人を動かす原動力
「……周、大丈夫か?」
「え?」
「顔色が悪い」
「……護は何も思わないのか? あいつ……俺には信じられないよ!! 友達が、それも2人も立て続けに……」
「あいつは人間じゃないよ」
右隣から耳に入ってくるアニメ声。
目を向けると、陽菜乃が空いていた周の隣に腰かけていた。
「……なんて?」
「私、高校の頃からあいつのこと知ってるの。どこまでもただの自己チュー。一ノ関君や西岡君のこと、友達だなんて思っていないよ」
「じゃあ、何だと思ってるんだ?」
「……出来の悪い手下を、優秀な自分が世話してやってるって感じの思い上がり目線なんじゃない? もっと悪い言い方すれば、奴隷扱いだよ」
「……あいつ、何様なんだ……?」
「人間じゃないって言ったじゃない。案外、実は幽霊なんだったりしてね。あいつが204号室の幽霊の正体なんじゃない?」
「……」
「おい、よせよ……」
倉橋は引きつった笑いを浮かべて、小さな声で言う。
「ちょっと違うかな、それじゃ幽霊に失礼よね。人の心を持っていない生き物、ってなんだろう? モンスター、そう……【モンスター】とかぴったりじゃない?」
周が引いたのがわかったのだろうか、陽菜乃は少し気まずそうな顔になる。
「ごめんね、変なこと言ったね……」
相当、彼女は寺尾のことを嫌悪しているらしい。
寺尾の方はあれだけ彼女にご執心なのに。
「それより、藤江君……大丈夫?」
「何が?」
「顔色悪いよ」
視聴覚教室は他の教場に比べて少し薄暗い。
「……照明のせいだろ」
とは言ったものの、気持ちが落ち着かないのは確かだ。
それほど親しくしていた訳ではないが、周にとって2人も同期生が立て続けに亡くなったという事実は少なからずショックではある。
「私が変なこと言ったせい?」
「……お前のせいじゃない。いろいろありすぎて、頭が混乱してるっていうか……」
すると陽菜乃は、
「藤江君は、すごく優しいんだね」
「え……?」
「すごく悲しんでるの、わかるよ。あの2人のことを想ってるんでしょ。でも、特別に親しくしてた訳じゃないでしょ? 一ノ関君や西岡君と」
それはそうだが。
正直言って、自分の抱えている気持ちが上手く説明できない。
俺は悲しんでいるのか……?
周が返事に詰まっていると、
「余計なお世話だと思うけど、刑事志望ならそういうの……早めに切り捨てる方法を考えた方がいいと思うな?」
「どういう意味だ?」
陽菜乃は真っ直ぐに教場の前方、スクリーンの方を見つめて答える。
「だってそうでしょ? 被害者の無念を晴らそうっていう気持ちは立派だけども、いちいち亡くなった人のことを考えて、遺族の気持ちを思って悲しんでいたら、まともな判断もできないじゃない。人を行動に促すのは、悲しみよりも怒りなんだよ」
悲しみもよりも怒り。
確かにそうだ。
涙は気力を奪うけれど、怒りは人を動かす。
ついカッとなって手を挙げてしまった、と言うのがそれだろうか?
「お前、案外まともなこと言うんだな……」
倉橋の呟きで周は我に帰った。
「何それ、どう言う意味?!」
「ごめんごめん、なんていうかさ……意外だったから。謝るよ、そんなに怒るなって」
口には出さなかったが、周も倉橋と同感だった。
どちらかというと【可愛い女の子】を具現化しているような彼女が、果たしてこんな厳しい環境の中でやっていけるのか……何か辛いことがあると、すぐに泣いて他人に助けを求めるような、そんなイメージしかなかったから余計に。
陽菜乃はムスっとした表情で、それきり黙りこんでしまった。
そこへ講師が入ってきた。
最近、サブタイトルが割とまともな気がする……(-_-)




