかどうかって言われたら、間違いなくノーだけどね。周君が、あのオカ……北条警視や僕と顔見知りで、親しくしてるのが気に入らない、特別扱いされてるんだろって疑う人間がいるんでしょ?」
その通りだ。
「言いたい奴には言わせておけばいいんだよ。そう言う人間こそ、いかに楽して美味しく生きて行こうか、っていうセコいことしか考えてないんだから」
そうだろうな、とは思う。
「僕はそりゃ、周君のことだけ贔屓にしたいよ。でもさすがに、表だってやると叱られるしね……」
おかしくなって周はつい笑ってしまった。
「そんなの、ありがた迷惑だよ」
和泉も微笑む。
「そうだよね。でもね、周君。仮にそんなことをしたところで、実力が伴わなければ、すぐに醜い内側は露呈する」
彼は続ける。
「あのオカマ……あ、言っちゃった」
さっきから何度も言ってたぞ、と胸の内で突っ込んでおく。
「北条警視はね、ああ見えてちゃんと、学生のことよく観察してるんだよ? 自分の部下もそう。今日は顔色がいいとか、そうでもないとか、トレーニングを余分に頑張ったとか、ちょっとサボったとか。何しろあの地獄耳だからね……しかも、絶対音感付きの」
「そうだろうね、わかるよ」
「真剣にやってる子のことはちゃんと認識してるし、高く評価してるよ。そう言う訳で周君、元気出してね。まわりが何を言っても、僕達は君のこと……誰よりもよく知ってるからね? 人一倍努力家で、一生懸命だってこと」
「うん、ありがとう……」
ところで、と和泉はベッドの方を見つめる。
「今夜は、ここに泊まってもいい?」
「とっとと帰れ、変態野郎」




