ぼんてーじっ……!!
「あとは陽菜乃……水城巡査も、何か予定があったらしくて不参加でした」
「その、会の間……何か目立ったことはありましたか?」
女子学生達は皆、顔を見合わせる。
「変わったことと言っても……けっこう皆、出たり入ったりしていましたから。一応開始時間は午後7時だったんですけど、それぞれバラバラに集まってきましたし」
「あ、そうだ。梢さんからやっぱりキャンセルって、そう電話がかかってきました」
会の幹事だったという女子学生が言う。
「何時の話ですか?」
「午後8時27分です」
死亡推定時刻は午後5時から午後10時の間とされている。もし、その電話の直後に殺害されたとなれば、たった93分間のアリバイがない人間が怪しくなってくる。
だが、殺害場所も特定できていない今、結論を出すのは早すぎるだろう。
「……それって、本当にあった話?」
和泉の問いかけに対し、女子学生はムッとした顔になった。
「嘘なんかついてません!! 確かに梢さんの番号からで、彼女の声でした!!」
「……そう」
「あ、でもそういえば!! すっごく意外なことがありました」
「意外なこと?」
「そうです。やっぱりキャンセルって電話がかかってきた時『ごめんね』って、言ったんですよ?!」
どこが意外なんだ。
聡介はそう思ったが、ちらりと和泉の横顔を見ると、真剣な顔で続きを待っている。
「あの、自分からは絶対に謝らない宇佐美梢が……!! 絶対、次の日は雪が降ると思いました」
そうそう、と他の女子学生も頷く。
「あれじゃない? 結局、団体戦で負けたのが自分のせいだってわかってたから、少しは身にしみて……」
「謙虚になったってこと?」
「違うよ、きっと近くに誰が素敵な男の人がいたんだよ……」
女子学生達は好き勝手にしゃべりだした。
ごほん、と聡介が咳払いをすると、彼女達ははっと我に帰る。
「……質問を変えます。宇佐美梢さんはあなた方から見て、どういう人物ですか?」
その場にいた全員が、顔を見合わせる。
「本当のことを言っていいですか?」
と、一人が手を挙げて発言した。
「もちろんです」
そう答えながら聡介は、いったい何を言い出すのだろうかとドキドキしていた。
「一言で言えば、女王様みたいでした」
「女王様……?」
一瞬だけ聡介の頭の片隅に、鞭と蝋燭と、怪しい格好をした女性の絵が浮かんだなんて、絶対に口にはできない。
「彼女、お父さんと親戚一同が警察関係者で高い地位にいるらしくて……」
そうだった。彼女が堤警備部長の娘だということは聞いている。今は血縁を絶ったとは言っても、交流はまだあったらしい。
「もちろん努力の賜物ではあるんでしょうけど、成績も良いし、それに美人だし」
顔がどう関係するんだ、と聡介は思ったが黙っていた。
女性同士のコミュニティには男には理解できない世界があるのだろう。
「つまり、彼女は君達のことを見下していたってことだよね?」
和泉が訊き、学生達は黙り込んでしまう。
「いいんだよ、正直に感じたことを述べてもらっても」
「……」
「あ、あの……ムリしなくていいですからね?」
再び聡介がフォローに回ってしまうことになった。
「いえ、この際だから全部お話しします。ねぇ、みんな!!」
男と見まがうような短い髪をした女子学生が代表して言うと、一人を除いて全員がそうね、と応じる。
すると。出るわ出るわ……よほど腹に据えかねていたらしい。
女の子というのは表面上仲良くしていても、裏でものすごく悪口を言い合っているという話を聞いたことがあるが、本当だった。
しかし、このままではただの愚痴大会になってしまう。
止めようと口を挟む隙を伺っていたが、全然、止む気配もない。しかもこちらを差し置いて、自分たちだけですっかり盛り上がっている。
どうしたものか。
「君は? どう思うの?」
和泉が亘理玲子と名乗った女子学生に声をかけた。
クラスメート達の会話には加わらず、1人で何か考えごとをしていたらしい彼女は、はっと顔を挙げる。
「……確かに、梢さんは誤解されやすい人でした。物の言い方もキツいし、お父さんのことで多少はおごっているところもあったかもしれません」
でも、と彼女は聡介と和泉を等分に見つめた。
「でも皆、表面的なことしか知らないだけです。本当はとっても情に厚くて、真っ直ぐな正義感を抱いている人です。私、彼女には何度も助けてもらいました」
「……例えば?」
亘理玲子は少し言いにくそうに周囲を見まわす。
「もし、ここで話し辛いなら場所を変えようか?」
はい、と彼女は頷く。
そこで女子学生達には好き勝手にしゃべらせておいて、教場を後にする。




