出会い
色々と不完全な気がしますが御愛嬌です。
宛がないのに歩くのはつまらないものだな。
……暗い森を歩きながら、俺はふとそう思った。もしかするとそれは世界共通の考え方で、全ての知的生命体は目的がなければ、はたまた宛がなければ歩かないのかもしれないが……まあ今の"俺"にはそれを判断する術はないし、知る方法もない。知るつもりは一応あるけど。
ああ、にしても中々……進めないなあ。
──ヒュンッ
「ああくそっ、いい加減うっとおしいわ!」
……まあ、風切音がしたと思ったら小刀……いやナイフとも言いがたい刃物が飛んでくるんだ。ある意味しかたがない。思うにさっき俺を襲った奴のトラップだと思うが……、鍔の無い刃物類って使いにくくないか?
いや……まあこんなのは現実逃避の一つだな。取り敢えず何が言いたいかと言うと……
「俺を殺したいなら正々堂々襲えよ……」
洞窟を出て少ししたとこからこのトラップは始まった。一番最初はビビったなぁ……だって、いきなり何の気配も無いところから風切音がしたんだぜ? 魂の類を信じてる訳じゃないけどさ、一瞬あのローブの人達が俺に復讐(理由は解らないけど)したいのかとかなんとかかんとか……思っちまったよ。
まあ結局、刃物が飛んできた方向にあった木に軽く登ってみたらトラップの残骸らしき物があったから良いんだけどな。
因みに俺はビビりじゃないからな!
そこは勘違いしてくれんなよ!
……うん、虚しいな。結局俺の周りには誰も居ないわけだし、居たとしてもこんなの口に出せるかってくらいふざけて言ったことだし。ま、つまりは意味がないっつうことな。馬鹿な俺……寂しいぜ。
それにそろそろ腹も限界だ。どのくらい歩いたかはもう解らないが、空が白んできてる。罠に翻弄されてもう時間も方向も感覚がないや。は~、案内人がほしいなあ。別に突っ込んでくれなくても良いからさ。
何より、今の俺は常識知らず。多分だけど下手打ったら色々ヤバイ気がする。誰か殺しちまったり、逆に俺が大きな怪我負っちまったり。
ま、本音は面倒なだけな。罠は俺を狙い撃ちにしてくるからさ、仲間とか案内人がいりゃあもうちっと楽に進めそうだろ? 勿論の事ヤバイときは俺が守るけどさ。
「……あ~、眠いし腹減った。疲れた! なんかえむぴーって数字も減ってるし! やっぱり良くない! なんか食いたい!」
なんてことを叫んでから約3000歩。
俺は何時の間にやら森を抜けて、生活感のある場所に立っていた。
……ま、俺が望んだことでもあるし良いんだけどな。拍子抜けとか思ってないオモッテナイ。
……えっと見た感じ目の前の集落? 村? は未だ眠っている様だけれどなにか生きている気配がしていて。……つまり俺は良い感じに人が住んでるところに来れたらしい。
あ~……誰か俺に声かけてくれるか姿を見せるとかしてくれないかな? まあ寝てるなら無理に起こす気もないけど……。
……まあ良いや、勝手に村(?)の中見せて貰おう。
その村は小さくて、丸くて、そしてどこか優しい感覚を俺に与えた。記憶には全く無い場所だけど……ちょっとした安心感まで覚える。
……この村は何なんだろう?
そんなことを考えているうちに、決して大きくはない気配が俺の意識の中に入ってきた。俺から隠れるように建物の影を伝って……そして何かの気配が、俺を捉える。
『看破系スキル:鑑定Lv54が発動しています』
「っ!?」
無機質な声。頭の中に響いて小さな警鐘を鳴らす。看破系スキル? なんだそれ、というかこの声はなんだ? 誰の声だ? 俺の近くには誰も居ない筈だろ? というか、言い逃げじゃなくて意味を説明してくれよ!
「ああもう面倒臭い! 何か用か!」
気配の方向に吼えてみる。
用があるなら出てきてくれるだろうし、まあアイツだったら……逃げるような気はするけど。とにかく落ち着かないからやめてほしい。スキルなんだろ?だったらなおさらだ。
「おやおや……儂の腕も落ちたかな?」
予想に反して、俺の目の前に現れたのは白い髭をたくわえた爺さん……なのかな。肌、というか毛並みは少しくたびれてるけど綺麗な黒色。耳は……右側が少し欠けてるなあ。
大体80位の年、かな。適当な感覚では。
「ぁ、えっと……」
ただ、俺は何となく反省する。よく考えてみれば爺さんは俺から隠れてスキルを使っただけであって……朝っぱらから怒鳴るようなことはなかったかな、なんて。
「はっはっは、驚かしてしまったかな? 済まないね、こちらは夜から森に仕掛けていた罠が何故か作動し続けて、それで君がその森から出てきたから……何か企んでるのかと思ったんだけど、敵意はないようだからね。済まないことをした」
「は、はあ。ええっと俺も怒鳴っちまって……すんません」
……聞けば、俺が引っ掛かった罠は大半狩り用のやつだったらしい。何か、すんません。
「それにしても済まないね……この村はあまり、明け方に来る冒険者が居ないものだから。儂もつい警戒してしまったよ」
「ぁ、そうなんだ……じゃないそうなんですね。……なんか、罠に引っ掛かりまくったり明け方に来たりして申し訳ない……です」
「あぁ、そんなことは気にしなくて良いよ。儂にも覚えがあることだからね。若い冒険者は失敗してなんぼ、だよ」
そういう風に言ってもらえるとありがたいっすけど……。
あ、そうだ……
「すんません、それより"冒険者"とか"スキル"とか……種族とかって、何なんだ……ですかね? 俺、昨日くらいに洞窟ん中で目が覚めて、それ以前の記憶が全く無いん……ですよ」
そう俺が言うと、爺さんは自分の髭を撫でて少し考え込むような素振りを見せた。……き、聞いちゃダメなタイプの質問だったのか?
「目が覚めた、というのは召喚だったとして……記憶がないのか。言葉が喋れて意識があるのであれば失敗ではないだろう。……ふむ。異界召喚とも創造召喚とも取れるが……大遺跡で行われたのであれば何でもあり得てしまうのが困りものだな」
……ちょっと爺さんが言ってることの意味が分からん。
え、何だよイカイショウカンとかクリエイトコールとか。言葉は解るのに意味が理解できねぇ……。
「あー……えっとどうしたん、すか?」
「ああ悪いね、少し考えてただけだよ」
いやそりゃ解るっすけど。
「とりあえず君はつい最近目が覚めて、記憶がないんだね? じゃあ解らないことが多いだろう……おいで、儂の家で話をしよう」
爺さんはそして俺にそんなことを言って、手を差し伸べてくれた。少し嬉しかった。だって、目が覚めてから今の今までまともな会話とか……なかったんだぜ? 悲しいとか以前に色々疲れてたんだよな。だから、……
俺はその手を、取ることにした。