自分自身を知ろう
「ステータス表示」
俺は自分のことをもう一度確認するためにステータスを出現させた。爺さんが優しい眼差しでそんな俺の動作を見てて……少し落ち着かない。なんだろう、むず痒いっていうのかな。そんな目には慣れてないから……。
と、取り敢えず……上の方から読んでけば良いかな。
「ええっと……名前はさっき言った通りでアルーダ・ルミス。んで、属性は……これ無か。年齢と種族はクエスチョンマークが5個で、えいちぴー? が1276で……えむぴー……が4491で、魔力が2524……です」
爺さんが目を見開く音がした……ような気がする。俺はその音に驚いてステータス画面から目を離す。……爺さんが、目を閉じて険しい顔をしてた。
敵意はない。悪意も感じない。……ただ、痛いくらいの動揺が伝わってきたんだ。
「えっと……爺さん?」
「……済まない、大丈夫だよ。続けておくれ」
問い掛けても爺さんは直接的な答えをくれない……どうしたって言うんだ? なにか俺、不味いこと言ったのか?
気不味くなって、俺は思わず視線をさ迷わせた。何だか、居心地が悪い……。
「えっと……固有スキル、が神眼と数値変化の二つ。特殊スキルが……何だこれ、加速度、と異常耐性―小―と……隠す者? 等加速? の四つ……。んでラストはノーマルスキルか。ええっと──」
「待った待った待った待った、もしかしなくても全部言ってる? というか言うつもりかい?」
ステータスを読み上げてると爺さんからのストップが掛かった。え、ダメなのか?でも一回決めたことだし、曲げる気はないんだよな……。それにさ、爺さん優しいし。隠し事なんかしたくないの、俺は!
……それともダメ、かな。
「あー……うん、済まないね、聞きたくないとかいうことじゃないんだ。ただ……良いのかい? さっきも言った通り、ステータスと言うのは重要な情報だ。もし平和に暮らそうと思うなら、それをバラすのは……勧められない。どこから漏れるのかも解らないんだよ?」
「でも俺は爺さん信用してるし」
「信用って言ったって……」
「……ダメすか?」
少しして、爺さんが溜め息を吐き出す音がした。不安になって目を合わせようとすると、困ったように微笑んで……爺さんは口を開いた。
微妙に身構えておく。
「わかっているよ、君の好意は素直に受け取っている。でも、それでも、ノーマルスキルは称号と同じほど公開にリスクが伴う。だから駄目だ。理由は、ノーマルスキルは一番使いやすい上に多用するからね……ああ、勿論儂が漏らすというつもりはない。それでもやはり、だ」
「そすか……」
爺さん、優しいなあ。物分かりの悪い俺に、ここまで解説してくれるなんて。ありがたいし、やっぱ少し申し訳無いところもある。
でも、もうここまで拒否されてるからな……無理して教える必要は、ないのかなあ……。やっぱどうしても気に掛かっちまうんだけどさ。
しゃーない、諦めるか。
「……わかったっすよ」
「それはよかった」
渋々了承の意を示せば、爺さんはにっこり笑って頷いた。……ほんとにこれで良かったのかなあ。結局自分のことはわかんないし、スキルのことも称号のことも微妙にしか解らなかった。詳細もわからない技能なんて、持ってる意味ないと思うけど……爺さんには聞くに聞けないしなあ。どうしよう。
とりあえずその事は聞いてみるか。
「あの、じゃあ……少し良いっすか?」
「うん? 勿論構わないよ? 暫く君にはここに泊まって貰うし、部屋も儂の家のを分けよう。常識やらも教えるつもりだからね。……それで、どうしたんだい?」
とっさに言葉につまり、視線を彷徨わせちまう。
爺さんは今、なんつった? 部屋をくれるって、常識を教えてくれるって……言ったのか?
え、マジか? 俺なんかのために? ……やべぇ、こりゃ本格的に恩返しの方法ちゃんと考えねぇと。
「あっと……とりあえず、自分のこと理解したいんでた……なんか、スキルと称号の詳細を知れるような方法とか本とかないっすか?」
そう口にした瞬間、爺さんが苦笑した。……なんだろう、しまった、っていう感情も入り交じってる表情だな。
「そうか、そうだよね……わかった、今からギルドに行こう。あれは貸し出し禁止だけど、読むだけなら儂が居ればどうにかなるからね。よし、じゃあ行こうか」
呆気にとられて爺さんを見る。な、なんかよくわかんないんだけど……ついていけば良い、んだよな?
ちょっと中途半端なのは御愛嬌。
次回はギルドに行きます。