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フルネームは倉橋護です

 和泉は走っていく周の後ろ姿を見送ることもなく、頭の中であれこれと考えていたが。

「なぁ、彰彦。なんとなく、周君の様子がおかしくなかったか……?」

 聡介に問いかけられて我に帰る。

「え? あぁ、そうですね……」


 何となく協力的じゃない。

 あの怪しいことこの上ない、水城陽菜乃という女子学生を庇おうとしているのではないか。


 心がざわめく。

 苛立ちを表に出したりすれば、途端に「嫉妬するな」と叱られること必須だが。こればかりはどうしようもない。


「そうだわ、あと寺尾にも話を聞かないとね」

 北条が言い、聡介も頷く。

「彰ちゃん、呼んできて」


 なんで僕が……。


 仕方ない。和泉は立ち上がって食堂を出た。


 廊下を歩いていると、少し前を見覚えのある学生が歩いているのが見えた。

 あれは確か、周といつも一緒にいる……。


「ちょっと君、待って」

「え、自分ですか?」


 振り返った顔を見て、間違いないと確信する。

 名前は覚えてないが。


「昨日の夜、君はどうしていた? 皆と一緒に打ち上げへいったの?」

「いや、自分は行っていません」

「どうして?」

「周が行かないっていうから……一人で行ってもつまらないし」


 何だこの子。周のストーカーか?


「じゃあ、昨日はどこで何をしていたの?」

「えっと……俺は実家に帰ろうと思って準備していました。そうしたら部屋を寺尾巡査が訪ねてきて、話があるからって呼び出されて……」

「どこに?」

「寮の廊下です」


「何の話をしたの?」

「俺……いえ、自分達のチームなんですが、剣道は準々決勝にまで進むことができたんですが……最後に自分が判定負けの結果、敗退になってしまって……」

 そう言って彼はなぜかひどく不快そうな顔をした。

「そのことで散々文句を言われました。そりゃ、負けてしまったのは自分のせいでもあるんですけど……あんなふうに言わなくたって……」


「何て言われたの?」

 思い出すのも不愉快なのかもしれないが、知っておいた方がいいと和泉は考えた。


「本気でやってたのか、とか……本番に弱いビビりで、一番役に立たないタイプだとか……それと。人生かかってたのに、どうしてくれるんだって」

「人生がかかってる?」

「……大会に幹部の人が見学に来ていたんでしょう? 優勝して顔を覚えてもらって……ってことじゃないんですか。自分だって個人戦ですぐに負けたくせに」


「なるほどね……それからどうなったの?」

「周が止めに入ってくれました」

 やっぱりね。


「それで、2人で少し話しているところへ北条教官が来ちゃって……」

 彼は言いにくそうに、少し間を置いてから続ける。

「亡くなった一ノ関巡査と西岡巡査の件に関し、周が疑問を持っていることについて、問われました」


 知らなかった。

「周君が?」

「ええ。周が言うには、あの……和泉助教がここにやって来られたこと自体が、何て言うか胡散臭いって」


 胡散臭いだと?

「でも和泉警部補の捜査能力の高さは、間違いないとかなんとか……」

「それ……ほんと?」

「本当です。そうしたら北条教官が……」


「あのオカマが何て?」

「……オカマなんですか?」

「そんなことより、続き!!」


挿絵(By みてみん)


「『あんたもあの子にベタ惚れなのね』とかなんとか、そんなふうにおっしゃったような」


 あの子イコール自分。

「で、周君は……どういう……?」


「……? 顔を真っ赤にしてましたけど、肯定も否定もしませんでした」

 

 んもぅっ!!

 そこで『はいそうです』って答えてくれたらいいのに!!

 ツンデレなんだからな~、マイハニーは。


「あの……?」

「ああ、ごめん。それで何だっけ?」

 相手の顔にはハッキリと『それはこっちが訊きたい』と書いてある。

「それからどうしたの?」


「周が2人で食事にでも行こうって言ってくれたので、一緒に駐車場に向かいました」

「そこで何か、変わったことはなかった?」

「変わったこと……あ、そうだ。宇佐美巡査が、沓澤教官に食ってかかっているのを見ました」

「え……?」

「そりゃもう、すごかったですよ。何しろ団体戦のことで彼女、水城巡査と随分もめていましたから」

 彼は面白がっている。


「何時頃の話?」


 えっと……と、倉橋は悩んでいる。

「確か、7時過ぎかな……いや、7時半近かったかな?」


「本当に、彼女の姿を見たの?」

「え? あ……いや、暗かったし……声を聞いただけですが。でも、あの声はたぶん間違いないと思います……あ、そうだ! 水城巡査より自分の方が上だとかなんとか叫んでいましたから、宇佐美巡査ですよ」

「ふぅん……それからどうなったの?」

「沓澤教官が『グラウンド100週したいのか?!』って怒鳴ったら、慌てて逃げて行くような足音を聞きましたよ。ただ、もう空は暗かったし、駐車場のすぐ近くには木が茂っていますから姿までは確認できませんでしたが……」


「そのことがあった、正確な時刻は覚えてない?」

 

「ああ、そうだ。7時半過ぎた頃だったかな? それって言うのも周が、この時間帯にいつも見ていた動物を扱うテレビ番組で、たいてい子猫が出るんだって話をしていて……」


 ありがとう、と和泉は彼を解放してやることにした。

挿絵(By みてみん)


いつも感想、読了ツイートありがとうございます!(^^)!

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