ステータス
説明回?です。
どうやらアースは自分のことを探そうとしているようだった。正確には自分の手がかりになること、だが。
自分のステータスを表示しながら本を捲り、スキルや称号の確認をしていく。ラガットがアースの傍らを離れたのはある意味で当然のことで、さらに言うとラガットのさりげない優しさ・配慮だった。ラガットには気遣いができたし、アースにはそれに気付くだけの知識も一応あった。勝手に感じている恩義のために文句を言いたいようで言わないけれど。
さて、ここでアースことアルーダ・ルミスのステータスを閲覧してみよう。
「ステータス表示」
名前:アルーダ・ルミス
属性:無
種族:?????
年齢:?????
HP:1276
MP:4491
魔力:2524
固有スキル:
数値変化─セミオート─
神眼
特殊スキル:
加速度
異常耐性─小─
隠す者
等加速
ノーマルスキル:
基本魔法
白黒魔法
全剣術Lv89
回復加速
修復Lv44
称号:全剣士
賢者
神速
力任せ
調査人
秘密主義者
混沌を知る者
耐える者
刃物使い
まず、この世界にはスキル以外にLvシステムがない。ゆえに人は皆自分の力量を"魔力"の値から推し量る。ここで大事なのが、この"魔力"の値が単に"魔法行使能力"ではないということだ。
少なくとも、単純なそれではないことは確かである。最終的な決断と言うか判断は誰も下していないが、それだけは確かなのだ。よって大魔術師と呼ばれる魔法使いの"魔力値"が実は低かったり、魔法系統のスキルが基本的なもの以外からっきしな者でも"魔力値"がバカみたいに高かったりすることがある。
ゆえに実力を一定以上持つ者は"魔力値"を実力の指標とするが盲信はせず、ある程度の目安としてしか扱わない。弁えるのだ。また、この"魔力値"は一応偽ることが可能だ。例えばアースの持つスキルの一つ、隠す者。このスキルを使用すると常に微量のMP消費が発生すると共に、ステータスの隠蔽、偽造が可能になる。もちろんすべては実力次第なので、隠すことも暴かれることも何一つ確定的なことは言えないのだが。
次にHP、MPの値だ。アースはそれぞれ1276と4491という値を誇っている。これは、この世界でもかなりの水準にあると言える値だ。
基本的にHPとは生命力、MPとは魔法行使限界能力を指す。HPが高いほど相手はしぶとく、MPが高いほど相手は攻撃を止めることはない、ということになる。けれどここで問題になってくるのはそれ自身の値だ。アースのHPであるが、もちろんこれを上回る者は居る。竜種などは1000どころか100000以上持つものも居るのだ。大して珍しい値ではない。……だがそれは、"人間ではない"という前書きを持てばの話である。アースはすると、人間ではない可能性も否定できなくなる。
また、アースのMP値。これに至っては妖精などの魔獣類妖精種よりも高い値を誇っている。もちろんアースと同程度のMPを持ったものも居る。アースを越えるものも居る。けれどそれはやはり人間ではない。一説には大賢者という存在は人間の身でありながら、人族でありながら5000以上のMPを誇ったというが、それは伝説にすぎず確かめる術はない。やはりアースが人間ではない可能性は高いだろう。では何なのか、と言うともちろん答えは出ないのだが。
さらに問題があるのは属性、種族、年齢だろう。この世界では人は皆2属性をその身に宿す。宿す属性は水、大地、風、火炎、光、影のうちどれか二つ。伝説では闇という属性も存在するらしいが、もちろん確かめる術はない。ゆえにこの六属性が基本となる。
だが、アースの属性は"無"として表示されている。これは異常とも言えるだろう。魔力に属性がつかない。属性を帯びない魔力というものは、一流の魔法使いや冒険者になら使いこなすものも居る。けれどそれは技術の範囲であり、意識しなければ使うことはまず不可能。もとから無属性などあり得ないのだ。これは前例もないことである。この世界では例外なく皆属性を二つ持つ。この"属性"とは扱える属性というわけではない。命を構成する属性である。火炎のものは火炎により、大地のものは大地により、それぞれ命を構成する。そこから考えると、アースの命は何からも構成されていないということになってしまう。
年齢も種族も意味が分からないことになっている。アースの見た目は青年になるかならないか、人間の16才程度だ。もちろん獣人・魔人──人族、つまり人間ではないのにそれに似た形を取っているという侮蔑の意味で"亜人"とも呼ばれる種族──であればそういうこともある。が、アースは見た限り人間だ。もちろん擬態できるものは居る。けれどそれならアース自身が分からないわけがない。元冒険者のラガットが気付かないわけがない。異常なのだ、何もかも。
「……まともな情報がねぇな……」
ぽつりと呟いた言葉には多分に落胆が含まれていて、アースがこの本にどれだけの期待をしていたのかが分かるというものだろう。アースは自分のことを知りたかった。せめて、自分の家族や種族がどこにいるのか、誰がアースの仲間なのか。それを知りたかった。
「収穫はあったかい?」
「いや……ないっすね。結局、不思議なことが増えるばっかで」
その分爺さんへの感謝は増えたっすけどね、とアースはへらりとした笑みを見せた。
一通り読んだ本を閉じ、アースは首を振る。
「爺さんは、俺が人間でも獣人でも魔人でもないことを分かってながら、もしかしたらこの伝説の災厄みたいな奴かもしれないって思ってながら俺を助けてくれてるんすよね。……記憶のない俺にこんなに手を貸してくれて、ありがとうございます」
そして座ったままだが深々と頭を下げ、ラガットに感謝の意を示した。世話をしてもらっていることだけではなく、訳が分からない存在である自分を受け入れてもらっていることを含めて、アースは感謝をしていた。
ラガットには本来、アースの面倒を見る義理はなかった。村長であり、元冒険者の彼からすればアースは何かしらの良くないことの原因になりうるものであり、拒んでもいいものだったはずだ。それをアースに一度も見せることもなく、ラガットはこれまで丁寧に接してきた。
アースにはラガットのこれまでの言動が嘘だとは思えない。だから、だからこそ。
「……爺さん。俺、この村から出る」
迷惑は掛けらんないから、と言ってアースは微笑んだ。