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第三話【出発準備】

忙しい人のために今回の話を纏めると······


装備品、爺さんの昔話、仕事開始


といったとこですね(; ・`д・´)


 ディーオスに潜るためには、様々な装備が必要となる。


 だいたいの物は、市場や職人街に行けば手に入る。


 一流の探索者サーチャーになれば、身体能力が向上したり、無詠唱で魔法が放てたりする魔法具なんてものを購入したりするらしい。


 そう言った類の物になると、一つ百万サウスはくだらないため、当然ながら下級の探索者には手が届かない代物である。


 一般の探索者にとってポピュラーな魔法具と言えば、目くらましに使う輝光石ぐらいだろうか。


 親指の先くらいの大きさで、砕くと強烈な閃光を発するため、目くらましとして使われることが多い。というか、ほぼそれでしか使わない。


 一粒の相場が五千サウス程であるため、モンスターに不意を突かれた際や、逆に不意を衝く際に使用されることが多い。お手軽アイテムなのだ。


 まぁ、俺の芳しくない財政事情では、そう軽々とは仕えない虎の子である。


 俺が普段ディーオスに潜って使う武器と言えば、ナイフとそれを槍にするための折り畳み棒に、ボウガンと小さい投げナイフぐらいだろうか。


 あとは、ロープとその付属品、採集した物を入れる革袋だったり、ケガの時の簡単な薬、暗くなった時に使う懐中電灯とライターぐらいだ。


 ハッキリ言って、他の探索者に比べたら装備は貧弱であるが、金が無いため仕方がない。


 これから行くヒロ爺の店で買うのも、消耗品に、数日分の携帯食料と、現地の水場まで持つ分の水だけだ。


 本当は防具の一つくらい欲しい所のなのだが、腕当て一つでも数万サウスは必要となるため、やはりこれも手が届かない。


「ヒロ爺の店に置いてある、板金鎧くれねえかなぁ······」


 そんな独り言を口にしている間に、ギルド兼商店であるヒロ爺の店に到着した。


「おはよう、起きてるかヒロ爺?」

 店の奥に進むと、カウンターにうつ伏せで眠るヒロ爺の姿があった。


 横になって倒れているブランデーの酒瓶を見る限り、深酒して眠ってしまったようだ。


「何だこれ······?」


 目に入ったのは、机の上に広げられた数冊のアルバム。


 その中には、古い型ではあるが良い装備を身に着けた青年達の写真が収められている。


「現像された写真なんて初めて見るな」


 その中の一冊を手に取り、ページを捲っていく。


 写真の中に移る彼らは、どうやら探索者らしい。


 その中でも目を引かれたのは、短い黒髪の男だった。なぜか、見覚えがある気がしたのだ。


「どうしてだ?」


 写真を眺めていると、不意に声が発せられ背筋が凍りついた。


「なぜ、俺だけを······置いて行く······皆······」


 ヒロ爺の口から零れる口調は、普段では聞き慣れないものだった。


「何だよ寝言か······ったく、驚かしやがって」


 これ以上は何か悪い気がして、そっとアルバムを戻した。


「必要な物を集めとくか」


 ヒロ爺が起きた時に、さっさと支払いをして出れるように、必要な物品をカウンターの上に集めておくことする。


 十分と掛からずに目当ての物を集め終わったため、その肩を揺すって起こそうと思った時、タイミング良くヒロ爺が目を覚ました。


「何じゃ······ミナトか······」


「あぁ、俺だよ。これ買うからさっさと会計してくれ」


「わしが知るかそんなもん······お前さんが計算して、金置いて持ってけば良いじゃろう」


 普段は絶対に言わない言葉。あぁ、これは十中八九で酔っぱらってる。


 その上、酒が回って震えている手を、まだ中身が並々と入ったグラスに伸ばしている。


「おいヒロ爺やめとけって、そんな手じゃアルバムに酒を溢しちまうぞ?」


「アルバムじゃとー?」


 ヒロ爺はグラスに伸ばしていた手をだらしなくカウンターの上に降ろし、広げられたアルバムに目を向けた。


「おぉ、懐かしいのぅ······これはワシが英雄ブレイバーと呼ばれていた頃の写真じゃなぁ······」


「おいおい酒が回り過ぎてるからって何言ってんだ。飲んだくれのヒロ爺が、英雄ブレイバーになれるわけがないだろ?」


 ブレイバーとは、偉大なる発見をした者や、誰にも成し遂げられなかった偉業を行った者に与えられる、探索者サーチャーにとって最も栄誉たる称号である。


「何をー? この頃のワシはなぁ、街を歩けば女子どもにキャーキャー言われる程、ブイブイ言わしとったんじゃぞ!」


「知るかっつーの! それに酒臭え!」


 ヒロ爺は俺の言葉に耳も貸さずにしゃべり続ける。


「元々、ワシは日本の調査隊に所属していたんじゃ。それで南極にピラミッドを見つけて、ディーオスを見つけた」


 突然、俯いていたヒロ爺は顔を上げてこちらを見つめる。


「ミナトよ、世界改変魔法というものを知っておるか?」


「世界改変魔法? 何だよそれ?」


「じゃろうな。これは協会でもほんの一握りしか知りえぬ情報よ」


 饒舌になり機嫌の良いヒロ爺は、グラスに手を伸ばして一気に中身を飲み干した。


「それを発動させるには条件がある。それは······ディーオスの遺宝を手に入れる事じゃ」


「遺宝?」


「そう、遺宝じゃ。これまでに確認されたどの遺物アンティークよりも比べ物にならぬ程の価値がある。それ一つで世界を揺るがすことが可能な程に······ワシはそれを発動させてしまった······」


 カウンターに肘を付き、掌で額を抑える。


「わしは、石扉で硬く閉ざされたディーオスの入り口を発見した時······そこに嵌めこまれた紅く淡い輝きを発す要石に触れてしまった。あれが何という遺宝だったのかは分からん。だがその瞬間、世界の言葉は一つに統一されてしまったんじゃ、東の小さな島国のものにな」


 次は乾いた声で、力なくケラケラと笑う。


「お前さんは信じられるか? この世界には数千種類の言語が存在したという事実を」


「何を言って······?」


「まぁ、日本の言葉は様々な国の言語が混ざっておったからのう、片鱗を見ることぐらいはできる。例えばほれ、カタカナで書くものは元々大体欧米の言葉じゃぞ」


「そ、そうか。そうなんだな」


 いきなりそんなことを言われても、反応に困る。


「昔のわしは愚かじゃった······失った戦友達ともを遺宝の力を用いて、世界の法則を捻じ曲げてでも取り戻そうとした······そんな傲慢を神は怒ったんじゃろうな。わしは、戦友達を起こすことも叶わず、自ら会いに逝くことすらできなくなった······」


 そう話終えると同時に、ヒロ爺はハッと目を見開く。


「酔いが回って話し過ぎたのう······そこに置いてあるものはタダでくれてやる。だからミナトよ、お前さんは何も聞かなかった。いな?」


「あぁ、それは構わねえけど······」


 守銭奴であるヒロ爺からは考えられない言葉に面食らったが、タダでくれるという事なので有難く貰っておこう。


「よく分かんねえけど、ありがとな······じゃ、潜ってくるわ。また煙草取ってくるから飲み過ぎずんなよ?」


「ふん、若造が生意気にもわしの心配をするか。せいぜい散らぬよう、気を付けて行って来るんじゃな」


「あぁ。じゃあヒロ爺、行ってくるよ」


 名残惜しそうにアルバムを畳むヒロ爺にそう告げて、俺は店を出た。


 物心付いた頃には、既に俺はヒロ爺に育てられていて、良く二人でカウンターに座っていた覚えがある。


 血が繋がっているわけでも無い。聞かされているのは赤の他人であるということだけ。


 そして、文字をある程度覚えた九歳の誕生日、ヒロ爺は俺にスラムで生き延びてみろと言って、ナイフを一本だけ持たせると家から追い出された。


 いくら泣いて戸を叩いても入れてくれなかった。そして俺は生きて行く方法を学んだ。


 人に危害を加えるのは性に合わなかったから、グループに入るのには苦労した。


 残飯を漁っては食い物を探し、ゴミ捨て場から金になりそうなものを集めては、安い金で売る日々の繰り返し。


 最初はヒロ爺を恨んだ。だが、今となっては感謝している。


 仲間が、家族がいかに大切かということを知ることができたからだ。

 

 昔話をしていたヒロ爺に当てられたのか、俺も昔の記憶が脳裏を通り過ぎていく。


 気が付いた時には、ディーオスの入り口がある、大ピラミッドのすぐ傍の広場に到着していた。


「おーす、ミナト!」


 聞き慣れた声に呼ばれて振り返ると、以前同じ孤児グループに所属しいた頃、仲が良かったアレクが手を振っていた。


「おはよう、アレク。今から潜るのか?」


「おう、皆で魚竜狩りに行くとこなんだよ。ミナトはまたお独り様か?」


「まーた棘のある言い方しやがって。そうだよ、一人で毒蛇の牙と毒腺の採集しにな」


「そんなチャッチー得物狩ってねえで、俺達と組みゃ楽に稼げるだろうによ。ミナトならいつでも歓迎するぜ?」


「有難い話なんだけどな。うちは今、稼ぎ手が俺しか居ねえから、危ねえ橋を渡れねえんだよ」


「んな話、耳にタコができるくらい聞いてるっつーの。ま、お互い上手く生き残っていこーや」


 アレクは俺と同じ見習い探索者サーチャーだ。


 俺は、爺さんが趣味全振りでやっているようなギルドに所属していて、ピンハネはほぼゼロに等しい。


 だが、アレクは違う。孤児である家族を半ば人質として取られ、見習い探索者としてディーオス働きに出されている。そして、獲得した収入から相場よりも高い割合でギルドに徴収されているのだ。


 だが、このような悪徳ギルドが無ければ、孤児である俺達が探索者とになる方法はないのが現状である。


 背に腹は変えられない。


「そういやミナト、お前の隠れ家があるのは、東の方にある職人街の奥の方だったよな?」


「あ、あぁ。それがどうかしたか?」


「最近、うちの奴がそっちのエリアで孤児狩りを良く見かけるって言ってたから、気を付けろよ」


「そうなのか、教えてくれてありがとな」


 基本的に個人行動しかしないため、こういった情報交換は非常にありがたい。


「やっべ、そろそろ時間だわ。そんじゃ、一人でおっぬなよミナト!」


「おう、アレクこそ転んで竜に踏みつぶされないようにな!」


 いつものように憎まれ口で別れを済ませた俺は、ディーオスに入る手続きをするため、教会が運営する建物に向かった。


 ディーオスの入り口を完全に覆う形で建造された建物は、このサウスエンドに存在するどの建造物よりも巨大なのだそうだ。


 その中に入った俺は、静脈認証による簡単な受付を済ませてゲートを通過する。


 地上から第一層までは、十数台ある巨大エレベータに乗って降りた先には、入り口と似たようなエントランスが広がっている。


 だが、入り口と違うのは、エントランスを抜けた先には、ディーオスの自然が広がっているということだ。


「さーて仕事の時間だ······」


 俺はまた、この世界に身を投じる。外の世界で生き抜くために。

 


ここまで読んで来ださってありがとうございます。


またお会いできるよう、頑張りますね(*´ω`*)


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