らぶらぶ
「ねぇ、聡さん。聡さんは、どうして警察官になりたいと思ったんですか?」
和泉が真っ赤に腫れた頬を撫でながら、問いかけてくる。
なぜ今さらそんなことを?
「そりゃお前、公務員で、比較的給料もいいからだ」
素直な気持ちを答えてみる。
「……それだけですか?」
「刑事になりたいと思ったのは、カッコいいから。そういうお前は、もしかして長野警視の背中を追いかけたのか?」
「じょ、冗談じゃないですよ!!」
少しはある、と見た。
日頃はふざけた顔しか見せないあの課長だが、いざという時に頼りになることは知っている。
前の課長と違って、心から正義を愛している人だということも。
「僕は、父が……あ、生みの方です……そうだったって聞いて……なんとなく」
「なんとなく、な。そんなもんだろう」
しばらく思うところがあって、2人とも黙っていた。
やがて。
「ねぇ聡さん。本当の正義って、なんでしょうね……?」
ぽつりと和泉が呟く。
「何なんだろうな……?」
「我々は法律を学び、遵守するよう教えられてきました。でも、世の中には……法で裁くことのできない理不尽が数えきれないほど存在する。眠れない夜を幾つも過ごして、それでも報われない人だっている……そうでしょう?」
煮え湯を飲まされるような気分を味わったことは、今までだって何度もある。
それでも。
自分はやはり、この組織の一員として存在している。
若い頃には怖いものなんて、何一つ存在しなかった。
自分が正義だと、本気で信じていた。
「僕は、あいつ……一応【課長】と呼ばなければいけない人から、あまりにも真っ直ぐな正義感を抱いてこの組織に入ってきたら、幻滅すると教えられました。実際、その通りでした。そして宇佐美梢は……いや、水城陽菜乃も。彼女達はわかっていたんでしょうか……? ここに入ってくることと、その実態を……」
やめよう。
答えの出ない討論は。
「辛いな」
「……」
「それでも、俺が今までやって来られたのは……お前が傍にいてくれたからだ」
振り返ってみれば。
本当に辛かった時、腹が立って仕方がなかった時も。
いつも和泉が傍にいて、2人で分かち合ってきた。
「彰彦。これからはお前が、周君を支えてやるんだぞ。俺は充分に、お前にそうしてやれたかどうかわからないが……」
「まだもう少し、時間は残ってるじゃないですか。それに……」
和泉が額を肩にくっつけてくる。
「聡さんにはこれ以上にないっていうほど、充分良くしてもらいました」
聡介は息子の首を抱き、猫の毛によく似た柔らかい髪を撫でてやった。




