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ここは~広島~えーきービル~♪

祝100話目!!ということで、sbnb様よりいただきました!!


挿絵(By みてみん)


感謝でーす♪

 その後もどう言う訳か陽菜乃は一言も口をきかなかった。


 そして無言の内になぜか、広島駅で下車する。

 どこへ行くつもりだろう? 周も黙って彼女の行く方向へと進んでいく。


 広島駅の改札口は地上2階である。改札を出ると向かいに駅ビルがあり、特に若い女性が喜びそうな洋服を扱う店がずらりと並んでいる。


 しかし陽菜乃はそれらに眼もくれず、階段を降りて1階へと向かう。

 北口はバスターミナル、南口は路面電車の発着場となっていて、どちらかというと賑やかなのは南の方だ。

 どうやら南口へ向かっているようだ。


 駅構内の1階には主に土産物や食料品を扱う店が並んでおり、この暑いのにチーズケーキ専門店には行列がずらりとできていた。


 そう言えば姉はチーズケーキが好きだったな。

 今度、向こうに行く時は買って行ってあげよう。

 

 そこを通り過ぎた頃、陽菜乃が足を停めた。


 そして向かいからあらわれたのは、なぜか寺尾だった。

 周は咄嗟に陽菜乃の手から手を離した。


 彼はどうも近眼らしい。遠いところからこちらを見ている時、眉間に皺を寄せていた。


 そして開口一番、

「なんでお前がここにいるんだよ?」

「悪いか?」

「俺は、陽菜乃に話があるんだよ!! とっとと帰れ!!」

 予想はしていたが、寺尾は大きく手を振り、電車の方を指さす。


「藤江君が一緒じゃなきゃ、何にも話さないから!!」

 陽菜乃が腕に抱きついてくる。


 寺尾は一瞬、驚きを顔に浮かべたがすぐに、嫌な笑いを浮かべる。


「そうか、まぁ……それもいいかもしれないな」


 ついてきな、と彼は顎をしゃくる。

 どこへ行くのかと思えば、カラオケボックスだった。駅前の雑居ビルの3階。


 わざわざ歌を歌うために途中下車させたのだろうか。


 しかし寺尾はリモコンもマイクも手にしなければ、何か飲み物を注文するでもなかった。


 テーブルを挟みソファに向かい合って腰かける。

 寺尾はテーブルの上にスマホを置いた。

「見ろよ、これ」


 なんだ? 周は画面をのぞきこんだ。そうして。


「……えっ」

 思わず声が出るほど驚いた。


 写真に映っていたのは、陽菜乃と沓澤だ。


 二人は向かい合って座っており、どちらも笑顔である。場所はおそらくどこかのレストラン。何となく見たことがある店のような気もする。


「お前、あんな鬼瓦の何がいいの?」

 寺尾はニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている。


 陽菜乃はすっかり血の気を失っていた。


「男の趣味、悪いよな~……しかもなに、藤江周と二股? 可愛い顔して、やることえげつないよな……」


 寺尾の言うことを理解するのに、周の脳はしばらくフル稼働しなければならなかった。


 いま『二股』って言ったか?

 俺は別に水城と付き合っているという認識はないんだが。


「もちろん、黙っておいてやるよ。こっちの条件を飲めば……な」


 元々、あまり好きになれないタイプだとは思っていた。

 気が合わないとか、そう言う問題ではない。今ハッキリと認識した。


 こいつは最低だ。


 むしろ大嫌いな人間の部類に入る、と。


「これ、どうやって手に入れた写真だよ?」

 周の問いに対し、寺尾は得意げに答える。

「そんなこと、教えられる訳ないだろ」


「……あのさ、一つ聞いてもいいか? この写真が何だって言うつもりなんだ?」

「はぁ? 何言ってんの、立派な浮気現場の写真じゃねぇか!! あの教官、あんな不細工のクセに美人の嫁さんと、ガキがいるんだぜ?!」

 ああ、確かに奥さんは美人だったし、子供は父親そっくりだった。


「これを見てそんなこともわからないなんて、お前、刑事志望のくせに笑わせるなよ」


 周は真っ直ぐに相手の顔を見つめて言った。

「その台詞、そっくり返してやるよ」

「なんだと?」

「こんな写真が証拠になると本気で思ってるのか?」

「どういう意味だ!!」


 ここがカラオケボックスだったのは幸いだ。大声を出しても誰も訝しがることはない。


「教官が学生と二人だけで飯食って、何が悪いんだ」

「おかしいだろ、どう考えたって!!」

「そうか?」

 周の余裕が気に入らないのか、寺尾は貧乏ゆすりを始める。


「沓澤教官が家族で、ここで食事してるところに、偶然、水城が居合わせた可能性だって否定できない。奥さんと子供が映っていないのは、たまたま席を外していただけかもしれれない」

「そんなの詭弁だろうが!!」

「俺はあくまで可能性の話をしてるだけだ」

 寺尾は反論の術を探しているようだ。ギリギリと歯ぎしりしながら。


「だいたい、それを言うなら俺だって、たまには人妻と2人きりで飯食いに行くことだってあるぜ?」

「……なんだって?」


 もちろん『人妻』とは姉の美咲のことだ。

 義兄を含め3人で食事に行く約束をしていても、義兄の方に急な仕事が入ってキャンセルになり、結局姉と2人だけで予約した店に行ったこともある。


 もっと遡れば、実の兄が生きていた頃だって2人だけで外で食事したことなんて、何度もある。


 事情を知らない他の人にしてみれば、周と美咲が2人でいるところを見たら、夫婦かカップルとしか思えないだろう。顔立ちは良く似ているけれど。


「もっとも、人妻って言っても……俺の実の姉だけどな」

 周は思わずニヤリと笑ってしまった。

「裏にある深い事情を知りもしないで、パっと見ただけの状況で判断するのは……愚かなことだぞ」


 どの単語に反応したのか、寺尾がさっと気色ばんだ。


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