「じ」と「び」って言う具合に省略されるらしいですよ
えー、刑事部は「じ」で、警備部は「び」とか何とか聞いたことが……省略しすぎだろ!!
法学の授業が終わり、あと残すところは「地域警察」の授業のみだ。
テキストやノートを準備している時、周はふと陽菜乃のことを思い出した。あれからどうしているのだろうか。
「……助けてやったのに、お礼もなしか?」
びっくりして周が声のした方を振り向くと、上村だった。
「あ、ありがとう」
まさか自分から礼を強要してくるとは。
「教官もおっしゃっていたが、ああ言う時には自分で何とかしようとするよりも、すぐに手を挙げて報告した方がいい。君はなんというか、何もかも一人で抱え込もうとする悪い癖があるようだ」
そうかもしれない。
「そう言う態度は時に、思い上がりにつながる。自分の限界をもっとわきまえるべきだ」
「……はい……ごめんなさい」
上村の目が点になる。
「……?」
彼はこほん、とわざとらしい咳払いをすると、わかればいい、と言い残して教場を出て行ってしまった。
「寺尾の奴、何を焦ってるんだろうな?」
近くにいた倉橋がぽつりと言った。
「焦ってる?」
「うん。何か、そんなふうに感じた。そう思わないか?」
言われてみれば。
今までは他人を見下すほどの余裕があったはずだ。
するとその時。
陽菜乃が急に、教場に姿を見せた。
「あ、お前……もう大丈夫なのか?」
彼女はこちらに気付いたが、軽く会釈しただけで自分の席についてしまった。
なんだよ……。
釈然としない気持ちで教官が入ってくるのを待つ。
始業のチャイムが鳴る。
教場の扉が開く。
そして。なぜか、あらわれたのは北条と……和泉の2人だった。
2人が並んでいるのを見るとやはり、悔しいけれど名コンビに見えてしまう。
「起立!!」
当番の学生の号令に合わせて、全員が立ち上がる。
「教官に敬礼!!」
全員が綺麗に揃って礼をする。着席の号令がかかり、椅子に腰を下ろす。
「……今日は、少し趣向を変えるわよ?」
何ページを開け、とは言わず、北条は突然そんなことを言い出した。
「あら? 寺尾の姿が見えないわね……まぁ、いいわ。とりあえず」
彼は教場全体を見渡し、400字詰め原稿用紙を1人3枚取るようにと指示して配布を始めた。
「期限は明日のホームルームまで。全員、なぜ自分が警察官を志したのか、作文を書いてきて。最低でも400字以上」
ざわ……と、学生達の間に少しの動揺が走る。
どうして今さら?
入校面接の際、散々訊かれたことじゃないか。
「いいわね?! じゃあ、あとはよろしく」
北条はそう言って和泉の肩をポン、と叩いて教場を出て行く。
事前の打ち合わせはなかったらしい。和泉はえ? と、困惑している。
「えーと……なんかよくわからないけど、よろしくお願いされたので……よろしくお願いします……」
くすくす、と小さな笑いが起きる。
それでもやはり、それなりの準備はあったらしい。
和泉はぐるり、と全体を見回してから再び口を開く。
「実は僕、捜査1課の刑事なんだよね。刑事歴およそ20年以上……いろんな犯罪者を見てきたけど……」
何を話し出すのだろうか、教場内は途端に静かになる。
「今さらだけど、捜査1課の扱う案件が何か、皆知ってる?」
何人かが頷く。
「そう。殺人、強盗……その名のとおり、刑事事件を扱う部署だね。ちなみに。さっき出て行ったオカ……」
今、オカマって言いかけてやめたな?
「北条教官の本来の所属部署は、捜査1課特殊捜査班HRT……どういう部署か知ってるよね?」
はい、と何人かの声がする。
「じゃあ君、具体的に答えて」
指名された学生は立ち上がり、
「はい。確か……警視庁で言うところのSATですよね?」
和泉は笑いながら、
「ちょっと惜しいな。それを言うなら、SITだよ。SATは警備部、刑事部はSITの方って覚えてね。ちなみに……」
周もうっすらとは知っていたが、さすがに和泉ほどには説明できない。
彼の話を聞いていると、本当にすごい人と知り合ったのだな……と改めて感じた。そしてあの筋肉にも納得。
その時、ドアが開いて寺尾が入ってきた。
本当にグラウンド40週したのかどうか不明だが、濡れた顔をハンカチで拭きながら、遅れてすみません、と自分の席に着く。
しかし。教壇に立っているのが和泉だとわかると、途端に侮蔑の色を浮かべた。
「さて、と。それじゃ少し話を変えるけど……」
これからはノート取らなくても、ただの雑談だから。
和泉はそう前置きして、再び口を開く。
「ざまぁ」は次回更新分でね!?
以下次号!!




