今日のメニューはサバの味噌煮と出汁巻き卵定食なんだエビっ
いただきます、と食事前にクラス仲間達と全員声を揃えるのなんて、小学校以来な気がする。
この学校では管理栄養士監修のもと食事メニューが全員統一されている。好き嫌いは許されない。座る場所は自由に選べるのだが。
幸いなことに、周には食べられないものがなかった。
仲間達の中には「これだけは無理」と言う者もいて、そんな時周はこっそり、相手の皿の上から自分の皿に、見つからないように慎重に動かすのであった。教官に見つかったら大目玉だ。
「なぁなぁ、藤江巡査」
同じ教場の学生の一人が声をかけてきた。
「お前、北条教官と顔見知りなのか?!」
やっぱり来たか。
「……まぁな」
「なんで?! どうやって知り合ったんだよ!!」
彼が大きな声を出したので、なんだなんだ? とまわりの学生達も集まってくる。
黙っている訳にはいかなくなったようだ。
「……昔、助けてもらったことがあるんだ」
周はそれだけを答えた。
「へぇ? 何があったんだよ」
「ま、いろいろ……」
まさか、人質立てこもり事件に巻き込まれたことがあって、それも2度も!! 助けてもらったなんていう過去をあまり他人には言いたくない。
「いいよな、教官が顔見知りって言うのはさ。どうせ、そういうコネで身びいきしてもらうんだろ」
周の斜め向かいに座っていて、先ほど、北条に叩かれていた寺尾が言った。頬が真っ赤に腫れている。
「藤江巡査は今年のホープだもんな」
一ノ関が呼応する。彼も顔の右半分が赤い。
またか。あいつらはいつもそうだ。
周はそれを無視して、食事を再開した。
こちらが相手にしないのを見てとった彼らは、舌打ちして自分達も食べ進め始める。
ガキ……。
声に出さずに、胸の内で呟いておく。
周は自分がそれほど大人びているという自覚はないが、時々、同級生を見ていると感じることがある。
彼らはあまりにも【幼稚】だ、と。
注目して欲しい、かまって欲しい。
気になる相手にちょっかいを出しては反応を楽しんでいる。それでいて、思うようにならないと癇癪を起こす。
考えてみればここにいるのは全員、ついこないだまでは高校生だったのだから、多少子供っぽいのも無理はないのかもしれないが。
けれど。どちらかと言えばごく幼い頃から、まわりの大人たちに気を遣って生きてきた周にとっては、彼らは精神年齢が幼いまま、身体だけ大きくなったようにしか思えないのである。
特に寺尾とその取り巻き2人。
もし、ここはそういう子供のような振る舞いが許される場所ではない、と理解できていたら……とっくに退校しているか、態度を改めているはずだ。
彼らのようなのをある意味で『空気が読めない』というのだろう。
それはそれで、本人達にとっては幸せなのかもしれないが。