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ギルド登録と、それから

題名に悩みました……

「こ、ここがギルド?」




 思わず声をあげちまったのは、爺さんの示した建物があまりにもこぢんまりとしていたから。爺さんの話じゃ冒険者達に情報を提供し、交換し、素材を買い取ったり鑑定したり、更には国に対しても影響力を持つ施設だー、って……聞いたからもっと立派な建物だと思ってたんだけどなあ。

 いやまあ別に、期待外れとかではないんだけど。


「あはは、小さいよね、確かに。でも騙されてはいけないよ、こんななりでもこの大陸にあるギルドの中核なんだから」

「えっ、マジすか!?」


 中核、ってーと……俺の知識が正しきゃ相当重要な部分だってことになるんだけど?! こんなこぢんまりとしてんのに……。

 ……まあ良いか。見た目で判断すんのはよくねぇよな。




「じゃあ、まずはギルドに加入しようか」


 爺さんはそう言うとその建物の中に入るよう俺を促した。扉を押すとからん、と澄んだ鈴の音がして、視線が集まるのを感じる。爺さんは笑ったまま、ほら奥に入って、と俺の背中を押した。さらに視線が集まった気がするけど……気にしなくて良い、のかな?

 ぱたぱたぱた、と足音がして、俺たちの前に一人の女の人が来る。髪を頭のてっぺんで結んだ、いわゆるお団子頭の人だ。


「村長、こんな朝早くからどうしたんですか? というか彼は誰ですか?!」

「まあまあ落ち着きなさい、儂が早起きしてギルドに来てはいけないかい? それに彼は拾っただけだよ。記憶を失って、森に居たからこっちに来たらしい。取り敢えず魔力照合と……記録がない場合はギルド登録とカードの発行を頼むよ」


 村長! そうだよ、爺さんはこの村の長だったよ……さっきまで気付かなかったけど、通りで物知りで優しいわけだ……村の長であれば長生きして物は知ってるだろうし、人を沢山見てきただろうから優しくもなれるよな。なるほど、知識と照らし合わせてみても納得しか出てこないな!

 まあただよく解んないのは"まりょくしょーごー"だな。どういう意味だ? てか俺って魔力なんかもってるのか? 感じらんないぞ、そんなもん。


「あっ、すみませんええと、じゃあ自己紹介からしましょうね。私はミウ、このギルドで受付と事務を担当しています。ラガット村長の補佐をすることもあるので、何か解らないことがあれば気軽に聞いてくださいね」

「あっ、えーと、ご丁寧にどうも……」


 俺の視線に気付いたのか、ミウ? さんが俺に頭を下げる。あの、そんなに気を使わなくても良いっすよ……?

 なんか肩が懲りそうな気がするけどちゃんと挨拶を返して……それで名乗ることにした。


「ええと、俺はアルーダ、アルーダ・ルミス。記憶喪失? なんで変なこと言うかもしれない、です、けど……よろしくお願いします」


 俺が名乗ると、爺さんが俺の頭に手を置いた。いきなりのことで吃驚して、でも何もされないって信頼があったから抵抗はしないでおく。ただし顔だけは見たかったから振り返った。

 

「先に言えば良かったね……フルネームはあまり他人に教えるものじゃないよ。名前は目印になるからね。ただ、誰かとの信頼を築くときには名乗るべきだ。まあ今回は問題なかろう」


 ありゃ、俺失敗した?


「ふふ、でも本名が解った方が照合にはちょうど良いですよ? アルーダ・ルミスくんですね、ちょっとこれを持ってみてください」


 ミウさんがそう言って、俺に小さな水晶球を持たせる。え、これ持ってるだけで良いの?

 爺さんが俺の頭から手を離して、頷きながら口を開いた。


「念じるんだよ、ゆっくりで良い。自分は誰なのか、を……自分自身に尋ねるような形で水晶へも通せば良い」




 ふと、水晶の表面に写った顔を見る。

 ……そういや自分の顔は初めて見るんだったなあ。案外素直に受け入れられるもんだ。


 俺は案の定男、みたいな顔をしてた。右目は意外なことに、髪で隠れてる。ただ視界がそこまで損なわれたような気はしないから……目を隠してる毛の先にある紐が何かしてるのかもしれない。一本長い傷も一応あるのに、不思議だな。痛みは全くないんだ。

 左目は黒だ。右目の白色とは違う色をしてる。

 髪の色も黒色。それはそこまで不思議じゃない。だって動いている時に見えてたからな。……ただ、思った以上に長かった。よく見りゃ包帯で縛ってある。




「俺は誰なのか、か……」


 俺は覗き込むように見詰めた。水晶球の表面に写る、逆さまの自分に問い掛けてみるような気持ちで。

 瞬きを一つ。半透明な俺も同じことを繰り返すその奥で、俺は小さな声を聞き取った。ノイズが混じっていて判別は難しいが……これは、まるで、……





──なんでこんな目に、遭わなきゃならないんだよ……っ!





「?!」


 水晶球が響き渡るような色を閉じ込めて、そして渦巻いたような光を放ったかと思うと勢いよく砕け散る。

 驚いた俺の目の前で、飛び散った破片は俺の手を赤く染めた。俺が痛みを感じる前に、ミウさんが驚きからか小さな悲鳴を上げる。


「……何か、見えたかい?」


 その中で爺さんだけが、俺にそう声を掛けてきた。

 何か、か……俺には何も見えなかった。ただ、少しの声が聞こえただけ。……自分の声だった、勿論あんなことを言ったような記憶はないんだけどな。

 俺は、もう一度あの声を思い出す。

 憎悪よりも悲哀の方が比率の高かったあの声は、何かを憎んでいると言うよりも……まるで、自分を恨んでるような。そんな気配がした。悲しい声だった、胸を突き刺すような感情をいくつもいくつも孕ませていて。

 『なんでこんな目に』か……なんだろう、一見自己中心的な言葉に聞こえるんだけど、よく考えると"俺が"とは言ってないんだよな。まあ聞き取れなかっただけっつうならそれまでなんだけどな。


「……多分だけど、自分の言葉が聞こえた」

「そうか……それは、何と?」

「………………『なんでこんな目に』って」

「そうか、そうか……ミウ、彼の登録をしてやってくれるかな」


 半分放心状態の中、爺さんの俺を気遣ったような優しい声が聞こえた。その言葉に甘えて俺は、頷く。ただ何も考えずに。




 そこからのことはあまり、覚えてない。

 破片で傷ついた手から滴っていた血を、ギルドカードだと説明されていた者に落としたらカードが発行されたってことになって、そしたら爺さんに意味のわからない本を渡されて、いつのまにか小さな部屋のベッドの上に座っていた。気付いたときはもう夜で、鼻に温かい匂いが届いたことから爺さんが夕飯を届けてくれたんだなあ、なんてぼんやり考えた。

 ……なんだったんだろうな、あのノイズ混じりの悲しい(俺のものらしい)声は。

 考えても考えても、いやそれどころか考えれば考えるだけ、意味が解らなくなるんだ。

 あんな言葉は俺の記憶にはない。あんな感情は、俺の中には存在していない。……なのにどうして、俺の耳にあんな声が響いた? 何かを思い出したわけでもないのに、あの声だけが俺の頭をループする。

 あんな声を出さなきゃいけないような時間が、俺が覚えていない記憶の中に存在しているのかなあ……それなら、俺は過去なんて……思い出さなくても良いかもしれない。


「……寝よう」






 俺は思考を諦めて、そのまま眠ることにした。難しいことは俺の専門外だ。明日、爺さんと一緒に少し考えよう。

 そう、考えて。

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