放課後の時間。
小見川慧介。彼はこの学園で知らないものはいないといっても過言ではない程の有名人である。
下手な俳優よりも目立つルックス、そして常に学年上位に食い込む知力。
そして学校ではありがちなスポーツ万能。そしてこの地方では有名な企業の御曹司。
バスケ部では彼を部長にと推す声が多いが、2年生であるから。
と上を立てる顔もあり、先輩、同級生。後輩、そして勿論女性からの評判も良い。
先生からの人望も厚く、可愛がられている。
まさに非の打ち所のないパーフェクトヒューマンとでもいえるだろう。
だが謙虚な顔は仮面であり、彼の眼はいつでも冷めてどこか見下している。
それに気づく人物はいまだかつていなかった。
今日までは。
バスケ部の活動が終わり、片付けの後のモップ掛けを残すだけである。
「俺がやっておくからいいですよ。先輩たち塾あるんじゃないですか?
あ、あと君たちも明日の朝練も早いんだし、先に帰っていいよ。
いつもボール磨き任せちゃって悪いね。」
にこやかに、他者への気遣いを見せる小見川。
口々にいいのか?悪いな、と言いつつ挨拶をしながら皆帰っていく。
それを笑顔で手を振りながら見送り、最後の一人が体育館を出て行った後。
笑顔はスっと消える。
「ったく、評判を落とさない為とはいえバカどものご機嫌どり程つまらんこともないな。」
ぼそっと言葉をこぼしてモップがけの残りをかける。途中に放置されたペットボトルを見つけ
「ごみも捨てられないくそくずどもが。」と吐き捨てる。
…と突然に閉じられていた緞帳がばさあっと開かれる。
触れたことのある人ならご存じであろうが、意外と緞帳は重い。
何より思いっきり開こうとして広がるものでもない。
「ばーん!話は聞かせてもらった!」
そこには体操服姿の少女が立っていた。茅野である。
(…しまった!?聞かれた!?)
残念ながら彼は一度も茅野とクラスが一緒になったことがなかった為、面識がなかった。
「あ、い、いやその先ほどのはちょっと疲れて…つい…ぐ、愚痴を…」
(くそっこの女何でこんなところにいるんだよ!)
笑顔を取り繕いながらも心の中では毒を吐かざるを得ない。
そしてその言葉を聞いたところで茅野と小見川は視線があった。
「ん?お前そんなとこで何してんだ?奴隷か?」
「は?ど、奴隷?いやあの、バスケ部の片付けを…」
「ほうほう、偉いな。私ならすべて投げ捨てて逃げる。」
(こいつも屑かよ!)
「えー。えっと俺は小見川。君は…?」
「んー茅野。」
「茅野さんか、茅野さんは、…ええと一体そこで何してるんですか…」
「ああ、体育の時間をここで隠れてやり過ごしていたら、寝てしまってた。今何時だ?」
「もう…放課後だけど…」
(バスケ部っていってるとこで気づけよ…ってか体育の時間っていつから寝てるんだよ)
「そうか、じゃあ帰るか…と、…あ。」
自らが広げていた緞帳に足を取られ、壇上から転げ落ちそうになる。
咄嗟に小見川は茅野をかばうようにして抱き留めた。
密着するお互いの体。近づくお互いの吐息。
「だ、大丈夫か?」
声をかけながら間近で眺める茅野の睫毛は長くくるりと上向き、ぱっちりとして
美しい色をたたえた瞳をしている。
すっと伸びた鼻筋に、少し薄目だが桜色の唇。そして白磁のように白く美しい肌。
思わず視線を奪われて、慌てて視線をそらしたところで。
「小見川。」
「あ、ああ気にするな。怪我はないか?」
「お前、鼻毛飛び出してるぞ。」
広い体育館に静寂が響く。グラウンドの部活動の声と帰りがけの生徒の声だけが響いている。
「お。今日はそういえばスーパー特売だったな。帰らねば。それじゃ」
なぜか敬礼をして茅野は去っていった。
残された小見川は理解するまでに数分を用した…。
美少女を助け、お互い見つめあい。…結局例の一つもなく言われた言葉は
鼻 毛 出 て る ぞ 。
「何なんだあの女あああああああああああああああああああああ!!!!」
その日から遅い時間まで体育館に残ると恨みを残した男の幽霊が出るという七不思議が出来たという。
やりたい放題ですまない。




