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八つ当たりはやめてください

「周、お疲れ!」教場を出るとすぐ、倉橋が話しかけてきた。「やっぱりお前、すごいな。『良い警官』と『悪い警官』っていうの、知ってたのか?」

「うん、聞いたことあった」


 答えつつ、ふと周は考えた。


 先ほど、明らかに上村は自分を試していた。

 だったら受けて立とうじゃないか。


 そう思って立ち上がった周は、緊張しつつ前に出た。


 彼は教科書の内容が全て頭に入っているのではないだろうか。それだけではない。

 もしかすると自分と同じように、誰か現役警官の手解きを受けたのかもしれない。


 いずれにしろ良いライバルには違いない。


「それより、急ごうぜ。次は剣道の授業だし」


 担当教官である沓澤は授業開始5分前までに、開始時間と同時に動けるよう集まっておけ、と前々から命令している。

 そのため教室移動の時間と、着替えと準備をすることを考えたら、必然的に走ることになる。


 道場に向かってかけ足をする学生達の波の中、亘理玲子が周のすぐ近くを走っていた上村に声をかけているのが見えた。


「あの、上村巡査……さっきはありがとう」

「別に、君のためじゃない」

 絶対に言うと思った。

 しかし玲子は嬉しそうな表情のまま、更衣室へ向かう。


「ねぇ、もし私が同じシチュエーションになった時も、上村巡査みたいに助けてくれる?」

 そうなると思った予想を裏切らず、周のすぐ隣を走っていた陽菜乃が話しかけてくる。


「さぁな」

「えー、ひどーい!!」

 甘えるように腕を組んでくるのを振りほどき、更衣室へ急ぐ。


 一人前になりたかったら、人に頼るな。

 そう言ってやりたかったが口にはしなかった。


 その時、ちらりと柱の影からこちらを見つめる視線に気付いた。


 和泉だ。


「……」

 怖い。

 なんか、すごく怖い目でこっちを見てるんですけど?


 見なかったことにしよう、うん。


 周は全力疾走で前だけを向いた。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 

 ※※※


 始業のチャイムが鳴るといつものように全員が整列し、揃って教官に挨拶する。


 道場の隅にはなぜか、和泉も制服姿で立っていた。

 彼がどれほどの段を持っているのか聞いたことはないが、運動神経は抜群だと知っている。

 しかし、見られているかと思うとやりにくいことこの上ない……。


 沓澤は根っからの武術好きらしく、いつもこの時間は妙に気迫がこもっている。


 だが。気のせいだろうか、今日は少し元気がないようにも見える。

 何かあったのだろうか? 


 そんな心配をよそに、彼は正座をしている学生達に向かって檄を飛ばす。

「いいか? 今週末には校内武術大会がある!!」

 そう言えばそうだった。今まで忘れていたが。

「この3か月間でお前らがどれだけ成長したかを見せてみろ。誰か一人、代表して俺に打ち込んでこい!!」


 しかし、手を挙げる勇者は誰もいない。


「なんだ、怖じ気ついてんのか?!」

 沓澤はぐるりと全体を見回した。


「よし、藤江!! お前いま、目が合ったからお前じゃ!!」


 そう来たか!!

 周は仕方なく立ち上がった。急いで防具を身に着け、竹刀を手に取る。


 実を言うと、まだ初段を取るにも至らない。

 卒業までに間に合うのか少し不安を感じているぐらいだ。


 しかし、そうも言っていられない。

 和泉も不安げな顔でこちらを見ていた。


「よろしくお願いします!」


 構えの姿勢を取って教官に向き合った直後のことだ。

 いきなり物凄い勢いで相手が傍を通り過ぎたかと思うと、既に胴を打ち取られていたらしい。


 そして。

 周は背中に強い衝撃を感じた。


 足蹴りを喰らわされたのだと気付いたのは、畳の上へうつ伏せに倒れこんでしまってからだ。


 ぐっ、と喉元が締めつけられるような感覚を覚える。

 背中を踏みつけられているようだ。


「いいか、お前ら?! 現場に出たらな、こんなもんじゃない!! 相手は竹刀みたいな柔らかいもんじゃない、鉄パイプで襲ってくる、角材を振り回してくるんだよ!! 始める前に礼なんかしねぇ、死角から突然かかって来やがるんだ!!」


「待ってください! いくらなんでも……!!」

 倉橋の声が聞こえた。


 おそらく教官は徐々に足へ体重を移動させているのだろう。

 ものすごい圧迫感に胸が締めつけられる。


「あぁ? 文句あんなら、お前が相手になるか?!」

 パン! と、竹刀のぶつかり合う音が道場に響く。


 やっとのことで身体を起こした周は、吐き気を覚え、急いで防具を外した。

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