事故か他殺か
病院へ搬送されている途中で、西岡の死亡が確認された。
消防からもたらされた情報はあっさりとこちらの希望を打ち砕いてくれた。
ただし、死因はまだ特定できていない。
考えられる可能性はいろいろある。
今のところ一番高い率の死因は【事故】だ。
だとしても……。
崎本は顔を真っ青にしている。
彼の考えていることは手に取るようにわかる。
訓練中の死亡事故。それはつまり、教える側の自分達にとって【監督不行き届き】の烙印を押される可能性が高い。
行き過ぎた指導。
つまりパワハラと認定され、事が公になればマスコミに大々的に取り上げられることだろう。
遺族が訴訟を起こした場合、長期に渡る法廷での争いが予想される。そうなればこの県警の幹部達は、現場にいる末端の教官達に責任を負わせるだろう。
下手をすれば辞職に追い込まれる可能性だってある。
あれこれと先読みし過ぎて、悪い将来ばかりを予想している自分がいる。
「隊長……」
同じ部署に配属されたことはないが、古くからの顔見知りであり気心も知れている崎本は、すっかり怯えている。
身体は大きいくせに、小心なのは相変わらずだ。
「……あんたの責任じゃないわ……」
「しかし……」
「決して、無茶はさせてない。アタシが保証する」
北条は崎本の肩を軽く叩き、和泉の方を見る。
「……どう思う……?」
「……今のところは、なんとも……」
朝、点呼を取った時はごく普通だった。健康状態に異常はない。
本当に事故だろうか?
上は間違いなく、そういう方向へ持って行こうとするだろう。不幸な事故だったと。
だが。事故と断定するには、何か違和感を覚えてしまう。
ふと頭に【殺人事件】の単語がよぎった。思わず和泉の顔を見る。
昔取った杵柄で、彼とは目と目で意志を通わせることができる。
北条は無言のうちに語りかけた。
『まさか、殺人じゃないでしょうね?』
『その可能性がまったくない訳ではありません』
和泉のその眼がそう答える。
でも、だとすると誰がなぜ、どうやって?
授業が始まってからの一連の動作、生徒達の動きを思い返してみる。初めは概要の説明があり、それから……教場当番が服のままプールに突き落とされ、そして……。
潜水が始まった頃か。
生徒達は各々の班に分かれ、プールに入って訓練を開始した。
途中、何度か水分を取りにプールサイドへ戻ってきた。持ち込んだのは各自の私物だ。
まさか……。
咄嗟に頭に浮かんだのは『毒物』の単語。
西岡が持ち込んだ飲み物に、誰かが毒物を混入させた?
……でも、そうだったとして誰が何のために?
生徒達は皆、不安そうな顔でこちらを見ている。とりあえず。
今のところは【事故】としておこう。




