Q:眉毛は書いてもいいですか? A:書きなさい、怖いから
「はい、じゃあ。あなた。実際にやってみせて」
梢は北条の傍に近づき、膝をついて耳元に口を寄せる。
それから。
「わーっ!!」と、大音量で叫んだ。
キーン!!
突然、耳の近くで大きくて甲高い声を出された周は眩暈を覚えた。
彼女の声はそれだけで凶器になりうる。
「はい、正解! 他には?」
北条は周の上から少し身体を起こし、女子生徒達を見回す。
誰も彼も梢に遠慮しているのか、それとも本当にわからないのか発言を控えている。
「なんだ、他には出ないの?」
しかし。
「はい!!」
手を挙げたのは、やはり同じ教場の女子学生、水城陽菜乃であった。
どう言う訳か彼女はいつも宇佐美梢と張り合っている。それは入校してから約3か月経過した現在、同じ教場の学生達の間では周知の事実だ。
彼女は許可が降りる前に発言する。
「耳か鼻に噛みつく、もしくは目玉を突く、です!!」
「そうね、それも正解……実演してみせなくていいから」
北条は周が起き上がるのを助けてくれてから、自分も立ちあがる。そうして一同、特に女子達を見回して言った。
「ま、こういう訓練の場では理屈で解答できるけどね。いざとなったらパニックになってしまうのが関の山よ」
「……」
全員が黙り込んだ。現実はマンガやドラマのように上手くはいかない。
「パニックになると、冷静な時にはできていたはずのことができなくなる。そうね?」
いきなり話を振られた沓澤は、はい、と返事をする。
「相手が女だと思ってバカにする男は掃いて捨てるほどいるわよ。警察の中にもね。そういう奴らに舐められないためには、覚悟を決めなさい。女を捨てるぐらいのね」
それは少し酷ではないか……と、周は思ったが黙っていた。
女子学生達は誰も返事をしない。
北条は腰に手を当て、溜め息交じりに続ける。
「だ、か、ら。アタシが言いたいのはつまり……こういうこと。制服がカッコいいからとか、つまらない自己満足のためにこの学校にいる奴は、いますぐ退校しなさい!!」
急に最後だけが大声になったので、ドキっと心臓が跳ねる。
「特に、そこのあんた!!」
ツカツカと大股で北条は女子学生達の群れに歩き進んで行くと、いきなり一人の手首をつかんで持ち上げた。
「いい色ね、そのグロス。今年の新色?」
「は、はい……」
ニッコリ笑ったかと思うと次の瞬間、
「バレないとでも思ってた? メイクは一切禁止。二度目はないわよ?!」
女子学生は血の気を失った。
グロスなる物が何なのか、周はそれすらも知らない。彼女が化粧していたことも、まったく気付かなかった。
「ほら、ボンヤリしない!! 次の行動にさっさと移りなさい!!」
この人の前で隠しごとはできない……。
周は改めてそう思った。