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204号室の幽霊騒ぎ:1

エビちゃ!!

エビ太だよ♪


挿絵(By みてみん)


あのねあのね、今回ね、挿し絵のどこかに僕かエビ美ちゃんがいるよ!?

完結まで何回出てくるか、全部見つけることのできたすごい人に、素敵なプレゼントがあるエビっ!!


……たぶんね……。

「なぁ……周」

 授業が終わり、更衣室で着替えている時に倉橋が周に話しかけてきた。


 どうも、どこかに打ち身を作ったらしい。周は痛む箇所をさすりつつ、

「なに?」

「……前から思ってたんだけどさ、沓澤教官ってなんとなく、お前のこと目の敵にしてないか?」


 彼がそう言うのは先ほどのことが念頭にあるからだろう。2人が友人同士だと知っていて、殴り合いをしろと命じてきたのだとしたら。


 実を言うと、周も薄々感じてはいた。先日のランニングの件といい。


 何か怒らせるようなことをしただろうか? 心当たりはない。

 それに、まさか仕事に私情を挟んだりはしないだろう。和泉じゃあるまいし。


「それにしても、お前が避けてくれて、ほんとによかったよ……」

「あはは、さっきのパンチか? どっから飛んでくるか丸かわりだったぞ」

 周は笑ったが、倉橋は真剣な顔をしていた。


「気をつけろよ、周……」

「何が?」

「お前、良くも悪くも目立つからさ。いろんな奴に目をつけられてるの、自覚した方がいいぞ……」


 そう言われても。

 周としては困惑するばかりだ。


 目立ちたいと思っている訳ではないし、むしろそれを望んでいるのは他にいるだろう。

 例えば【チャラ男】という呼称がぴったりくる寺尾とか。


「恨みを買ってるとしたら、あれだな」

 突然、背後から寺尾の声が聞こえた。こちらの会話を聞いていたらしい。

「藤江って、なんだかんだ女子にモテるもんな。それに比べてあの教官は顔もアレだし……醜い嫉妬だよ、嫉妬」


「既婚者だろ」

 周の代わりに倉橋が答える。

「そんなの関係ねぇよ。サツ官たって人間で、男だぜ?【悪徳警官】なんて単語があるぐらいだ」

 それを聞いてふと、周の頭の中に和泉の顔が浮かんで消えた。


挿絵(By みてみん)


「お前ら、あの沓澤教官の奥さん知ってるか? 俺、前に一度だけ写真を見たことあるんだけどよ、すげぇ美人なんだ。なんでよりによって、あんな不細工なのを選んだんだろうな? 相当近眼なのか、金目当てなんだろうな。沓澤って実家がド田舎で地主かつ農園をやっててさ、けっこうな資産家だって噂だぜ?」


 寺尾は沓澤をひどく憎んでいる。


 本人のいないところで、沓澤の容姿を揶揄して悪口を言うのが常だ。


 周に言わせればあの教官は確かに、体格が立派なのとやや眼つきが悪いので、ぱっと見た感じが怖いとは思うが、どこにでもいる平均的な顔立ちだと思う。

 それを言うなら寺尾だって、これと言って特徴のない平凡な外見だ。


 それにしても、嫌いなはずの相手のことを随分とよく知っているものである。


 彼(寺尾)が沓澤を嫌う理由は、最早クラス全員の知るところとなっている。



 入校して間もない頃のことだ。逮捕術の授業の際、何か格闘技の経験があるという寺尾は調子に乗って、経験のないクラスメートに次々と技をかけた。

 そのことを沓澤に咎められ、当然ながらひどく叱られた。


 しかしこの男は注意されたことに対し、延々と弁解を並べ立て、自分の正当性を主張したのである。


 傍で聞いていた周も苛立ちを覚えたぐらいだ。沓澤はなおのことだろう。


 ついに怒りを爆発させた教官は、寺尾に言った。

『できるものなら自分に技をかけてみろ。一つでも成功したら、一切なかったことにしてやる』


 それから、ものの3秒ほど後のことだ。

 寺尾の高い鼻がポッキリと折られたのは。


 沓澤が鮮やかな背負い投げを決め、寺尾は畳の上に背中を叩きつけられていた。

 おまけに女子学生も見ている前で、道着の下半分を膝までずり降ろされた彼の、あの時の表情は今でも鮮明に覚えている。


 あれ以来だ。


「だからさ、仮にここをクビになっても食うには困らないってことだよな」

「おい、よせよ」

 倉橋が止める。「誰が聞いてるかわかんないぞ」


 そうなのだ。壁が薄いとか、そういう問題ではなく、生徒達の動向や発言は厳しく監視されていると言っていい。それに。


(あの人、異様に耳がいいしな……)

 新しく教官として赴任してきた長髪の男を思い出す。


「かまやしない。俺には、怖いものなんて何もないんだからな……」


 その自信はどこから来るのだろう?

 どこまでもポジティブなのか、それとも何も考えていないだけなのか。


 周に判断はつかなかった。


「なぁ、それよりさ。お前ら例の噂を知ってるか?」

 寺尾は脱いだ靴下を丸めてお手玉を作り、掌の上で転がしながら引き続き話しかけてくる。

「噂って?」

「……出るんだってよ」


「……何が?」

 寺尾は胸の前で自分の両手を垂れてみせ、

「204号室の幽霊」

「幽霊……?」

 周と倉橋は顔を見合わせた。


 204号室と言えば、確か寺尾の友人である一ノ関が使っている部屋だ。


「あの部屋って昔、自殺した巡査が使ってた部屋なんだってよ。部屋の中で死んだ訳じゃないらしいけどな」

 初めて聞いた。が、周はまったく興味のない話だったので、さっさと彼に背を向けた。



 一応、本日の授業は終了である。

 任務解除になると建前上は自由時間だが、たいてい自主トレと称した強制トレーニングに参加させられるので、道着からジャージに着替えなければならない。


 基本はランニング。隊列走といって、三列縦隊を作って掛け声を掛けながら歩調を合わせて走るのである。


「……壁のシミがさ……」

 寺尾はまだ何か言っている。


 アホらしい。


 周が更衣室を出ようとすると、

「周、待って!!」

 倉橋が慌てて追いかけてきた。


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