表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/157

もしかしてTSっ?!

 コンビニの息子に礼を言って別れてから、和泉は西岡宏の出身地である、瀬戸内海に浮かぶとある小島へ向かった。

 

 彼は幼い頃から海に親しんでいたという。

 そう言えば。あの日、水難救助訓練の授業の折、いつになく目が輝いていた。

 本当は海上保安庁を希望していたからだろう。


 西岡の家はどこか、と和泉が船着き場にいた老人に声をかけると、この島の子供達は中学を卒業するとみな、本土の高校へ進むのだと教えてくれた。

 答えになっていないが、この際気にしないことにする。

 ということは、毎日フェリーで本土の学校に通っていたのか。


挿絵(By みてみん)


 調べたところ、西岡は父親を小学校低学年の頃、海の事故で亡くしていた。

 今、家にいるのは母親のみ。


 和泉は直接会っていないが、息子が亡くなったと知らされて病院へやってきた母親は、ひどく意気消沈していたそうだ。


 住所を頼りに西岡の生家を自力で探す。

 この辺りは古い木造住宅がひしめき合うように立ち並んでおり、東京の下町のごとく家と家の間隔が狭い。


 しばらくして、和泉は西岡の表札のかかっている家を見つけた。

 ガラス戸の扉を叩く。

 しかし、反応はない。


「西岡さんなら、おらんよ」

 近くを通りかかった主婦が教えてくれた。

「どちらへ行かれたか、ご存知ですか?」

「……役場じゃろ。宏が、あんなことになったけぇ、何かと手続きが必要でな」


 おそらくこの島の住民なら全員が、西岡宏のことをよく知っているだろう。

 自身も人間関係が狭く、因習の強い田舎町で育った和泉は、即座にそう考えた。


「恐れ入りますが、宏君のことを教えていただけないでしょうか? 綺麗なお姉さん」

 明らかにお世辞だとわかっていても、やはり嬉しいらしい。相手が途端に警戒心を解いたのがよくわかった。


「……じゃけん、言うたのに……寺尾の倅なんかと関わり合いになるのはやめ、ちゅうて」

「……どういうことです?」

「寺尾の家はのぅ、元はこの島の者じゃったんよ。それが、何代か前の当主が何を思うたか政治家になるちゅうて、なんじゃ言うたかいの……とにかく県の偉い人間になったんよ」

「県会議員ですか?」

「ワシは難しいことはよう知らん」


 どうも年寄りは話が脇道に逸れがちだ。

「それで、西岡宏君のことについてですが……」


 婦人は一つ溜め息をつくと、

「あの子が小学1年か2年の頃、父親が海の事故で亡くなってのぅ……元々、そんなに家計に余裕がなかったんじゃけど……母親の方も天涯孤独の身でな。初めは中学を卒業したら働くような話をしとったけど、さすがにそれはかわいそうじゃって、それなのに……」

 頭に手ぬぐいを巻いていた婦人は、それを取って額の汗を拭いた。

「なんだか母親が急に派手になっての。噂じゃけどな、息子を高校に通わせるため、本土のスナックで働き始めたらしいんよ。そこで……寺尾の家の者と知り合って……まぁ、人の道を外れた関係になったみたいじゃ」


「宏君は、そのことを知っていたんでしょうか?」

「わからん。けど、こんな狭い島のことじゃ。すぐに耳に入るじゃろうし、あの子ものぅ……将来の夢があったけぇな。なんちゅうたか、船乗りになりたいって」

 海上保安庁のことだろう。


「ある日、あれは……宏が高校に上がってからの話かのぅ。寺尾のひ孫が宏と、他に何人か若いチャラチャラした、派手な格好の女の子を連れて島にやって来たんよ。まったく、今思い出しても腹が立つわ!!」

「何があったんです?」

「ゴミを投げ散らかすわ、夜中に大騒ぎするわ、人の家の庭の木を、花火で焼きおったんよ?! 危うく火事になるところじゃったわ!!」


「それは、大変でしたね……」

「宏の奴は、昔から肝がこまい(小さい)子でのぅ。母親のこともあって、寺尾のひ孫に頭が上がらんかったみたいでな。ほんま、あの子を責めても仕方ないんじゃけど……とにかく、その時のことに関してはあの子が方々に頭を下げまわっとった」


 やりきれない気分だ。

 あのトリオの関係性を、改めて確認できただけじゃないか。


 ありがとうございました、と和泉は踵を返そうとした。


「ああ、ほうじゃ。思い出したわ」

 婦人がいきなり言った。

「ついこないだ、ゴールデンウィークの頃じゃったかのぅ? 宏が久しぶりに帰省して、妙なことを言うとった」

「妙なこと?」


「……幽霊を見ただの、なんだの……」


「幽霊を見た……?」


「死んだはずの人間が、それも男が、女に化けて出たとかなんとか……妙なマンガでも読んだんじゃなかろうかの。あの子は昔から、夢見がちな子じゃったけぇな」


 男が女に化けて出た?


「その話、もう少し詳しく聞かせていただけませんか?」

「……わしゃ、それ以上のことは知らん」


 そうですか、と和泉は引き下がることにした。


 再び礼を言って踵を返そうとした時、背後から婦人が話しかけてきた。



「のぅ刑事さん。なして犯罪は、事件はなくならんのじゃ? あんたら、本気で一生懸命働いとるんか?」

「……私も知りたいですよ、それは」

挿絵(By みてみん)


今後しばらく、一日一話更新できたら……いいな(-_-)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ