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魔眼と呪い

「……俺の、目?」

「おおっとぉ、ハードル高い要求するなよリーン」

「煩いよクソアニキ。魔毒を喰らってたのも浄化しといたんだから、このくらいは当然の権利だろ」


 唐突なる非常識の要求に、アースは僅かに逡巡する素振りを見せた。目、目玉。そんなものを欲しがるリーンの思考回路は理解できそうにないし、そもそも目を取るのは相当痛いだろう。それに視界が半分になるのは嬉しくない。回復できるのなら良いが、白魔法では部位欠損は治せない。必要になるのは光属性の上級魔法だ。

 そしてアースに扱えるのは白魔法と黒魔法の全般、それと基本的な属性魔法を上級までだ。しかし光属性は専門外。扱えて中級上位までだ。部位欠損を完治させるにはあと一歩足りない。

 そしてさらに困るのがこの大剣。契約武器のような気配もあるこの大剣は、使い勝手も良いため手放したくはない。そうなるとどちらも究極の選択だ。


 考え込むアースに、そっとリャンが近寄ってきた。とりあえず考える時間をやらないとどうしようもないだろ、と言いつつアースとリーンを引き離す。

 リーンは不服そうだったが、アースはそれをありがたく感じた。考える時間がほしい。その一言に尽きるのだから。


「逃げないでよ、お兄さん」

「逃げないさ。ちゃんと考えるからな」


 ひらひらと呑気にリーンへ手を振っていると、リャンに脇腹をどつかれる。目を欲しいとか言う奴になんでそんな呑気でいられるんだよ、とのこと。至極真っ当な言い分である。しかしながらアースとしては怪我を治してもらったのは事実であるし、借りは返す性分である。目か大剣がその対価になると言うのであれば、支障のない範囲でそれを叶えたくはある。そう、例えば大剣を貸すだけだとか、目も返してくれるだとか。それならばまだ、許容範囲の中にある。

 痛みくらいは良い。少し耐えればそのうち消える。不自由なのもある程度は許容できる。慣れればなんとかなるからだ。ただし、永続するのは嬉しくない。



 リャンに案内されて、部屋に戻る。すると共に部屋に入ってきたリャンは気の毒そうな、それでいて諦めたような表情で笑った。諦めろと言いたいのだろうかとアースは勘繰りそうになったがそれを口にする前にリャンが口を開いた。


「悪いな、さっきの。アースお前、体力は残ってるか? 残ってんなら今すぐ逃げた方がいいぞ。リーンは俺と違って義に固いし、その分融通も利かねぇんだ……命の対価は、それに近い何かで払わせるなんて主義でな。やりすぎだとは思うんだが、それでもやめさせられないからなあ……リガンがいたらもう少し交渉の余地もあるんだが、あいつ今行商に出てるし」


 ふうん、と頷いてから小さな声でアースは対価かと呟いた。命を救われた対価は、確かにそれに近いもので払った方がいいだろう。それが手っ取り早いし、何よりも楽だ。そして対価と言うのに相応しい。


「……なあ、気になるんだが……どうしてリーンは俺の目を欲しがったんだ? 剣ならわかるんだけどさあ、俺の目なんて色が違うくらいで、大して珍しくもないと思うけど」

「え……お前、魔眼持ちじゃねーのか?」


 返してくれるなら目でも何でも良いんだけど、と思いながら上の空で知らね、とアースはリャンに返した。

 本当にアースは知らないのだ。別に魔力の形を見れると言うわけではないし、特別な力が使えると言うわけでもない。できるのは魔法を自在に扱うこととか、大剣を使って戦うこととか、その程度。生きていくのに必要な目利き程度はラガットに教わってできるけれど、目に関するそういうことはそもそもが自分自身の実力だ。強いて言うなら記憶力の領域であり、目が関係しているわけではない。魔眼など知らない。本当に、何も。それに魔眼と言う単語がアースの記憶には引っ掛からないのだ。だから結論として、アースは魔眼を持っていないし知らない。

 知識としての魔眼は知っているが、自分の目がそうではないことなど分かりきっているのだ。


「忘れてるだろ、リャン。俺は記憶喪失なんだぞ。まあこの目が魔眼じゃないのは確実なんだけどな。爺さん……俺が目を覚ました近くの村の村長の爺さんがそう言ってた。俺の目から魔眼の気配はしないって」

「いや、だが……リーンが体の一部を欲しがるときはだいたい、その部位に力が宿ってるときだぞ? 目なら魔眼、心臓だとかの重要器官なら魔核に近いもの、手足なら何かしらを封印しているものだとかで」

「違うもんは違う。そもそも俺が魔眼持ちならあんな風にボロボロになるかっての」


 それよりも"欲しい"だから譲渡しなきゃなのかねぇ、とのんびりと呟きアースは自分の白い方の目、右目の上に手を置いた。知らないものは知らない。ないものはないのだ。

 もしもこの目が魔眼だと言うなら使い方を教えて欲しい。それよりも自分こそ魔眼が欲しい。

 そんな気分である。




「マジかあ……となると、リーンにゃそれを説明しなきゃいけねぇな。目を取っても魔眼じゃないから意味ねーぞって」




 ふと溢れたリャンの言葉に、アースは顔をあげた。意味がない、ということはリーンにとって魔眼を集めることは意味のあることなのだろうか。あるとすれば、その意味とは?


 場合によっては力を貸せるかもしれない、とアースは考える。アースは無駄なほど魔力が高いのだ。賢者であることを踏まえれば、それは魔法行使能力が高いということとも取れるはずである。それに、今は大して残っていないが魔法行使限界能力値(つまりはMP)だって高い。

「魔眼など力のこもった部位を欲している」

 それが魔力的なものを補充するためだったり魔法をリーン、彼女自身に使うためであるのなら賢者であるアースの能力はとても適当だ。自他に魔法を行使できるのだから。


「……リャン。この目は魔眼じゃないけど、魔法的なことなら俺は力になれるぞ」

「は? どう言うことだよ」

「リーンの目的を教えてくれ。その目的によって俺が力になれるかどうかが変わる」


 リャンが顔を歪める。

 話したくないことなのか話せないことなのか、それともリャンも知らないことなのか。別にどちらでもいい。リャンが分からないならリーンに聞けばいいだけのことだ。もちろん、無理にとも言わない。


「……リーンは使える魔力を増やしたいんだ。そんでリガンが持ってる呪いを抑えて、解呪したい。そんだけだ」


 へぇ、とアースは呟く。なるほどそれは確かに魔力が必要なことだろう。しかも解呪となれば自分に呪い返しが起こることも考慮しなければいけない。体の重要器官を侵している場合はそれを傷付けないようにしなければいけない。

 と、そこまで考えたところで気が付く。なぜそんなことを知っているのだろうか、と。


 アースはラガットとミウから呪いについてはほとんど何も教わらなかった。そういうものがあるから気を付けるべきだ、程度のことしか言われなかった。それなのに解呪のしかた? 知っているはずがないのだ。


「……うん、それならなんとかなりそうだ」


 明日話す、とアースは微笑んだ。リャンは不思議そうにしていたが、まあできれば逃げろよ、と言って部屋を出ていった。

 けれど外で、鍵を閉める音が聞こえてきた。つまりはそういうことなのだろう。




「魔眼に、呪いね。……俺にどうにかできるレベルかは知らないけど、まあ、やるっきゃないだろ」


 それを無責任と言うものなのか傲慢と取るべきものなのかは、アースには分からなかった。

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