現HRT隊員だけど何か質問ある?
そう言えば昼過ぎなのにまだ何も食べていないので、空腹であったことに気がつく。
そうだ、姉にも電話をしておかないと。
突然いなくなったから心配しているだろう。
すると、
「何か食べる? ジュノンボーイ」
金髪ヘアをツンツンに固めた、若い男性が周に声をかけてくれた。
顔つきも目元も穏やかそうだが、体つきはゴツいし、背も高い。
「ジュノンボーイって、俺……自分のことですか?」
そう、と彼は紙皿と割り箸と紙コップを渡してくれる。
「俺の彼女が君のこと、ジュノンボーイって呼んでるから。あ、ちなみに俺はHRTの黄島っていいます。よろしく」
大きな右手が差し出されたので、握手を交わす。
「……彼女いるのに合コンですか?」
どいつもこいつも。
「頭数合わせで仕方なく、ね……北条隊長の命令は絶対だし。それにほら、俺なんて全然モテないし」
顔は悪くないと思うのだが。ただ、その筋肉に圧倒されてしまうということだろうか。
ふと周は思った。
「あの、その彼女さんも俺のこと……知ってるってことですよね?」
黄島は笑う。
「そう。彼女は、捜査1課の刑事なんだ」
なんとなく思い当たる人物が一人、頭に浮かんだ。
「ちなみに強行犯係とHRTじゃ、君のこと有名になってるよ?」
「……どういう意味で……ですか?」
「1課で扱った事件に必ずと言っていいほど名前が出てくる、THE★巻き込まれ君だってね」
嬉しくない。
こっちは好きで巻き込まれている訳ではないのだ。
「あはは、ごめんごめん。そういえば隊長から聞いたけど……君もいよいよ、我々の仲間なんだってね?」
そんなふうに言ってもらえるとは思わなくて、周はそれまでの憮然とした気持ちが一気に吹き飛んで行ってしまったのを感じた。
「みんな、ほら……あの時の子だよ!」
彼の声にわらわらと男性陣が集まってくる。
「おお、あの時の!!」
「ほぅかほうか、よう来ちゃったのぅ」
たぶん、高校2年生の頃に巻き込まれた事件の折り、助けてくれた人達だ。
聞けばやっぱり全員、HRT隊員で北条の部下だという。
どうりでこの筋肉……。
ああいうふうになりたいかと問われたら、周としては微妙なところだが。
それはさておき歓迎されるのはとても嬉しい。
「ようこそ、我が県警へ」
「何か質問ある?」
彼らの話はとても興味深いものだった。
既に現場に出ている彼らの経験談は、とても参考になった。
せっかくの姉との大切な時間を邪魔されて、初めはいい迷惑だと思っていたが、思いがけない収穫である。
姉に話せる【いいこと】がまた一つ増えた。
結局、その合コンの成果のほどは知らないが。
周は和泉を完全に放置し、既に現場に出ている先輩警官達の話に一生懸命耳を傾けた。