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何から何を目指すか

 ミウは仕事柄実力がある。装備にだって少なくはない金銭をかけたし、冒険者として活動したこともあるためこの世界(アラマンデ)、並びにこの世界(アラマンデ)を別つ海や大陸、宗教などを大体把握している。

 もちろん全て把握している、というわけでもないが。

 そしてミウの目の前で今現在起こっていることは、そんなミウの持つ知識や常識、直感を悉く裏切るようなことだった。


 ミウには魔眼のような天賦の才はないが、魔力の流れを読み取れるような技術は持っている。それは時に相対した敵の動きを予知し、時にミウの命を救ったような技術だ。看破系、鑑定系のスキルとしての扱いではなく一種の勘として働くような技術であるため扱える者は限られるし、その発動を察知することはとても難しい。そのためミウは魔力の流れを見る技術というものにある程度の信頼を置いている。盲信はしないが参考程度には、というレベルの信頼ではあるが。

 けれど、そんなミウだからこそアースの行動は、アースの引き起こす現象は、とうてい理解しきれるものではなかった。




「あれが……うん、通常のゴブリンですね。このソドノス大陸にあるダンジョンで発生する魔物の一種で、知能はあるんですが魔獣と呼べるほどではないものです。魔力は大して使えませんが、単純な膂力は、そうですね……犬人の子供を上回る程度でしょうか?」

「犬人、ってーとレノくらいか……」

「これと言った弱点はありませんが、大体私たちと同じような体構造をしているので首を切り落とせば死にますし、魔法の一つでも顔に叩き込めば勝てますよ。避けますか? 戦いますか?」

「……とりあえず腕試し程度に一戦するんで、危なそうなら助けてください」



 最初の頃はアースも念を入れていたのか、ミウに保険を掛けておいて無難に剣でゴブリンを倒していた。けれど途中で、ぽつりとアースは呟いたのだ。


「……これ、なんかできそう」


 そしてその言葉の次の会敵でアースは盛大にやらかした。いや、やってくれた。

 一陣の風がアースの剣の一振りから生まれ、不可視の刃が宙を舞った。ミウはそれを見ていた。ミウには全て見えていた。魔力の動きも含めて、全て。

 その上で彼女の勘は最大級の警鐘を鳴らしていた。自分に向いたかもしれない風の刃に、不可視の攻撃に、魔力による攻撃に。


「おお~、中々使い勝手がいいな、これ」


 使い勝手が良い、の一言じゃ済まされないはずの攻撃方法。ミウも似たようなことはできる。魔力で風や空気を操り、真空の刃を生み出すような技術だったり魔力で斬撃・打撃そのものを飛ばしたり、だが。

 そしてアースが使ったのは両方だった。剣速に任せて風の刃を象り、それと同時に斬撃に魔力を乗せてそれを飛ばす。その技術の片方ずつを使うなら、ミウにも全く問題はない。むしろアースの技術は粗削りであるから、精度の面から言えばミウの方が一枚上手であろう。だが、その技術を両方使うとなるとミウの技量では無駄が多くなってしまう。溜めを作らなければいけないだろうし、そもそも二つの技を同時に発動すること自体にMP燃費の無駄が生じる。

 さらにミウの危機感を煽ったのは、魔力の偏りだ。真空、風の刃は魔力の含有率が低い。しかし斬撃、打撃を飛ばす技は魔力の含有率が極めて高い。魔力がスキルを使わずとも目視できるほどに固まるのだから当然ではあるのだが、二つの技をそれぞれ重ね合わせたことで相手は斬撃、打撃飛ばしの方を警戒し真空、風の刃に対して無防備になってしまう。もちろん威力としては魔力含有率の低い後者の方が弱い。けれどそれは比較的という意味であり、首元にモロに食らえばゴブリンの頭など簡単に飛ぶだろう。

 ミウは自問する。もしあの攻撃を初見で受けたとして、果たして自分は大きなダメージを受けずにやり過ごせただろうか、と。

 答えは否だった。

 もちろん魔法でバリアを張るなり、大きな盾や何かで防げばダメージを完全に殺すことはできただろう。だがその代わりに、大きな隙が生まれることは否めない。


 危険だ、とミウは内心で呟いた。自覚のない強力な技術、しかも大量のMP消費に関わらず平然としているその底のない実力。

 推し量れない、とミウは悟る。


「ミウさーん、討伐証明品はどこっすかー?」

「あ、普通のゴブリンは耳を討伐証明にしていますね。どちらの耳でも良いんですが、一つ片方で取ったらそれ以降は揃えるんですよ」

「分かりましたー」

「……ずいぶん斬撃が速いですね」




「あ、青いブニョブニョだ!」

「その青いのはノーマルスライムですね。討伐証明品はその中心の……核です。傷が少なければ高値の買い取りになりますよ」

「む、じゃあ風か水かな……。よいしょっ!」

「け、削れた……」




「あ、ゴブリンメイジ……」

「とう!」

「……綺麗に斬りましたね。討伐証明品はあるなら魔石で、なければ耳ですね。魔石があると喜ばれますよ」




「あ、もう目的地ですね。この足元に生えてる薬草が今回の目的のものですが、綺麗に採集して鮮度を保つのがたいせ……」

「『遅滞』っとぉ」

「……もう、それでいいです……」




「帰り道です。帰るまでがクエストですから気を付けるんですよ? ソドノス大陸だとそうそうありませんが、野盗や魔獣に襲撃されて命を落とした、という冒険者は他の大陸だと後を絶ちませんからね」

「じゃあこういうのどっすか? 『一陣の風よ、道を晴らせ』」

「……短縮詠唱ですかぁ……」




 桁違いと言うか常識知らずと言うか、出番がなかったとも言うが。

 アースが次々と見せた光景に次第にミウは諦めの境地で鉄壁の微笑を浮かべ、ただただ無我の境地に浸ってしまった。

 因みにではあるがその笑みに何も意味を見出だせず、アースが邪気のない笑みを見せたのは余談である。


 正直ここまで来るとアースは本当の本当に()()()記憶喪失で、本当の本当に()()記憶をなくしてしまった()()()()強い()()で、戦闘のセンスもなぜか()()()()()()()()()にあり、(見た目的には)()()でありながらそれを誇示することもない、ということであろう。

 本当に長い間訓練された諜報員という可能性もあるにはあるが、そうであるならミウはいったい何度殺されたかも分からないし、もう諦めたのである。

 ラガットから一度忠告されていたことから、もしかすると自分の判断は遅いものだったのであろうか、と勘ぐってしまったミウである。どちらかといえばミウの判断は比較的早いものであり、適応能力は高い部類だったのだがその判断は彼らにはできないため、ここでは論じない。


「……ふふ、ふふふふ……ふふっ……」

「あ、なんかいいことあったんすか? 俺も楽しかったんで、ミウさんがそんな風に笑ってくれたんならよかったっす」


 不気味にも思えるような様子で笑い出したミウに無邪気にも笑みを返したアースは無事に村へと帰り着き、結局ミウはラガットから朗らかな笑みを、アースは村の子供たちから話をせがまれるという名の包囲を受けた。

 ミウは諦念からの満面の笑みを、アースは困ったような優しい笑みを浮かべだ。

 そしてアースはふとミウとラガットに相談を持ちかける。






「俺、何が向いてるっすかね?」


 ミウは思わず喉元まで出かかった「戦闘に関するものなら間違いなく何でも」という言葉を飲み込み、子供たちが恐怖に半歩引いてしまうほどの笑みを浮かべたのだがそれはまた余計な話である。

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