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ファザコンがマジギレしたエビよ!?

隊長さ~んっ、止めてあげてエビーっ!!


挿絵(By みてみん)


「殺人事件の動機にもいろいろあってね。意外と多いのが、脅迫。こんなこと世間に知られたら……っていうアレね? 楽して大金が手に入るんだから、一度始めたら味を占めるってもんだよ。ただし、常に危険と隣り合わせだってことを、認識していない人が多いね~。ね、そう思うよね?」


 和泉は一番前の席に座っている学生に同意を求める。

 いきなり話を振られた相手は、困惑しつつはい、と答えた。


「それから、脅迫と似て非なるのは……知らなくてもいいことを知ってしまった。見られたらマズいところを見られた、聞かれたくなかった話を聞かれた。いくら、誰にも言いませんって言ったところで……秘密を握られた側は、気が気じゃないよね?」


 ああ、そうだ。

 高校生2年生の冬、そんな事件についての話を聞いた。


 自殺に見せかけて殺害され、そうして……遺された家族は、被害者のために復讐を誓った。


「あとは……そうだなぁ。やっぱり痴情のもつれがダントツだね」

 和泉は腰のところで手を組み、教場内をウロウロしながら話を続ける。

「今のメンバーになって最初に扱った事件は、夫の不倫相手を、カッとなって思わず撲殺しちゃったっていう話だったなぁ……」


 まるで独り言のように。

 和泉は遠い目をして、講義とも何とも言えない話を繰り広げている。


「ねぇ、君。彼女いる? 彼氏でもいいけど」

 前から3番目の列に来た時、彼は突然、右側にいた男子学生に問いかける。

 彼氏とか訊くな。


「は、はい……」

「ちゃんとマメに連絡してる? 忙しいからって放っておくと、他の男のところに逃げて行っちゃうよ? 僕、そのパターンで奥さんに逃げられた経歴があるから間違いないよ」


 ドっ、と笑いが起きる。

 周は呆れてしまって、笑う気にもなれなかったけれど。和泉はニコニコしている。


「でね? 続けてそこの君。もしも……だよ? もし警視総監の娘から突然、君のことが気に入ったから付き合って欲しいって言われたら、今の彼女のことはどうする?」


「え……」

「正直なところを答えていいよ? 仮に、の話なんだから」


「……えっと、やっぱり今の彼女に誠意を尽くします……」

「模範解答だね」

 和泉は笑いながら、また歩き進める。

 回答した男子学生はムっとした表情になった。無理もない。


「この手の男女トラブルも、けっこう多いんだよね~。それだから、女の子の方も必死になって嘘を作るんだよ。ウチのパパはとある有名企業の創業者一族で……」

 今度は女子学生の方が一斉に嫌な顔をした。


「でもやっぱり、本物のお嬢様は狙われるんだよ……逆玉を狙う男にさ」


 確かに、そういう男は存在するだろう。


 周の姉の親友で、両親がかなり社会的に高い地位にいる女性がいる。一度だけ彼女が、ブツブツ文句を言っていたのを聞いたことがある。


挿絵(By みてみん)


 あからさまに下心見え見えな男が近づいてくるの、ほんとに嫌だわ。


「で、ね。上村君だったよね?」

 なぜか和泉は上村のところで足を止める。


「君は宇佐美梢のこと、どう思ってた?」

「……別に、何とも思っていません」


「どうして? 彼女のパパは警備部長、叔父さんは方面本部長、お祖父さんに至っては何代か前の県警本部長なんだよ?」


 さっ、と寺尾の顔色が変わったのがわかった。


「上手く彼女に取り入ってご機嫌をとってたら、もしかしなくても出世コースぶっちぎりだったかもしれないね?」


 上村は溜め息交じりに応える。

「実力が伴わなければ、華々しい肩書きなど何の意味も持ちません」


「周く……藤江巡査はどう思う?」

「俺、自分も同じです」

 ちらりと視線だけで寺尾を見つめ、続ける。「努力した分が必ずしも、報われる訳じゃないことは、よく知っています。でも。きっと楽をして上に行きたいって思っている人間はたくさんいます。でも、肩書きだけなんていざって言う時、本当の非常事態に化けの皮が剥がれて……恥をかくのは自分です」


 すると。

 寺尾が突然立ち上がって、大きな声で笑い出した。


「バカかお前ら!! ほんっと、何にもわかってないただの子供ガキだな?! この組織はなぁ、実力なんて何も役に立たないんだよ!! コネと金、それがすべてだ!!」


 学生達は全員、黙りこむ。


「あんただってそうだろう?! 知ってるぜ、元県警本部長の娘を嫁にもらって、警部補まで昇進できたのはいいけど、逃げられて……今じゃ島流しの身だ。捜査1課強行犯係の高岡警部の班っていや、全員、過去に何かしら問題を起こしたクズ警官の掃き溜めだって有名だぜ?!」


 和泉の顔から表情が消えた。

 彼はなぜか、寺尾に背を向けた。


 背中に感情があらわれる、という話を聞いたことがある。それが本当なら、今、彼の後姿から読みとれるのは『激怒』だ。


「あーあ、つまんねぇ。こんなくだらない授業なら、俺は抜けさせてもら……」


 和泉が振り返る。

 振り向きざま、彼の右手の拳が寺尾の鼻先を捉えていた。


 ガタガタンっ!!


 机や椅子をなぎ倒し、派手な音を立てながら、寺尾はバランスを崩して床の上に尻もちをつく。


 追い討ちをかけるように、和泉がその左肩に蹴りを加える。

 彼のすぐ近くに座っていた学生は、咄嗟に逃げて、上手く巻き添えを回避した。


 逃げようとして起き上がりかけた寺尾の背中を、和泉が足で踏みつける。


「……誰が、勝手に発言して、退出してもいいって許可した……?」


 北条でも沓澤でもない。


 今、この教場を支配しているのは……和泉だ。


「う……訴える、訴えてやるぞ!! この暴力教官!!」

「好きにすれば? ただし、初めにこの学校に入った時……教わったはずだよね? 暴力に慣れろってさ」


「和泉さん!!」

 思わず周は、素の状態で和泉にしがみついた。

「いくらなんでもやり過ぎだよ!!」

「……」


 ややあって、和泉は足を退かした。


「……さてと、前座はここまで。じゃあ改めて授業を始めるよ」


挿し絵の彼女のこと、覚えてる?!

今回、さりげなく(?)過去作のエビソードをふんだんに盛り込んでしまったエビよ(笑)


未読の方は是非……ふふふふふ♪




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