タイトルにそうあるだろうが?!
再び、広島駅。
まだ門限までに時間的余裕はある。が、周はいろいろと疲労感を覚えたため、早く帰りたくなってきた。
それなのに。
「……ねぇ、お買い物して行ってもいい?」
陽菜乃は駅ビルに収容されている、若い女性向けの洋服店を見つめている。やはり興味あったか。
「……」
「今度こそほんとに、水着を買うから。付き合ってよ」
「カンベンしてくれ……うわっ?!!」
思いもよらない強い力で引っ張られ、周はバランスを崩してしまう。
「考えてみればお昼まだだし。なんでも好きな物、私が奢るよ」
だったらいいか……。
食べ物につられてビルの中に入る。エアコンが効いていて気持ちが良い。
午後2時近くにもなれば、どの飲食店も空いている。
何が食べたい? と、陽菜乃が訊くので周は、懐事情を考慮して【お好み焼き】と答えた。
食事を終えたら真っ直ぐファッションフロアに移動。
まだ外はこんなに暑いというのに、秋物の洋服が吊り下げられている。夏物には【SALE】 の札が。
愛想の良い店員が『どうぞご自由にお試しください~』と言うのを聞きながら、色とりどりの洋服や小物を見ていて、ふと周は思い出した。
あ、そうだ。来月は姉の誕生日だった。
いい機会だから、喜んでもらえそうなプレゼントを陽菜乃に探してもらおう。
「なぁ……姉にプレゼントを買いたいんだけど、どんなのがいいか見繕ってくれよ」
「お姉さん? あ、そう言えばさっきも言ってたよね。え……もしかしなくても藤江君って、シスコンなの?!」
陽菜乃は大仰に驚いた表情をして見せる。
「文句あるか?!」
「ないよ、ないけど……」
「けど、なんだよ?」
「やっぱり藤江君、すごく優しいんだね!」
笑顔全開。
周は何と答えていいのかわからず、そっぽを向いた。
優しいというか、なんというか。
いろいろと複雑な事情を抱えた姉弟だから。
この世にたった2人きりの肉親だから。
たくさんの苦難を乗り越えて、必死に生きてきた女性だから。
それだけに深い敬意を込めて大切にしたいと、周は心からそう思う。
※※※
陽菜乃のおかげで周は姉の誕生日プレゼントをゲットした。
間違いなく、義兄よりもクオリティが高く、かつ喜ばれるもの……!! と確信している。
妙な対抗心を燃やしつつ、購入したのはパールのイヤリングだった。
綺麗に包装してもらってポケットにしまいつつ、周はふと思いつきを口にした。
「……なぁ、水城。何か欲しい物あるか?」
「え……?」
「考えてみればさっきからずっと、奢られっぱなしだし、このままじゃ男が廃るだろ」
陽菜乃は戸惑った表情をしている。
「ううん、別に……何もないよ。そもそも、今日は無理言って付き合ってもらったわけだし……これ以上は……」
別に周は無理をさせられた、という感覚はない。
確かにいろいろ、不思議に思うことはあったけれど。
今はもう、割とどうでもよくなっている。
「それより、今さらだけど『本当のこと言うまで手を離さない』って、言ったよね?」
そう言って陽菜乃は嬉しそうに手を差し出してくる。
「……いいよ、もう」
「えー? なんで?!」
「……誰にだって、知られたくないことの1つや2つあるだろ。俺だってそうだし」
周の知られたくないこと。
家族のこと、自分の生い立ち。
藤江家の親戚とは既にほぼ絶縁状態であること。
兄が亡くなった時から、そうなった。
自分が不倫の末に生まれた愛人の子であることも。
一番親しくしている倉橋にも話していない。訊かれていないし、自分から話すことでもないと思う。
「藤江君にも、何かあるの?」
「……そりゃな。人間やってれば誰だって、何かしらあるだろ」
陽菜乃は笑って腕に抱きついてくる。
「じゃあ、晩ご飯を奢って!?」
そうして気がつけば、そろそろ帰らないとマズイ時間になっていた。
予想外にあちこちを歩き回って疲れ果てた周は電車を待つ間、ずっと黙っていた。
陽菜乃も何も言わない。
2人とも無言のまま電車に乗り込み、そうして学校から最寄りの駅に到着した。




