表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

胎動

これからよろしくお願いします。

 とある洞窟の中、十程の影が脇目も振らずに進んで行っていた。黒色のローブから覗く彼らの瞳に宿るのは狂気とも歓喜ともとれる、薄暗い光。

 彼らはただ前に走る、走る。

 理由は解らない。ただ前へ前へ、宝箱にすら目を向けずに駆けていく。……何が彼らをこんなにも奮い立たせているのだろうか?


「この奥に……」


 誰かが呟いて、それを合図にしたかのようなタイミングで彼らの背筋が伸びる。そして大きな広場に着き、台座に据えられているらしい何か――黒い宝玉――を、先頭を駆けていた誰かが恭しく手に取った。

 僅かに、安堵の溜め息が彼らの間から漏れる。


「これで、これで漸く……あの方に、救いを求められる」


 誰の言葉かも解らない、その一言。彼らは同意するように頷くとさらに奥へと向けて歩み始めた。見つめる先にあるのは、竜種が通れそうな程大きな扉。

 それが今、開かれた。


 重苦しい音が響き渡り、扉が開かれる。誰が触ったわけでもなく、勝手に扉は開いたのだ。

 しかし彼らは動じることもなくその奥の広場に入っていった。入ると同時に床に描かれていく、紋様。見つめ、見つめ、彼らは恍惚としたような溜め息を吐き出した。素晴らしい、美しい、人のわざではない……等々。

 そして、彼らは儀式を始める。











 遠い遠い大地で、右袖の無い着流しを着る青年は右の目を見開いた。何かを感じ取ったかのようにふらつき、そして大木の幹に手をつく。

 何があったというのだろう。

 青年は何度も深呼吸をし、自分の息を整えようとする。……だがその努力も虚しく、彼は大地に膝をついた。


「何だ、何なんだ……っ、あいつなのか? あいつが居るのか? 僕は行くべきなのか? でも、……どこに?」


 その言葉に答える者は誰一人として存在しない。

 それもそうだろう、青年の傍にあるのは物言わぬ屍だけなのだから。散乱するそれらは熱を失い、血液を失い、呪詛と動かぬ体のみを残しているだけなのだ。


 青年はよろよろと立ち上がると頭を抑える。

 そして、覚悟を決めたように歩み始めた。行かなければ、と亡者のように悲しげな呻き声を溢して。

 重い体を引きずり、彼は取り付かれたように進む。


「何年掛かっても構わない……あいつだけは殺さなきゃ、僕の気が済まない……! あいつだけは、あいつだけは!!!!」


 その姿はさながら、狂信者のようだった。











 光が、こぼれる。

 そうとしか形容できない光景が広がっていた。


 そこが何処なのか、は定かではない。だが敢えて呼ぶなら凍てついた暗闇の底。……そんな場所が今、光に満ち溢れていた。

 空間の中心と思われる場所……そこは何かを封印しているのかのように剣が突き刺さっており、突き刺さっている地面と剣の隙間から光が、光輝く粒子が溢れていたのだった。


 やがてその剣にはヒビが入り、不吉な音を立てて壊れていく。……そしてばきんといったかと思うと、あっという間に砕け散ってしまった。


 ぶわり、と光の粒子が空間にあふれる。

 不安定に揺れながら人の形を取り、竜種のような形を取り、そして球の形を取る。


 ……何かが、始まろうとしていた。











 漆黒の翼が、空を駆けていた。

 一つ羽撃く(はばたく)だけで音すらも置いて行く“ソレ”は更に羽ばたき、狂ったように翔んでいた。


 やがてそれは、とある大陸の上空に辿り着く。

 高度を下げると森に影を落とし、適当な大樹の上にそれは降り立った。枝の上で羽を畳み、そして影が溶け消える。……左の頬に傷のある一人の青年が、その影の中から出てきた。息一つ、表情一つ崩さず青年は大樹の枝の上から飛び降りる。

 とんと軽い音がして、飛び降りたことを確認する間も無く……彼は駆け出した。前へ、前へ、前へ。

 意味があるのかも無いのかも解らない。ただ本能らしき声が命じるままに木の間を走る、駆け抜ける。


 村を横目に、


 立ち塞がる魔獣を斬り殺し、




 そして大きな洞窟の前に辿り着いた。……この洞窟が、世界に三つしかないSSS(トリプルエス)級のダンジョンの一つ、『大遺跡』。

 彼に迷いはない。ただ、必要だから。そう、聞こえるから。


 そうして青年は、スクト・パルームはダンジョンに足を踏み入れた。











「……っ」


 一人、二人、三人と。

 真っ黒なローブを羽織る彼らは倒れていく。儀式のために魔力を捧げる一人として精神力を、生命力を使い果たし、それでもと限界まで使い果たした彼らは、後の事を他の仲間に託し、そして息絶えたのだ。

 だがその甲斐があったのか、魔方陣の中心に光の粒が集い始めた。何処からともなくその粒は現れ、増えていく。……そしてその粒子達はやがて、ヒトの形を取り始めた。




 何かが、召喚されようとしていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ