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誰の仕業か特定できたら、タダじゃおかないわよ?

 殺人の上に、不倫?


 北条としては笑うしかなかった。


 あの沓澤に限ってあり得ない。


 ガタイはいいが意外と小心者で、女性の扱いをまったく知らない。

 独身だった頃、何度か彼を合コンに連れて行ったことがあるが、今の自分の部下達よりももっと酷い有り様だったことを覚えている。

 女性から何か質問でもされようものなら、すっかりあがってしまって、声すらまともに出なくなるほどだ。


「どうして、そんな話になったのよ?」

「……実は先日、私のところにメールが届いたんです……」


 これです、と珠代はカバンからスマートフォンを取り出してみせる。有名なSNSのダイレクトメールに届いていたのは、


【沓澤武明は人殺しだ。その上、担当している教場の女子学生に手を出している】


 だた、それだけの文字。

 差出人のアカウントは既に削除されているようで、特定はできない。


「……あんた、こんなのを本気にしたの?」


 珠代はうつむく。


「自分の夫がどういう人間か、知らない訳じゃないわよね? あの沓澤に限ってどうしてそんなこと……」


「私も、初めはそう思いました!! でも……」

 彼女は目に涙を浮かべ、必死の形相で続ける。

「この頃ずっと、帰りの遅い日が続いていて。昨日もそうでした。家であまりご飯も食べないし……その上、休みの日にも一人だけで出かけてしまうことが多いんです」


 北条は頭の中でシフト表を思い浮かべた。

「先週の日曜日は当直だったわ。昨夜もそう」

「ええ、それは……承知しています」


「あいつがデスクワーク、苦手なの知ってるでしょ?」

「……はい」


「あんたの家って、学校からけっこう離れてるじゃない。晩ご飯はいらない、食べないって言う日は仕事で帰りが遅くなって、お腹が空いたから、途中どこかで食事して帰ってるって言う可能性か……もしくは……時々だけどね、個人的に稽古をつけて欲しいって沓澤に頼む学生がいるのよ。そう言う時あいつ、学生にご飯をおごってやったりすることが多いの……そう言う話、聞いたことない?」


 一つずつ、嫌な予感を論理的に潰して行く。


「言っておくけど別に、あんたの料理が不味いとか、そう言うことじゃないわよ」


 だんだんと、珠代の顔色が明るくなっていったのがわかった。

「そう、ですよね……」


 それにね、と北条はたたみかける。

「あんたも自分が元警官で、現警官の妻なら知ってるでしょ? この仕事してると、訳のわからない奴から逆恨みされて……嫌がらせを受けることはよくあるって」

 あと、考えられるケースとしてはそれしかない。


 北条はテーブルの上に置いてあったショート缶のビールをとり、一気に飲んだ。


「特に沓澤は仕事熱心だから、学生に厳しいのよ。もしかすると……退校処分にあった学生の仕業かもしれないわ」


 今までにもう3名が退校している。理由は様々だが。


 珠代は納得してくれたようだ。


「ごめんなさい、私……」

「……いいのよ。あんたが沓澤にベタ惚れだってことは、よく知ってるから。ちょっとしたことでも不安になっちゃうんでしょうね」


 ちょっとしたこと、どころではないが。

 珠代は頬を赤く染めて、自分の夫と子供の方に視線を向けた。


 ただ、と北条は思う。

 本当にただの悪戯ならいいのだが。


 しかし、不倫の方はともかく、人を殺したというのは……?


 珠代はすっかり安心している。この際、そちらはあえて突っ込まないことにしておこう。


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