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弘法も筆の誤り?

 西岡の死亡が病院への搬送中に確認された、と北条から学生達に伝えられたのは午前中の授業が終わった時のことだ。


 全員ざわめいたものの、やはりこの件に関しても一切他言無用、と厳しく言い渡された瞬間に口をつぐんだ。


 一ノ関に続いて西岡。


 あの二人はいつも寺尾と行動を共にしていた。なんとなく寺尾がボスで、後の二人は追随している……周にはそんなふうに見えた。


 一ノ関は自殺。

 西岡は事故。


 本当だろうか?


 周は疑惑を感じていたが、口にすれば叱られることを知っているので、誰にも言わず自分の胸の内にしまっておいた。


 友人が2人も立て続けに亡くなって、寺尾は今、どんな気持ちだろうか?


 少なからず心配したが、彼の様子を見ている限り、あまり落ち込んでいるようには見えない。


「まさか、西岡が……」

 午後一番の授業は視聴覚教室へ向かえとの命令だ。移動している間、隣を歩いていた倉橋が周に話しかけてくる。


挿絵(By みてみん)


「そうだな……って、その件は口にしない方がいいんじゃないか?」

 周はまわりに教官がいないことを確かめた。


「けどさ……気になるんだよ」

「……何が?」

「いや、俺が聞いた話だとさ。西岡って瀬戸のどこかの島の出身で、お父さんは漁師だったらしいんだ。子供の頃から潜水を教わってて、そもそもほんとは、海上保安庁(海保)を希望してたらしいんだけどな……」


 彼の話が本当だとしたら、どういうことになるのだろう?


「まぁでも、猿も木から落ちることだってあるよな」


 友人はそう言うが、周にはその情報が引っ掛かって仕方なかった。

 携帯電話があれば。すぐにでも和泉に連絡をとって知らせるのに。


 そう言えばどこにいるのだろう?

 あの人も北条と同じぐらい、神出鬼没だ。


 視聴覚教室に到着する。ここでの座席は任意なので、周は前から2番目の列に席を取って教科書やノートを準備していた。

 すると、すぐ後ろに座っている同じ教場の学生二人組がひそひそ話し合っているのが耳に入ってくる。


「まさか、ほんとに204号室の呪い……?」

「いや、西岡って209号室だっただろ」

「どっちにしろ、縁起の悪い数字だよ」


 警察官の言うことか? 周はあきれた。

 確かに、刑事は縁起を担ぐという話は聞いたことがあるが。


 ふと目の前が暗くなった。

 周が顔を挙げると、なぜか寺尾が立っている。


「なぁ、お前ら。今度の大会……俺と同じチームだろ?」


 大会ってなんだっけ? 思い出すのに少し時間がかかった。


「ああ。武術大会のだろ?」

 隣に座っている倉橋の返答でようやくピンときた。5人一組でチームを作る団体戦がある。


 周は倉橋と上村、そして寺尾と西岡……で同じチームだったはずだ。


「西岡の抜けた穴はまぁ、とりあえず何とかなるだろ。けど……何しろうちには上村って言う、全員の足を引っ張る奴がいるからさぁ」


 寺尾は恐らく上村がいるのであろう方向をチラチラ見ている。


 それはそうだが……。


 周はあたりを見回した。

 上村はすぐ近くにいたが、聞こえているのかいないのか、反応はない。


「今度の大会、上の偉い人達がたくさん視察にくるんだってさ。気を抜けないよな。ここで顔を覚えてもらえたらラッキーなんだから」


「……」

 周には信じられなかった。


 つい先ほど、友人があんな奇禍にあったばかりだというのに。


 寺尾は唖然としているこちらを尻目に、

「そうだ。一応出場の順番を決めるから今夜9時、談話室に集合な? 遅れるなよ」

 そう言い残して去っていく。


 我ながらよく我慢したものだと思う。


 あいつは、完全に頭がおかしい。

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