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難航中

書き方を試行錯誤している途中です。

……あ、新章です。

 前途多難、という言葉がある。この言葉はこれから先の道に困難が多いこと、もしくはこれから先の道に多くの困難が予想されることを示している。

 また、暗中摸索という言葉もある。これは何も分からない状態で手探りに進むことだったり、手がかりのないまま試行をすることを示している。


 そしてアースは今現在、そういう状態にいた。

 つまり、


「しまった、地図の読み方がよく分かんねぇ」


 道に迷い、正しい道……と言うよりも自分の目的に近そうなルートを見付け出せないでいた。つまりは森を抜けた先の道で迷っていたのだ。

 どうやらアースには方向音痴に近いものがあるらしい。


「しょーがないなあ……」


 はあ、と息を吐き出すとアースは召喚された時から履いていたブーツから、仕込んでいたものらしい小さなナイフを抜き放つ。そしてナイフの切っ先を地面につけると柄から手を離した。

 ぱたり、と重力に従いナイフは当然のように地面へと倒れる。アースはその倒れたナイフが自分から見てどの方向にあるか見、それから地図を見直した。


「んじゃ、こっちが北ってことにして……あっちが次の町かね」


 なんとも気の抜けるような決め方で決定。しかものんびりとした口調で次の方向を定め、歩き始めたのだ。

 ちなみに先ほど抜いたナイフはすでにブーツへ仕込み直されている。




 アースはあの村を出て、森を抜け、半分自然に紛れたような道を辿ってきた。魔物ともいくらか遭遇した……と言ってもスライムやゴブリンがせいぜいで、ラガットとミウのもとである程度訓練を重ねたアースからすると、大して価値も意味もない遭遇戦ではあったのだが。

 そしてアースの現在の手持ちの資金は3,000クローナ、つまり銀貨3枚だ。まあこれはどうでもいい。それと他のアイテムとしては、遭遇して危なげなく倒したスライムの核5つ、ゴブリンの耳6つ。そして最後にラガットから旅に必要だと言われて揃えた食料が約4日分だ。全て革袋に小分けにして入れ、金属の輪で口を閉めた状態で所持している。

 食料は生命線であり持てるならいくらでも持つべきではあるが、流石にアースも時空系統の魔法は扱えなかったようで、4日分が限度だった。

 まあ、そうは言ってもラガット曰く、次の村にはどんなにかかっても3日、早ければ1日と少しで到着できる距離にあるらしい。方角を間違えていたとしても、まあ長くても5日で他の村に行ける、とのことだ。そういうことでアースは道に迷った現在でも、大して焦らずに運任せ、気分任せで歩いている。



 人でもいないかな、とはさすがのアースでも思う。けれど先程から見掛けるのはスライムや小兎程度。大きいものでもいても鹿か犬か、その辺りである。

 つまり誰もいない。

 耳を澄ませてみても重い足音は愚か、声も聞こえない。村からそう離れてもいないはずだけれど、と考えなくもない。が、ラガットが何かしら結界を張っていてもおかしくはないと思うため、さして不思議に思うこともないのだ。


 結論。何もなくつまらない。




 歩いて歩いて歩いて、歩く。疲労は早々溜まらない体質であり、体力もラガットをして底無しと言わしめたほどである。数時間歩いた程度では汗を僅かにかくのみである。

 風が吹いて心地が良い。むしろ丁度良い。


「、ん」


 ふと、アースの耳に剣を、金属を交える音が届いた。風に乗って届いたらしい、一瞬のこと。気のせいとも言えるような音だった。

 誰かが交戦しているのかと危惧し再度耳を澄ますも効果はなく、結局気のせいか何かという静寂しか残らなかった。僅かな落胆と、「いやいや何もなくて良かったんだろ」という良識的な思考を再確認して、アースは誰に向けるでもない苦笑を溢した。

 どうにもこうにも、暇が過ぎるらしい。


「はあ、仕方ないな……いや、逆に考えろ。誰にも邪魔されない時間があるんだ。だからとりあえずは……ステータス表示(オープン)


 仕方がないからと、暇があるからとアースは歩きながら片手間に自分のステータスを開いた。

 ふぉん、と効果音が付きそうな形でステータスが表示された透明の板のようなもの──ラガット曰くそれはステータスウィンドウと呼ぶらしい──が展開される。それに軽く目を通して、アースは特殊スキルと固有スキル、そして称号へと溜め息を一つ、吐き出した。もちろんステータスウィンドウはガラスでも固体でもないので曇りはしないのだが、まあ特に意味はない。


 アースが溜め息を吐き出した理由はやはり自分のステータスにある。ラガットに言われ、魔法ではないスキルの習熟に一日ほどは努めたのだが、どうにも馴染まず使い勝手が今一つなのだ。ノーマルスキルはなんの抵抗もなく馴染んだのに、である。

 しかも極めつけは固有スキルだろう。神の名を冠す固有スキル、神眼(ゴッド・アイ)。神の"眼"と言うからには視覚に作用するスキルなのだろうが、いくら目に集中してみてもアースは今までのところ、何も変化を感じられていない。

 しかも厄介なことに、アースは鑑定系のスキルを所持していないのだ。少なくともラガットに貸してもらった本の中に書かれていた名称の鑑定系スキルは所持していなかった。

 特殊スキル、固有スキルは名前での判別が難しいため自分のスキルを知るためには、理解を深めるためには鑑定系のスキルが不可欠だ。しかしアースはそれらしきものがない。


 つまり、詰んでいるのだ。


「はあ、俺の武器も、ブーツも、装備も……なんかよく分かんないしなあ」


 呆れたような声色で呟いて、アースはすらりと腰の大剣を抜いた。柄を片手で軽く握り、MPを軽く消費する……いや、"魔法の力"、通称"魔力"を注ぎ込む。


 ちなみにだがこの"魔力"はステータスにある"魔力値"と同義ではない。MPをエネルギーそのものに還元したもの、とでも表せばいいだろうか……そんなものなのだ。魔力というものは、諸説あるが、ステータスにある魔力値を"質"だったり、"密度"のような尺度として放出された力の奔流、という認識が一番ふさわしいものなのだろう。少なくともラガットはそう認識しており、アースにそう伝えた。ミウも頷いていたため、アースのなかでの魔力と魔力値の関係はそうなっている。


 話を戻すと、アースが魔力を注いだ大剣は見た目通りの重量から、木の棒とも間違えるような重さへと転じた。

 アースは感触を確かめるように大剣を歩きながらも何度か振り回し、ほう、と息を吐き出す。相も変わらず不自然な、そしつ不可思議な現象だった。重さが変わる、だなんて。

 ラガットは武器や装備品を鑑定するスキルを持たず、ミウもまた同様に持っていなかった。そのためアースは現在進行形でら自分の装備している大剣やベルト、ブーツや髪留め(それとも髪結い紐?)を含めた全てのものの名称、効果を理解できずにいた。

 一応だが大剣は契約武器もしくは意思のある魔剣で、


・アースにしかまともに使えないこと

・簡易的な重力操作のスキルが付与されている、もしくは元から保持していること

・歪んだり壊れたりはしないこと


の三つが確かめられている。……ラガット曰く、下手な人間に見せると奪われるレベルの逸品物らしい。つまりは通常、命を対価にしても足りないほどの品なのである。契約者らしいアースに対しラガットが羨ましいと溢した程である。

 さて、ではなぜこれがアースのものなのか、わざわざゼムス大陸という魔境にまで行かなければ手に入らなかったものなのか、という疑問がここで起こる。

 やはりアースをこの地に召喚した彼らが生きていれば少しは違ったのだろうか、とアースは考える。けれど分からないものは分からないのであり、どうしようもないと言えばその通りで、今さら後悔するのは遅すぎてしまう。


 はあ、と息を吐き出してアースは地面に大剣を振り下ろした。魔力の注ぎ方を変え、一気に重量を増やしての一撃である。

 大した苦労もなく、振り下ろした場所から地面には浅い亀裂が走った。苦笑をまた一つ溢し、アースは大剣を鞘にしまう。こうまでしても、人の気配は感じられない。


「とりあえず、これで寄ってきたスライムぶっ倒したらちっと走ってみるか」


 小さく呟くと口角を吊り上げ、アースは軽く肩を竦めていた。

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