女優達の共演
「それほど長い時間ではありませんでしたが、僕は学生達の動向……人間関係を観察してきました。複数人が集まれば、どうしたって気の合わない相手が出てくる。そう言う時、たいていはお互いに関わらないことで平和にやっていくものです。でも、水城陽菜乃と宇佐美梢……彼女達はわざわざ他人に見せつけるかのごとく、何かと張り合っていた……そこが僕には疑問でした」
それは他の学生達にとって一種の【見せ物】と化していたようだ。
彼女達のことを話す時、特に男子学生達は皆、おかしそうだった。
「沓澤さんはご存知かどうか知りませんが、女性と言う生き物は……僕もあれこれ語ることができるほどには知りませんが……みんな女優ですよ。表向きは互いの化粧や持ち物を褒め合って、仲良さそうにしておきながら、裏では散々お互いの悪口を言い合っている」
そうね、と北条が合いの手を入れる。
「その公式をあの2人に当てはめてみたところ、出た答えは……表向きは仲が悪いフリをしておいて、実は裏で何か取り引きしていたのではないか?」
「陽菜乃は……そんな女じゃない!!」
和泉が黙っていると、彼は気まずそうに目を逸らした。
「……なぜ、そんなことをする必要があったのか? 実は……宇佐美梢は、水城陽菜乃の兄と顔見知りでした」
「な……っ?!」
「彼女の親しい友人が、水城兄……高柳稔と交際していた。あの寺尾が起こした3年前の事件の折り、彼女も実は宮島へ、包ヶ浦海岸へ同行していたのです」
知らなかったようだ。
沓澤は唖然としている。
「彼女は友人の少女と2人、助けを求めてその場を離れていたから、実際に寺尾が殺害した場面を見てはいなかったそうです。でも状況からして、明らかに事故ではないと2人とも考えたそうです」
「なぜだ……? なぜ、殺しだと……?」
「さっき、本人が言っていたじゃないですか。その高柳稔という少年は、自分が目をつけていた少女を横取りしたジャマな男だった……と」
「あいつの言い分では、自分の彼女に、向こうが手を出そうとしてきた……と」
「あんなクズの言うことを信じるんですか?」
「……いや……」
「あなたはどうも、イマイチ学生のことをちゃんとよく見ていませんね? 今までの言動を振り返ってみてください。寺尾の物の考え方、人となり……」
納得したようだ。
「あのクズは通称【逆玉男】だったそうですよ」
「それは、どういう……?」
「簡単に言えば、署長もしくは部長クラスの親を持つ子供に近づいて、縁故を利用して楽に出世したいと願うことです」
「……本当にクズだな……」
あまり人のことは言えないので、和泉は黙っておいた。
「さて。寺尾と宇佐美梢は中学時代からの同級生でした。中学生の頃、奴は宇佐美梢に熱心に言い寄っていました。彼女の以前の名前は堤梢。何か思い出しませんか? 堤と言えば……」
「……警備部長……? あの話は本当だったのか!!」
「でも彼女のご両親は離婚し、立場は変わった。離婚の原因は堤洋一……5年前に自殺した彼女の兄の事件が原因で」
「……」
「過去に一度、宇佐美梢にお会いになったことは?」
「……ある」
「自宅を訪ねてきたそうね?」
「……はい。ものすごい剣幕で、兄を返せ……と……」
「彼女が入校してきた時、驚きませんでしたか?」
「もちろん、驚いた。あの時の子だと、すぐに気付いた……でも……」
「ご安心ください。彼が自殺した原因は、あなたのせいではありません。そのことは彼の同期生らが口を揃えて証言しています」
沓澤は心底、ほっとした顔を見せた。




