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脳まで筋肉でできてるとか、筋肉ダルマとかうるさいのよ!!

「……ダメね。アタシ、直感だけで動いちゃったわ……」


 聡介は首を横に振る。

「でもそれは、警視が【自殺ではない】と感じてくださったからです。それがなければ私も、ただの自殺事件だと思って疑ったりしませんでした。でももし他殺なら、亡くなった学生の無念を……晴らすことができるかもしれません」

「そうね。このままじゃ、あの子も浮かばれないわ……」


 正直なところ、個人的な感情も含まれているのは否定しない。


 一ノ関が亡くなる何日か前。

『相談したいことがある』


 そう言って自分を頼ってくれた相手の、力になってやれなかったことがずっと引っかかっていた。


 もっと早く彼の相談に乗ってやっていれば、彼は死なずに済んだかもしれない。


 そんな気持ちも間違いなくあった。


「ありがとう、聡ちゃん……」

「……何がですか? 俺はただ、刑事としての勘が働いただけですよ」


 ※※※


 北条は関谷という検視官を問い詰めるため、一旦県警本部に戻った。


 鑑識課の部屋は4階にある。

 エレベーターを待つのが面倒だったので、階段を一気に駆け上がり、目的地へ到着する寸前だった。物影から、ヒソヒソと誰かの話し声が聞こえてきたのは。


 そこで北条は声のした方に、足音を消して秘かに向かった。


「ええから、黙っとれちゅうんじゃ!!」

「で、でも……1課の刑事が動いてるっていうじゃないですか!? ついさっきも、あの警視がこっちに来てましたよ……? ひょっとして、何か探りに来たんじゃ……!!」


「心配いらん、単独行動らしいけぇ。公式捜査じゃない。どうせあの筋肉ダルマの独断と偏見じゃろ」

 筋肉ダルマって、ひょっとしてアタシのことかしら?


「そうは言っても万が一、あのことがバレたりしたら……!!」

「黙っとりゃバレやせんのじゃ!! ええか、ワシは何も知らんけぇな?! 何か聞かれても答えるな!!」


 話をしているのは、一ノ関の自殺事件があった時に検視を行った警官と、その部下である若い警官の2人だ。

 確か名前は『関谷』だったと思う。

 若い方は知らない。


「だいたい鑑識作業について奴はタダの素人じゃ!! 脳まで筋肉でできとるんじゃけぇ、細かいことなんか教えてもどうせわからんわ!!」


 好き勝手なことを言ってくれるじゃない。

 北条は思わず姿を見せて、2人にニッコリ微笑みかけてやろうかと思ったが、辛うじて堪えた。


「ええか。みんなのためを思うて、むしろワシが犠牲を払ったようなもんじゃ。今時、職人気質なんて流行らんのよ」


 若い方はまだ、顔を真っ青にしてブツブツ言っている。

「知りませんよ……? どうなっても……」

 

 なんていうタイミングかしら。

 北条は嬉しくなってつい、頬が緩むのを感じた。


 若い警官がこちらに気がつかないまま、俯き加減に歩いてくる。


「ちょっと」

 北条が声をかけると、彼は硬直し、真っ白な顔になった。


 死刑宣告を受けた囚人はきっと、こういう表情をするのだろう。


「……今、あの検視官と何の話をしていたの?」

「な、な、何でもありません!!」


 北条は黙って相手の瞳を見つめた。それでも、視線が合わさることはない。


 心拍数がひどく高い。額にいっぱい汗をかいている。


 現時点で無理に口を割らせるのは賢明でない。


 そう考えた北条は、若い警官の肩をポンと叩く。


「あと1日だけ……猶予をあげるわ。あんたも警察官なら、何が正義なのか、本当に大切なことはいったい何か……今夜一晩、じっくり考えてから連絡を頂戴。アタシ、基本的には警学にいるから」


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