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「聞いたよ。武術の授業の時、沓澤教官に何度か恥をかかされたらしいね?」
そんなことがあったのを周も覚えている。
思い返せば『無様』としか言いようのない記憶。
「この人、強そうだもんね。見るからに」
和泉は笑いながら、教場内を見回す。
「でも、認めたくはない。つまらないプライドを保持するために、次にどういう行動に出るのか……? 想像もつかないよね? 普通の感覚を持っている人間なら」
酷いことを言う、とも思ったが、もっと聞いてみたい。
この勘違い甚だしい男をこきおろす言葉を。
「答えは簡単……そう、わかりますよね? 沓澤教官」
ずっと黙って俯いていた沓澤は急に話を振られ、驚きに顔を上げた。
「わかりませんか? 奥さんから、何も聞いておられないのですか」
「……? 妻が、なんだって……」
「例えば、奥さんのところに『あんたの旦那は浮気してるよ』といったような、捏造写真を送りつけるとか……ね」
沓澤は何かを思い出したようで、はっ、と顔を上げた。
「まさか、この頃ずっとあいつの様子がおかしいと思っていたが……」
それからガバっ、と立ち上がって寺尾の元に近づいてくると、
「貴様か!! 珠代にあんな……あんなものを送りつけたのは!!」
胸ぐらをつかみ、拳を振り上げる。
「待ってください」
彼を制止した和泉の眼は冷たく、咎めるような表情にも見えた。
「今はまず、私の目的を果たさせてください」
沓澤は項垂れ、寺尾から手を放して元いた場所に戻った。
「……今までの一連の話を聞いて、君達はこの寺尾弘輝と言う人間を、どう評価する?」
そんなの、言うまでもない。
こいつはただのクズだ。
いつか陽菜乃が言っていた【人の心を持たないモンスター】
言い得て妙だと思う。
もはや人間ですらない。
「お前ら全員、こんな奴の言うことなんか信じるな!! さっき読んだのが、本当にイチ……一ノ関や西岡が書いた日記だなんていう保証はどこにもないんだぞ!! このエセ教官がそれこそ捏造した偽物かもしれないじゃないか!!」
この期に及んで、寺尾は最後の砦とばかりに叫ぶ。
「全部、作り話だ!! 虚偽だ、こいつは大嘘つきだ!!」
しかし。
誰も彼に味方する者はいない。
白けた空気が場を支配する。
寺尾はなおも何か叫んでいたが、ほとんど日本語になっていなかった。
教場仲間達の白い目と無言の圧力が、やがて彼を沈黙させた。
「ついでに、というか。ここが一番肝心なんだけど」
和泉は教場の電気を消した。
「窓際の人、カーテンを閉めて」
授業の際に使用するスクリーンが降りてくる。
「包ヶ浦海岸で亡くなった、その被害者なんだけどね」
白い布にぱっ、と光が当たる。
「名前は高柳稔君。どうだろう、どこかで見た顔じゃないかな……?」
そこに映っていたのは水城陽菜乃の顔だった。
「……うそ……」
誰がそう呟いたのだろうか。
周は驚愕にしばらく声が出なかった。
「……さっき、少年って……」
そう呟いた声は倉橋だった。
「そう、間違いなく少年だよ」
「でもこの写真……」
「そっくりでしょ? 水城陽菜乃に。そりゃそうだよ、双子の兄妹なんだから」




