別れの予感
食事を残すことは許されないので、ほぼ無理矢理に昼食を詰め込み、周はそのまま午後の授業に突入することとなった。
午後は武術の授業だ。
重い足取りで廊下を歩いていると、
「周君、周君」
和泉の呼ぶ声がする。
「こっちきて」
急に腕をとられ、引っ張られる。
「な、なんだよ……?!」
そうして連れて行かれたのは、学校の裏門。
そこにはパトカーが何台か止まっており、何度か見たことのある顔ぶれも揃っていた。
「あれ、藤江君?」
「水城……」
振り返るとなぜか陽菜乃が、女性警官に背中を押されるようにして歩いている。
「どうしたの? そろそろ午後の授業の準備しないと、間に合わないよ?」
いつもと変わらない笑顔。
「どこへ行くんだ……?」
「え? どこって……」
陽菜乃はキョロキョロと辺りを見回す。
何だかひどく嫌な予感がした。
周は思わず彼女の手をとり、両手で強く握りしめる。
でも。何を言ったらいいのかわからない。言葉が出てこない。
すると陽菜乃は、
「あのね。私、藤江君にはいっぱい謝らないといけないことがあるんだ……」
「なんだよそれ……」
「初めて会った時から、この人なら間違いないなって思っていたんだ」
「……何の話だよ……ちゃんと最初から話せよ」
「たくさん迷惑かけてごめんなさい」
ぺこり、と彼女は頭を下げる。
「何が……訳わかんねぇよ。詳しいこと、はっきり言えよ!!」
周は思わず苛立ちを表に出してしまった。
しかし、彼女は笑顔を崩すことなく、
「藤江君はきっと間違いなく良い刑事になるよ。私、心から応援してるからね!!」
そろそろ、と女性警官が陽菜乃の肩を押そうとする。
待ってください、と周は名前も知らない先輩に声をかけた。
「おい、陽菜乃!!」
「ふふ……初めて名前で呼んでくれたね……」
周は握っている彼女の手を引っ張り、自分の方に引き寄せた。
柔らかい感触。
伝わってくる確かな温もり。
こいつ、こんなに小さかったっけ……?
「私のこと、陽菜乃って呼んでいい男の人は沓澤教官と藤江君だけだからね?!」
「……え?」
陽菜乃はそっと周の肩を押し戻し、それから。
「大好きだよ、藤江君」
頬に彼女の唇が触れたのがわかった。
「沓澤教官の次にね?」
何があったのかは詳しくは知らされなかったし、聞くことも許されなかった。
だけど。
なんとなく……うっすらとは感じている。
水城陽菜乃とは、もうここでは会えない。
そのすぐ後だった。
「これを……彼女から預かってる。後でゆっくり読んで」
和泉から白い封筒を渡される。
周はそれをポケットに入れて、更衣室へと急いだ。




