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呪われた子

いつもより短いです。三割くらい。

 朝、扉をノックする音で目を覚ましたアースは目を閉じたまま気配を探っていた。ノックをしたらしい人物の形がうまくつかめない。気配が探りきれない。変だな、と思いながら体を起こす。そして布団を出て扉の方に近付くとそれを止める幼い声が聞こえてきた。


「ノブに触らないでください。姉さんに知られてしまいます」


 へぇ、と呟きアースはノブに触れようとしていた手を引っ込める。"姉さん"ということは、リャンとリーンの兄弟だろう。この声は弟……だろうか、と考えてみる。幼い声だが、女の子と言うには少し低い。彼は"リガン"か? とも考える。けれど"リガン"は行商に出ていると言う話を思い出し、違うだろうと打ち消す。


「お前さんは誰だ? それと、なんでお前さんは俺の部屋に来た?」


 少しの沈黙。

 答える気がないならそれでいいけど、と呟くとアースは肩を竦めた。彼は答えない。気配があるのに答えない。

 アースはさらに問う。


「お前さん、"リガン"か? お前さんの気配はさ、ぐにゃぐにゃしていて掴めないんだ。お前さんいくつだ? 男か? 女か?」


 沈黙が続く。


「だんまりかよ……まあいいんだけどな。んで、だんまりなお前さんが俺に話しかけに来たのはなんのためだ? 俺にコンタクトを取って、何を聞き出したい。何を聞かせたい」


 息を吸うような吐くような、微妙な音がする。アースは相手の言葉を遮らないように口を(つぐ)んで、ただ答えを待った。


「……僕は、リガンです。呪われた子……。姉さんが僕のことを想っているのは、わかっています。けれどあなたのような人に迷惑は、かけられません。逃げてください。姉さんは口にしたことは守ります。あなたが口にしたことは守らせます。だから、早く……」


 へぇ、と呟いてアースは頷いた。リャンも彼も人がいいらしい。逃げろと言う。けれど結局、彼らはアースを外に出そうとはしない。

 だがアースには、それはむしろとても好ましく思えた。素直だ。彼らは口にしないだけで、とても素直なのだ。どこかで期待しているのだろう。どこかで望みをかけているのだろう。リーンが何を犠牲にしてもリガンの呪いとやらを解除することを。

 いいことではある。素直になるのは努力も必要だが、その想いは力になる。その想いの力は時に、"奇跡"とも呼ばれる。


 そこまで考えて、我に帰る。また何を考えていたのだろうか、と。アースは記憶がない。それなのに不思議なくらい知識がある。それは不自然とは言わないのだろうか?

 この思考は、この考え方は、そもそもどこからやってきた? そもそもアースはどうして今のような性格なのだ? 性格は記憶、すなわち経験に準じる。零に等しい経験で、なぜここまで思考を回せる? なぜアースはここまで明るいのだ? 明るく居られるのはなぜだ?


「……なあリガン、俺の問いに一つ、答えてくれないか?」

「へ……?」


 少し考えてから、アースは自分に関する思考を放棄した。そして気持ちを切り替えてリガンに向けて言葉を選ぶ。

 戸惑いが伝わってくるけれど気にはせずに、ただ言葉を連ねた。アースはまず、理解をしなければいけない。彼らのことを知らなければ何もできない。


「全部話してくれよ、お前のこともリーンのことも、リャンのことも。俺は確かに巻き込まれた側だし? だからさ、知らなきゃいけないんだよ。逃げるにしても恩を仇で返すにしても、俺はお前たちに少しは関わった。これからの行動を決めるために、知らないままでは不誠実だ。そうだろう?」


 困惑の気配が強くなり、リガンの気配がいっそう探れなくなった。アースはけれど言葉を止めない。彼は彼なりの正義に従うのだ。

 いや、これは正義ではないのかもしれない。ポリシー、自分ルール、その他わがままとでも表現できるだろうか。アースは気持ち悪い状態でいたくはないのだ。誠実に生きたい、有言実行でいたい、そう、"こうありたい"という理想に従っていたいのだ。

 わがまま結構。アースは世界やら常識に縛られるような柔ではないのだ。


「お前の呪いもリャンとリーンの希望も、俺がなんとかしてやるよ。呪いを扱うことはできるっぽいんだ。だから、さ……溜め込むな。逃げろなんて言葉に逃げるんじゃねぇ。誰かを頼れ、自分の内の弱さを盾にすんな。弱いなら弱いなりに、それを誇れ!」




 何を言ったのか、何を言いたかったのか。

 アースは実際にはそれを理解しきれないまま、リガンへと差し向けていた。

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