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パパが息子を甘やかしすぎる件について

 あの子はいったい何者だろう?


 確か名前は上村と言った。

 北条のすぐ後ろを歩きながら、和泉は頭の中だけでいろいろと考えていた。


 周に訊問している時、近くを通りかかったのはたまたまなのかもしれないが。

 ひたすら威圧し、口を割らせようとする【悪い警官】に対し、同情するそぶりを見せて自白を促す【良い警官】の方式。


 意図的だったとしたらかなりの曲者だ。


「……被害者が被害者だけに、上は相当ピリピリしてるわ」

「そうでしょうね……」

「廿日市南署に捜査本部ができたわ。聡ちゃんの班が先頭に立って動くみたいよ。ただ、ガイシャの身許が身許だけに……ほとんど極秘裏に捜査が行われるようね」


 そうして会議室に辿り着いた。


 部屋の中には幹部と呼ばれる人達が集まっていて、かなりの緊張状態にあった。

 捜査一課長である長野もいる。


 これが日頃なら、長野と軽い気持ちでしょうもない応酬を繰り広げるところだが。残念ながら今は、和泉自身もそんな余裕がない。


「どうなってるんだね、いったい」

 最初に発言したのは誰だったか。

「学生の自殺騒ぎに始まり、死亡事故と続き……今度は殺人だと。これはどういうことなんだ?!」


 答える者はいない。

 ふと見回すと、校長が青い顔をして震えている。


「我々はマスコミにどう説明したらいいんだね!!」


「……そこはまぁ、ありのままに説明するしかないんじゃないでしょうか……」

 などと、呑気な口調で答えたのは長野だった。

「長野君!! 一刻も早く被疑者を確保してくれ。自殺と事故の件は後回しでいい、とにかく今は包ヶ浦の案件を……」


「後回しも何も、すべての事件は一つの線でつながっています」


 突然の、和泉の発言に全員が振り向く。

 北条も驚いているようだ。


「……ただ、そんな予感がするだけですが……」


 予感?


「とりえあず、学生達には事件のことを知らせていいですね? そうしなければ、事情聴取はできませんから……」

 あとはよろしく。

 和泉は隣に立っている北条の肩にポンと触れた。


「亡くなった3人には何かしらの共通点があります。今、その点を詰めています。そうすれば何か解決の糸口が見えるかもしれません」

 そう言い終えた彼は、今度は長野の肩にバトンタッチする。


「だ、そうです。もう少しだけ、様子を見ていただけないでしょうか?」


 ※※※


 ぼぐっ!!

 どかっ!!


 幹部達が会議室を出て行った後、和泉は北条と長野の2人から同時に殴られた。


「何す……何しやがる、クソジジイ!!」

「全部の事件が一つにつながるなんて、どうせお前、口から出まかせの行き当たりばったりじゃろ?」

「そんな訳あるか!!」

「ふーん、じゃあ根拠を言うてみぃ、こ・ん・きょ!!」

「さっき北条警視が言っただろ、耳が遠くなったのかよ、このもうろくジ……」

 和泉が口をつぐんだのは、長野の肩越しに聡介の顔が見えたからだ。


「……おい、彰彦……」

「そ、聡さん!! こ、これはその……!!」


 仮にも課長に向かってその口のきき方はなんだ!!


 また殴られる。和泉は思わず頭をガードした。

 しかし。

 予想外に、伸ばされた聡介の手は頬に触れたのだった。


挿絵(By みてみん)


「何かあったのか?」

「……え?」

「顔色が悪い」


 和泉は思わず、近くにあったガラス窓に顔を映してみた。

 特別良くも悪くもないように思うのだが。

 ただ、今の自分の心情を述べよと言われたらそれはもう、不愉快以外の何でもない。


 保身のことしか考えていない幹部達。


 そして犯人。


 何よりも……周だ。


 あの水城陽菜乃には『何か』ある。その彼女に誘われるまま、出かけて行ったこともそうだが、そのことを詳しく語ろうとしなかった態度も気に入らない。


 心配そうにこちらの瞳をのぞきこんでくる聡介から、和泉は目を逸らした。


「いろいろありすぎて、何からお話していいのかわかりません」

「俺もだ。それよりもまずはお前の考えを聞かせてくれ、彰彦」

「わしもワシもー!!」と、長野。

 うざい。どうでもいいけど、モミじーはしまっとけ。


「……ただの勘です」

「勘だったとしても、何かしら根拠があるはずだろう?」


 和泉はその時、ふと思い出したことを口にした。

「確か、事故で亡くなった西岡と言う学生と……被害者、宇佐美梢がもう1人、何とかって言う学生と一緒に行動している姿を見たことがあります、包ヶ浦海岸で。その日は日曜日でした。休みの日に一緒に行動するなんて、仲が良いんだな……と思ったことがあります。常に一緒に行動する仲間同士、人に言えない何かの秘密を抱えているケースがあるのでは……と」

 話している内に段々、あれこれと色々な記憶が甦って来る。


「まさかお前、もう1人犠牲者が出る可能性が……?」

「まったくないとは言い切れません」


 聡介と長野は顔を見合わせる。


「もう1人の何とかって、誰じゃ?」

「……クズですよ、クズ」

「名前を言えっちゅうんじゃ!!」

「うるさいなぁ、クズはクズ……クズで……思い出した、寺尾とか言う奴!!」

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