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漁村

「くたばってないな?」

「へーきっす」


 肩を貸され、アースは男が走って来た方向に向かって歩いていた。身体的にもダメージがあったが、何より精神的にもダメージを受けていたため肩を貸してもらったようだ。足は立つが、うまく動かない状態。それを肩を借りることで無理矢理動かしているらしい。

 首筋と手のひらについた斬り傷から包帯を越えてだらだらと血が流れるが、もうあまり痛みは感じていなかった。毒でも喰らったのかもしれないが、魔力さえ戻ればあとは白魔法をかけるだけで十分である。まあ、まだ時間は必要だが。


 あの時ストームの攻撃を遮り、爆発とナイフとでアースを助けた男、彼はこの先にある村の冒険者らしい。名前はまだ聞いていないが、人は良さそうだ。アースは自分に気遣いながら歩く速度を緩めている彼へそう判断をした。

 短い黒髪に、ダークブラウンの瞳。あまり気負うことのない荒い口調の奥には、人を気遣うことのできる優しさが見える。

 こういう人と最初に出会いたかったな、とアースはぼんやり考えた。しかし、その思考が口に出ていたらしい。小さい声だったのか首を傾げられただけだが、少し疑問を持たれたらしい。

 彼が口を開く。


「お前、名前は? 遅くなったが俺はリャン。呼びにくけりゃリアンとかリヤン、まあヤンとかでもいい。さっきも言ったようにあっちの町……なんて呼ぶには烏滸がましいくらいの漁村を拠点にしてる冒険者だ。お前も冒険者だよな?」

「ん……アースっす。『大遺跡』の方から来た……っす」

「敬語にはしなくていい。めんどいだろ?」

「……じゃ、遠慮なく。そう、俺も冒険者だ。人種は謎、年齢も謎、出身地も謎。……いわゆる記憶喪失で、よく分からないけどさっきのやつに殺されそうになってる。今さっきので二回目だな。んで、ステータスが謎。年齢と種族、属性が意味分かんねぇことになってる。……ふう」

「へぇ。記憶とかを封印されたのか?」

「……封印?」


 新しい単語に首を傾げ、アースはリャンと名乗った彼を見つめた。案外元気そうだな、と口にしてからリャンは肩を竦め、気になるのかとアースに問い掛ける。

 もちろんアースはそれが気になる。記憶がないのは気持ちが悪いし、何より封印と言うキーワードはラガットが示さなかったもの。彼が知らなかったのか、それとも可能性が低いと思っていたのか。どちらも否定はできないし、そのため余計に詳細を知りたくなる。


「封印ってのはそのまま封印だよ。わかんねーのかあ?」


 ケラケラ笑いながらそう言われ、アースは一応知識を求めて記憶を探ってみる。しかしながら思い当たるものはない。

 眉間に皺を寄せながら唸っていると、さらにケラケラとリャンは笑い、冗談だと口にした。


「くかかっ、試すっつーかからかうようなこと言ったな。封印ってーのは悪いもの、都合の悪いもの、強すぎるものに蓋して隠すとか、使えなくするとか、あとは扱いやすくするためのもんだ。光属性か影属性で行うのが基本でな、使い手も糞みたいに少ない。封印魔法の使い手を探すのは龍種を探すくらい難しい、ってのが定説だな」

「へぇ……で、リャンはなんで俺について回る謎が封印由来のものだと思ったんだ?」

「んー? そりゃま、俺が封印魔法の解除を生業にしてるからだな」


 使い手を探すのが難しいとか言っといてあんたが使い手かよ、と思わずアースは突っ込む。しかしリャンは違う違う、とアースの突っ込みを否定した。


「俺は解除専門で、封印自体はできないのさ。それでも解除の技術の関係で封印魔法の気配には敏感ってやつでよ。んで、お前の話を聞く限り……その状態は200年くらい前にいたっていう竜人の話、それより前だと1万年くらい昔のお伽噺の中の話が近そうだ。記憶がない、種族も年齢もよく分からない。その二人の記憶喪失の原因はスキルへの強力な封印。スキルは経験の集大成みたいなとこがあるから、それを封じられるとその時までに生きた年数や経験、記憶を忘れる。さらに世界の意思すらも封印魔法の強力さに手が出せず、表示が狂った……みたいな話が、まあ俺の師匠から教えられた話の中にあってだな」

「……へぇ」


 興味深い話に耳を傾け、ふむ、とアースは頷いた。スキルを含めた記憶を封印されている。その観点は中々目新しかった。

 ただそうなると問題になるのが、どうやってそれを証明するか。そしてどのように封印を解くか。


「リャンは俺のスキルとかが封印されてたとして……解けるか?」

「ムリだな」


 一縷の望みをかけた質問はあっさりと切り捨てられた。しかしアースは特に気落ちした様子は見せない。どこかで、封印なんて大仰なものがそう簡単に解けるものではないと察していたからだ。

 変なこと聞いて悪かったな、と苦笑しながら言うとアースはリャンの話を頭の片隅に追いやった。解除の方法がないもの、解決法のないものは気にしないに限る。




 しばらくとりとめのない話をしながら歩いていくと、アースの耳に聞きなれない音が聞こえ始めた。そして音が聞こえ始めてからほどなくして、村が見え始めた。けれどアースの理解はワンテンポ遅れる。

 なぜなら、ラガットの村とは形があまりにも違ったからだ。


「えっ……えっ、えっ?」

「あっはっは! いい反応だなあ!」


 現れた景色は美しいもの。透き通るような青海とさざ波、その上に浮いた筏のようなものの上の家、屋形船。道はなく、人々はボートを足にしているらしい。

 ただただ異様で、美しかった。


「ここは海の中の漁村、『フィルナンシュ』。この村の者は皆海と共に生まれ、死んでいくのさ」


 んじゃ行こうぜ、とリャンはアースを連れて村の中へと入っていった。

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