表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/157

僕、千里眼の持ち主じゃないよ?

 今日は昨日に比べたら、食堂の空気は少し明るい。

 他の学生たちは皆、一日を乗り切った解放感で足取りも軽く、雑談を交わす余裕もあるようだ。


 が、周は気が気でなかった。

 

 なんでよりによって、和泉が……!!


 だが、彼がここへやってきた理由になんとなく予測はつく。

 おそらく一ノ関の事件のことで、内部を調べに来たに違いない。


 普段はヘラヘラと掴みどころのない人間だが、ああ見えて刑事としての能力、推理力は卓越している。

 周が高校生だった頃に起きたいくつかの事件において、真相を見抜き、真犯人を挙げた実績を知っている。


 あの澄んだ瞳は時々だが、何もかもを見透かしているような……そんな気さえする。


 でも、なぜだ?


 捜査1課と言えば殺人事件を扱う部署だ。

 つまり、やはりあの事件は本当に自殺なのかどうか。誰かがそう疑っている?


 まさか自分も疑いの対象になるのだろうか。


 そう考えたら、少なからず暗い気持ちになってしまった。


 なるべく顔を合わせないようにしよう。

 周はそう思って、どこかに和泉がいないかを確認した。

 

 すると。

 ……見つけた!!


 和泉は食堂の一番隅っこ、目立たない場所に陣取り、何がおかしいのかニコニコ笑顔で、それでいて油断なく周囲に視線を巡らせている。


 ……ように、周には見えた。


 見つからないよう、声をかけられないよう、背の高い倉橋の影に隠れて、いつものお気に入りの席に無事到着する。ほっと一息。


 今日の夕食もメイン料理の付け合わせに、やはり千切りキャベツとポテトサラダ、アスパラガスと串切りトマトがついていた。


 いつものように向かいではなく周の隣に腰かけた陽菜乃は、それこそ電光石火の勢いで自分の皿のトマトと、周の皿のアスパラガスを取り替えた。


 そう言えば。

 今日の昼食の時、彼女が宇佐美梢とやりあった場面を思い出した。


「……なぁ、あれから沓澤教官に絞られたか?」

「え?」


 陽菜乃は付け合わせのポテトサラダを口いっぱいに含んだ状態で、目を丸くする。

 何の話なのかわからないらしい。


「昼の話だよ。お前、教官室へ呼び出し喰らっただろ?」

「……ああ、うん……」


「やっぱり怖いんだろうな……顔からして既に」


 造りがどうこうというより、ただでさえゴツい体つきに、ギョロリとした大きな目。眉間に刻まれた深い皺や、やや厚めの唇。

 決してケンカを売っている訳ではないだろうが、あの鋭い眼つき。


 できることなら近寄りたくはない。

 

「……沓澤教官はすごく、優しい人だよ」

 陽菜乃はこちらを見ないで、やや俯きがちに小さな声でそう言った。

「へっ?」


 まぁ、確かに。

 先日包ヶ浦公園で妻子と一緒にいるのを見たが、子供に対してはごく普通の優しいお父さんだったと思う。


 授業中はとにかく厳しいが、それ以外の時間は案外普通なのかもしれない。


 かくいう自分の姉だって、日頃は物静かで優しいが、仕事となると人が変わる。

 義兄(駿河葵)は時々休みの日に、旅館業の方も手伝っているそうだが、きっと散々しごかれているに違いない。


 ざまぁみろ……。


「……藤江君?」


 無意識のうちに笑っていたらしい。

 気まずいのをごまかすために、周はまわりを見回した。すると。


 意外な光景が見えた。

 上村が和泉と向かい合って、何か話をしている。

挿絵(By みてみん)


ども、エビえもんこと和泉です。


え?

僕が【何もかも見透かしてるようだ】って……?


そうだね、ただ一つわかるのは。

周君は僕のこと、ホントは好きで大好きで仕方ないのに、イマイチ素直になれないってことぐらいかな。


ツンデレ、大好きだよ?

すごく可愛いよね……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ