続:友人の証言
「そんな時です。寺尾が私と梢ちゃんと稔君に……宮島の包ヶ浦海岸へ行こうって誘ってきたのは」
思い出しても気分が悪くなるのか、少女……立川七緒は顔を歪めた。
「初めは断りました。でもどういう事情か知りませんけど、稔君が行こう、って言い出して……私達、彼がそう言うのならって了承したんです」
恐らく、断ることのできない状況を作り出したのだろう。それが何なのかはわからないが。
「そうして事件は起きました。寺尾は私達を、人がほとんど来ないような海岸の外れに連れて行ったんです。今もわからないんですが、稔君がどうしてあんな奴の言いなりになっていたのか……」
「恐らくですが。何かから、あなたを守ろうとしたのではないでしょうか?」
七緒はうなずく。
「そうしたら、そこに2人の……見たことのない若い男の子がいました。一目で危ない人達だな、ってわかりました。煙草を吸ってたし、アルコールの缶を持っていましたから」
その時、と思い出して彼女は身震いし始めた。
「寺尾が突然、その人達にケンカを売り始めたんです。何がきっかけだったのか、なんて言ったのか……もう、覚えていませんけど。とにかく、険悪な空気になって……稔君は私たちに、警察の人を呼んできてって言って、だから私達、急いでその場を離れました。ようやくおまわりさんを見つけて戻ってきた時……彼はもう、倒れて息をしていませんでした……」
呼吸が荒くなってくる。
ひょっとすると精神的な負担による過呼吸ではないだろうか。
「無理しないで、落ち着いてください」
「いいえ、大丈夫です!!」
七緒は肩を上下させ、目をギラギラ輝かせながら続けた。
「私は咄嗟に、寺尾が彼を殺したのだと思いました。でもあいつは、当然ながら否定しました。揉み合っている内に、稔君が勝手に転んで頭を打ったと……そう主張しましたが」
当然だろう。
聡介はそう思ったが、黙っていた。
「私には、どうしても信じられなくて……あの場を離れるべきではなかったと、今でもそう後悔しています」
「あまり、ご自分を責めてはいけません。あなたは彼の言う通りに行動した。そのこと自体は決して間違っていませんから」
少女は少しだけ、ほっとした表情になった。
「結局……寺尾と他の2人の供述により、稔君の死は事故扱いで終わりました。でも私も梢ちゃんも、どうしても納得がいかなくて……」
目撃証言があったら、また話は変わっていたかもしれないな。
聡介がそう思った時。
七緒が急に大きな声を出した。
「後でわかったことです。その時、絡んできた不良2人は……寺尾とグルだった。つまりあの事件はすべて、やらせだったんです」
「……!!」
「初めから稔君を、彼を、事故に見せかけて始末するのがあいつの目的だったんです!!」
でも、と少女は語る。
「証拠がありません。お互いに、知らないフリをしていれば……事の次第は闇に葬られてしまう……でも私は今も、決してあきらめていません……!! 梢ちゃんもそうです。だから彼女は、私の為に……警察官になるのだと。私も、身体さえ問題なければ彼女と同じようにしたかった!!」
彼女はその事件以降、体調を崩し、療養のため今の住まいへ引っ越したのだそうだ。
「梢ちゃん、きっとあの事件のことで何か掴んだんです!! それを知った寺尾が口を封じるために、彼女を……!!」
少女は興奮のあまりか、咳き込み始めた。
思わず聡介は手を伸ばして彼女の背中に触れた。かなり痩せていて、皮膚のすぐ下が骨なのではないかと思うほどだ。
その一方で和泉は黙って考え込んでいた。
「……」
「彰彦?」
「……今回の事件、なんとなくですが。全体像が見えてきたような気がします……」




